82回 領主と武家の、それぞれの娘
ユカリとフユキ。
義勇兵と領主の娘。
そんな二人が接点を持ってるというのは意外な事であろう。
余程功績をあげた者が謁見の機会を得る事はあるにはある。
だが、そういう機会は滅多にない。
大半の義勇兵には無縁なものだった。
そしてユカリはそこまで大きな功績を挙げたというわけではない。
それなのに領主に娘であるフユキと接する機会があるのは尋常ではない。
これにはユカリの生まれが多少関わってくる。
義勇兵の大半は平民の出身が多い。
中には貧民だったという者もいる。
そうした者達が他に食い扶持もなく、あるいは数少ない出世を夢見てなるのが義勇兵というものだ。
しかし、中には例外もいる。
香奈月ユカリは例外の一つである。
彼女は平民や貧民ではなく、武家の生まれである。
そうした家に生まれた為に、幼い頃より様々な教養と武術を学んできた。
だが、それで身を立てられるのかというとそうでもない。
家督を継ぐのは長男である。
そして家業を請け負うのも長男である。
その兄弟は部屋住みの冷や飯食いとして家にいるのが通例である。
それが嫌なら、外に出て身を立てるしかない。
このあたりは庶民と同じである。
ただ、女となると外で身を立てる道も大きく狭まってしまう。
武家の場合これが顕著で、軍に入れるかどうかという問題になる。
通常、軍は女の入隊を好まない。
体力的にどうしても男に太刀打ち出来ないからだ。
そうでない例外もいるが、大多数は体力で不利なのはいなめない。
また、戦場に女がいると余計な気遣いをせねばならない場面も発生する。
このため、どうしても武家の花形である軍に入る事は難しい。
女軍人が必要な場面というのもあるし、その為の部署も存在はする。
なのだが、こういった所は定員が少なく採用の募集もほとんど出ない。
さりとて他に仕事があるかというと、やはりこれも少ない。
あるとすれば教会の聖戦団か、他の家の婦女の警護などに採用されるかどうかというところ。
縁談があればそのまま嫁入りという事もあるだろう。
だが、これらもやはり狭き門である。
嫁入りとなれば、それは家督相続をする長男が相手というのは通例だ。
そしてそんな地位にいる男子の数は限られている。
嫁の貰い手もそれほど多くはないのが現実である。
となると、残るは義勇兵となる。
余程の凶悪犯でも無い限りは経歴を問われないほぼ唯一の職である。
他に選択肢もなく、ユカリはこの道を選ぶことにした。
そのまま家に居ても良かったのだろうが、部屋住みの立場に甘んじるのを良しとは出来なかった。
幸いだったのは、同じような考えの者が他にもいた事だろう。
武家の娘で行き場所がなく、義勇兵を選んだ者はユカリだけではない。
義勇兵になってからはそうした者達のもとに身を寄せる事になった。
そのおかげで一人ぼっちで行動するという最悪の展開からは逃れる事が出来た。




