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75回 相手の力をそぎ落とすため 7

 邪神官の指揮下にある部隊が動いていく。

 連絡役の少数を残し、大半が動いていく。

 この決定に驚く者や疑念を抱く者はいた。

 しかし、それらも邪神官の決定を覆そうとはしなかった。

 決まった事だし、危険は当たり前なのが軍隊である。

 死ぬ事を恐れてばかりはいられない。

 少しでも好機があるならそれに乗るのもやぶさかではない。

 覚悟と言えるそういった考えが彼等を前線に向かわせていく。



 そうしていく一方で、邪神官は更に後方にいる上位の司令部に一報を入れる。

 自分らがこれらか何をするのかを。

 そして、場合によっては更なる増援を頼むであろう事を。

 勝利をより確定的なものとする為に。

 総勢1500になる軍勢と言えども、今後の事を考えると心許ない。

 それくらい狙う所は高く大きい。

 一人でも多くの兵隊が必要になる。

 それを賄う為に、より大きな部隊投入が求められていた。

 その為の使者である。

 さすがに動いてくれるとは思ってはいない。

 しかし、万が一の可能性を考えての伝令である。

 上手くいけば儲けもの。

 また、自分達の行動を報告する必要がある。

 指揮下の部隊を動かす権限は邪神官にあるが、だからと言って何も言わずに事を進めるわけにはいかない。

 隠密性が必要とされるならともかく、そうでないならば現状を伝えねばならない。

 組織が組織として動くために必要な事だ。

 その義務を果たさねばならなかった。



 邪神官率いる本隊は、途中に待機していた案内に導かれていく。

 道に迷うことなく進む彼らは、思った以上に楽にユキヒコ達と合流する。

 その頃には町も制圧され、その中は悲惨な事になっていた。

 まともに動けなくされた体を持つ男と老人。

 ゴブリンに襲われてる女達。

 醜悪極まりない光景がそこにあった。

 また、男と老人達は食事もろくに与えられていない。

 虐げられた体と相まって、まともに動く事が出来なくなっている。

「これは……」

「ここまで……」

 邪神官とイビルエルフはそれだけ漏らして絶句した。

 彼等とて敵に容赦をするほど甘くはない。

 下手に情けをかけたら仇になって返ってくるのが分かっている。

 なので敵であれば一切の情けをかけずに殲滅する。

 捕らえた敵を躊躇わずに処刑もする。

 配下の略奪や強奪、陵辱なども黙認している。

 どのみち敵から物資を奪わねばならないし、敵対してる者達に損害を与えられるのだから問題ではない。

 だが、そんな彼等であっても全く情が無いわけではない。



 あくまで敵だから殲滅せねばならないと考えてるだけだ。

 これが同胞や仲間であれば相応の情けを示しはする。

 喜怒哀楽の感情だってある。

 様々な倫理や道徳といった規範だって心得ている。

 そうでなければ社会を形成する事など出来ない。

 そんな彼等が邪神官やイビル(悪)エルフと呼ばれるのは、それが敵対する女神側からの視点によるものだからだ。

 実際に彼等が悪逆非道なのかというとそういうわけではない。

 邪神官やイビルエルフ達からすれば、女神の方が許すべからず悪である。

 これはどちらかというと立場の違いによって善悪と言ってるだけにすぎない。

 本来あるべき善悪とは全く関わりがない。

 だからこそ、二人にはユキヒコが生み出した景色に絶句してしまう。



 敵であるから殲滅はする。

 しかし、そこには多少の情けはある。

 対立してる以上、それが決して相容れぬものであるから妥協は発生しない。

 しかし、苦しみを長引かせようという程悪辣にもなれない。

 どうせ殺し合うしかないなら、せめて苦しみが長引かないようにという程度には感情が働く。

 その為、捕らえた者達への拷問や虐待などは基本的に控える。

 相手から情報を吐かせたり、自分達の受けた損失や損害があまりにも大きい場合の報復などの場合はともかく。

 加虐的な性格の者もいるが、そうでなければ苦しみを長引かせようとはしない。

 痛みや苦しみが長く続かないように止めを刺す────この程度の情けはかける。

 また、そうする場合にも躊躇いや後悔を抱く者はいる。

 喜びむせぶような性質・性格の者はそう多くはなかった。

 ゴブリンなどはこれを好んで行うが、それは自分達の優位性を確かめたいという心理が働く為だ。

 他の種族に比べて圧倒的に弱いゴブリン。

 そんなゴブリンが相手を倒し、自分の優位性を確かめる。

 自分が相手に負けない、蹴散らされたりしないというのを確かめたい。

 全ては弱さに起因する。

 残虐な事を行うのはこれが理由である場合が多い。

 しかし。

 目の前にあるのはそういったものとは違う何かだった。



 虐待を楽しんでる……というのもあるかもしれない。

 痛めつけるのを目的としてるのかもしれない。

 しかし、それ以上に冷徹な何かがあるように感じられた。

 何せ痛めつけられてる者達は全員一様に同じ処置がされている。

 手足を片方ずつ潰してまともな動きが出来ないようにされている。

 食事も与えられず衰弱させられている。

 それ以外にも細かな違いはあるが、そんな中でこの処置だけは徹底している。

 そして、全ての者達が共通に施されている。

 それがある意味おぞましさを感じさせもした。

 これらが、偶然行われたものではない事を、意図的にされたという事実を示してくる。

 戦場の興奮や狂気によって行われたものではないと。

 そう意図して行われた理性的な行為なのだと。



 その理由をユキヒコに聞いた邪神官とイビルエルフは、そこで再び絶句した。

 彼等が感じた通り、加えられた虐待は意図したものだと聞いて。

 それを敵に押しつけて負担を強いるための手段であると。

 相手の戦力を削り、まともな対応が出来なくするための作戦だと。

 そこまでするのか、と思った。

 そこまでやらねばならないのか、とも思った。

 何がそこまでさせるのかとも。

 およそ人間らしさというものを感じさせない何かを感じた。

 衝動的に行われるゴブリンの残忍さすら小さなものだと思わせた。

 あくまで勝つためだけに行われる非道さ。

 そして、これを非道だと分かっていながら実行出来る冷徹さ。

 これらが何よりも恐ろしく感じられた。

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