80回 疑問を抱く者は当然いるわけで
「おかしいんだ」
義勇兵の香奈月ユカリは懸念を口にしていく。
「ここ最近連絡が取れない。
そんな所が多すぎる」
それ自体は珍しいものではないとは言える。
しかしゴブリンの襲撃があった直後だ。
それが不安を抱かせた。
「もしかしたら何かあったんじゃないか?」
そういう連想をしていた。
確証があるわけではない。
あくまでそう思ってるだけである。
だが、確信が無いからこそ不安を懐いてもいた。
分からないからこそ不安を懐くのだ。
「調べに行きたい」
だから彼女はそういう行動に出ようとしていた。
「そういう事……」
領主の娘である西柴フユキは、話を聞いてしばし口をつぐんだ。
ユカリの言ってる事を理解する為に。
言ってる事が分からないわけではないが、吸収するのに時間が必要だった。
意外というか予想外というか。
思ってもいなかった事を受け入れるというのには、それなりの努力が必要になる。
無意識に思い込んでいた事を受け入れるというのは、そういうものだ。
ただ、フユキは頭が硬いわけではない。
思ってもいなかった事であっても、無闇に退けるという事はしない。
そうする事で自らの視野を狭めてしまうと知っているからだ。
そういう教育を受けた賜である。
自分の思い込みの中だけで勝手に判断してはいけないという。
またそう知っているだけで留めないのがフユキの良き資質であろう。
知った事をを少しでも身につけようという姿勢。
それがフユキにはある。
これは分かっていても人にはなかなか出来ない事である。
だからフユキはユカリの言い分を素直に聞いていった。
「分かったわ。
それで私は何をすれば良いの?」
そう言って笑みを浮かべるフユキに、ユカリは苦笑する。
「まあ、どうしろと言うわけではない。
ただ、話を聞いて欲しくてな」
「本当に?」
今度は少しからかうように尋ねる。
お互い旧知の仲である。
相手の行動に何か意図があると察するくらいは出来る。
それだけにフユキはユカリが何かを求めてるのだろうと思っていた。
「まあ、それだけじゃないな」
こちらも砕けた態度で真意を伝える。
「もしかしたら帰って来れないかもしれない。
そうなった場合に、少し働きかけて欲しい」
「私に?」
「そうだ」
「出来る事なんてあるかしら?」
「あると思う。
フユキの立場ならな」
そう言ってため息を吐く。
「こんな事を頼みたくはないが」
「分かってますよ」
フユキは鷹揚な笑みを浮かべる。
「私じゃなければ出来ない事なんでしょう?」
「ああ、そうだ」
だからこそこうして話をもちかけた。
相手の立場を利用する為に。
それがフユキに申し訳ないと思いつつも。
「構わないわよ」
フユキは決してそれを不快に思わなかった。
「そうでないと駄目なんでしょう?」
「多分な」
領主の娘というのはそれなりの影響力はある。
その立場ならば何かを動かす事も出来るだろう。
それを期待してるのは確かだった。
「私たちが戻って来なかったら、その時は頼む」
「分かった、いつも通りにやればいいのね」
「そういう事。
今までしてきてくれたようにな」
そう言うと二人して笑みを浮かべていった。
ユカリの頼み事はこれが初めてではない。
よく話をするようになってから、フユキには色々と頼み事を持ち込んでいた。
もちろん、自分勝手な我が儘というわけではない。
義勇兵として得た情報など貴族達に伝えるためである。
通常では耳に入らないような情報をもたらすために。
その為の回線をフユキに担ってもらっている。
今回もそうした活動の一つである。




