89回 やって来たのを生かして帰すわけにもいかない 4
臨戦態勢に入ったゴブリン達は、指定された位置で待機を始める。
気を抜いてる者はいない。
既に何度も戦闘を繰り返してきた彼等は、戦場における楽観が悲惨な結果をもたらすと理解している。
それだけの事を経験してきていたし、それだけの事を教え込まれてきた。
そして、それらを守って生きてきた。
そうそう愚行をしでかすような者は既にない。
そんなゴブリン達からの報告を受けて、ユキヒコも次の手を考えていく。
とはいえ、あとはその時が来るのを待つしかない。
こちら側がやるべき事は既に済ませてるのだから。
あとは相手次第である。
(出来れば馬鹿の方がいいけど)
そうであるなら対処はしやすい。
何も考えずに行動してくるのだから。
しかし、もし頭を使う奴だったら面倒な事になる。
たかが10人と言えども侮れない。
勝つには勝てても、損害が大きくなる。
現状でそれは避けたかった。
何せ、兵隊が足りないのだから。
村や町を制圧する程度なら現状で充分である。
しかし、その程度で終わらせるつもりはない。
出来ればこの地域を制圧したい。
となると、現状の兵力では全然足りない。
総数1500のうち、使えるのは1000になるかならないか。
この程度の兵力では、地域の制圧など出来やしない。
戦闘をするだけなら充分かもしれないが、地域を制圧するとなると全く数が足りないのだ。
だから下手に減らすわけにはいかない。
出来るだけ損害を出さずに勝たねばならない。
既にそういう状況になっている。
だからこそ気がかりではあった。
たった10人の敵。
数は大した事はないが、能力はどうなのか?
手練れが集まってるならば、この数と言えども決して侮れない。
こちらが壊滅する事はないにしても、相当な損害を受けるかもしれない。
また、何より怖いのは取り逃がす事だ。
一人でも生き残ってこの場から離脱したら面倒な事になる。
確実に捕らえねばならない。
こうなると相手の能力や技量が気になってくる。
(何とかなるといいけど)
損失を出さず、しかも相手を確実に仕留める。
ここが悩みどころだった。
ただ、損失を恐れて動きが鈍くなるのも困る。
そういう時こそ損失が拡大し、最優先するべき目標を達成出来なくなる。
そうならないように、やるべき事はやらねばならない。
果断な行動が求められる。
(とにかく、全員仕留めないと)
これが絶対に譲れない最優先事項だった。
その上で、損害が少ないのが一番である。
だが、こればかりは状況次第である。
出たとこ任せになってしまう。
(まあ、なるようになるか)
色々考え、策を出し、指示を出していく。
そこまでやれば、このように開きなおるしかない。
結果がどうなるかはやってみなくては分からないのだ。
そこまでの責任は取りようがない。
取れない責任については、悩んでも仕方が無い。
ただ、人事を尽くすのみである。
天命がどうなるかは、天だけが知ってるのだ。
人の身でどうにかなるものではない。




