85回 領主と武家の、それぞれの娘 4
こうしてフユキは貴重な現場の情報をもたらす者ととらえられるようになった。
それは情報をもたらすユカリの存在を大きなものとしていった。
フユキの話し相手になる義勇兵はユカリしかいない。
そんなユカリの代わりになれるような者は存在しない。
フユキと話が出来るような境遇の義勇兵がそもそも少ないのだ。
必然的に重要性が上がるのも当然の結果だった。
その為、ユカリの懸念とその原因を探るための出動は貴族にも伝わる事になった。
言われてみればもっともな話であり、確かに気がかりな事であった。
調べてみれば出撃したまま帰還しない義勇兵はかなり多い。
それもここ最近で頻発している。
これは何かあってもおかしくないと誰もが思った。
加えて、最前線の拠点が音信不通になったこと。
それを調べに出向いた聖戦団が未帰還である事。
これらも不安を大きくしていく。
どちらもとてつもない大事件である。
それが短期間の間に起こったのだ。
不気味でしかない。
よからぬ何かが起こってるのではないかと思いもする。
ただ、調査をするにしても人が足りない。
魔族との戦争は続いており、兵員は常に不足している。
それを埋めるための義勇兵であるが、その義勇兵が最近は足りなくなっている。
それは慢性的なもので、既に日常的とすら言える事態だ。
なのだが、これに加えて先の二つの事件が起こってる。
拠点と聖戦団、これの穴埋めの為に義勇兵団も教会も忙しい。
その為、現在いつも以上の人手不足になっていた。
こんな状態で調査に人員を割く事など出来るわけがなかった。
こういった状況の為、この件についてはユカリに託すしかなくなっている。
出来るならば調査に更なる人員を派遣したいところである。
それが出来ない今、ユカリの帰還を待つしかなかった。
ただ、不穏なので敢えて口にするものはいなかったが、それを誰もが危惧していた。
出発したまま戻らなかった者達は多い。
ユカリもその中の一つになるのではないかと。
この予想や懸念については、誰もが外れるよう願っていた。




