81回 疑問を抱く者は当然いるわけで 2
ユカリは最近の出来事に異常を感じていた。
行ったっきり帰ってこない義勇兵が増えている。
それ自体は珍しくもないが、数が多かった。
以前に比べればかなり増加している。
いきなりそこまで上昇するのはさすがにおかしなものだ。
そうなるだけの原因があり、それは決して良いことではない。
何かがあるのは確かだった。
それを確かめるに行くつもりだった。
しかし、ただ出発しただけではそれで終わってしまう。
ユカリ達が帰って来なくても、誰も不審には思わないだろう。
未帰還の義勇兵がまた増えただけになる。
なので、そうなった場合に備えてフユキに話をしていた。
自分達が戻ってこなければ、それの捜索などをしてくれと。
何より、未帰還が増えてる事への疑問や懸念を伝えて欲しいと。
見知った者達の間だけでも良い。
少しでも警戒をするよう頼みたかった。
効果がどれだけあるのか分からないが、一人でも多くが気にしてくれるようになればと思っていた。
何も意識してないのと、少しでも気にしてるのとでは大きな違いがある。
その為にフユキには少し頑張ってもらいたかった。
今までそうしてきたように。
それだけの存在感をフユキは持つようにもなっていた。
ユカリを通して現場の出来事や雰囲気を伝え続けてきたからだ。
それにより、貴族達に伝わってこなかった情報などがもたらされる事もあった。
下からの報告などは逐次上がってはいるのだが、全てが伝わるわけではない。
報告の段階で何を挙げるかを取捨されている。
そこで重要ではないと思われた事は省かれる事がある。
それ自体は良くあることだが、これにより詳細や重要な部分が漏れる事もある。
ユカリのもたらす話はそれを補う事があった。
それは決して大きなものでもないし、そう多いわけでもない。
だが、そうした事が何度かあれば、耳を傾ける者も出てくる。
今、フユキはユカリの話を伝える、現場の声を伝える貴重な情報源になりつつあった。
そうした存在になってきたからこそ、フユキの声に耳を傾ける者も出てくる。
ユカリはそれを期待していた。
この異常事態を誰かが見直してくれるかもしれないと。
多くの者が終わったと思ってるこの事態を。
大規模なゴブリンの襲撃をしのぎ、全てが終わったと思ってる者達に。
その為にもフユキに声をあげてもらいたかった。
それはフユキもやぶさかではない。
これまでユカリから聞いた話が問題になる事もあった。
貴重な情報を伝えてくる事もあった。
全てがそうではないが、それが問題の解決に繋がる事もあった。
今回もそうなる可能性はあった。
何よりフユキ自身もそれはおかしいと思っていた。
ただ、ユカリのお願いについては少しだけ修正をしておく事にした。
「でも、貴方たちが戻って来る前に伝えてもいいわよね」
頼み事を言い終えたユカリに、フユキはそう聞き返す。
「そうでないと、時間がかかりすぎると思うの」
「それもそうだな」
言われてユカリは苦笑した。
「なら決まりね。
あなたのお話、お父様にも伝えてみるわ。
他の方にも。
お友達にも」
「そうしてくれると助かる」
ユカリとしても異論は無い。
出来るだけ早いうちに、この事について知る者が増えてくれればその方が良い。
自分達が帰還するかどうかに関わらずだ。
生きて帰ってくれば自分達の口で説明をする。
それが出来ない場合に備えての保険のつもりでいた。
そこまでしか考えていなかった。
だが、フユキが自らあちこちで話をしてくれるというなら、それにこした事はない。
そこまでは求められないと思って、無意識にその手段を省いてしまっていたが。
「フユキから言ってくれると助かるよ」
「それは何よりね」
二人はそう言って再び笑いあった。




