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69回 相手の力をそぎ落とすため

「これからお前達を解放してやる」

 その声を聞いた時、村の者達は何を言ってるのか分からなかった。

 ろくに食事もとれず、痛む体を癒す事も出来ず、疲労困憊だったせいもある。

 だが、何より大きいのは生きて解放されるというのが信じられなかったからだ。

 捕らえられてからずっと、負傷の治療もされず放り出されてたので。

 死なない程度に食事などは与えられていたが、それも満足な量が出ていたわけではない。

 当然体力も衰え、腹は常に空きっぱなし。

 なまじ生きていけるだけの分量があったので、苦痛は嫌でも長引いてしまった。

 そんな状況での事である。

 言葉を額面通りに受け取れないのも無理はない。



 しかし、それが本当である事を村の者達は身をもって知る事になる。

 今までよりは多目に(それでも普段食べていた量には及ばないが)出された食事。

 それを食べ終われば町に向かう方向に追い出される。

「行け。

 出ないと殺す」

 言われて誰もが不審そうに互いに見つめあう。

 このまま逃がしてくれるのならばありがたい。

 しかし、本当にこのまま逃がしてくれるのか?

 不安がどうしてもぬぐえない。

 だが、意を決して誰かが町の方へと歩き出す。

 それを見て、他の者も続く。

 やがて村の者達が全員動きだしていく。

 後ろから襲われないかと時折振り向きながら。

 幸いな事にゴブリン達が襲ってくる気配は無い。

 それが分かった村人達は急いで町へと向かっていく。

 とはいえ、折れたまま碌な治療も受けてない手足は満足に動いてくれない。

 互いに肩を組みながら、あるいは見つけた木の枝を杖にして進んでいく。

 今までだったら難なく出来た事が全く出来ないもどかしさを感じた。

 それでも彼等は歩いていく。

 おぞましい出来事のあった場所から逃れる為に。



 何より彼等は、自分達に起こった出来事を伝えようとしていた。

 ゴブリンが襲って来た事。

 それを率いる人間がいる事。

 女がさらわれた事。

 とにかく起こった様々な事を伝え、討伐をしてもらおうと。

 それが彼等がせねばならない事だった。

 彼等が出来る唯一の事でもある。

 とにかくこの状態を放置は出来ない。

 ゴブリンを野放しにする事になる。

 それはもっと大きな問題につながりそうな気がしていた。

(早くこの事を領主に報せなければ)

 子供はともかく、大人の大半はそう考えていた。



 だが、町はとてもそんな対応が出来る状態ではなかった。

 流れ込んで来る怪我を負った者達を収容するのに忙しくなった為だ。

 何せ一度に数十人の人間が流れ込んで来るのだ。

 それも複数の村から。

 それだけで町は大混乱になる。

 何せ人口800人ほどの規模だ。

 そんな所に、あわせて300人といった人数が入り込んでくる。

 混乱しない方が無理というもの。

 かといってそれらを追い出すわけにもいかない。

 この地域の領民であるし、全員が酷い怪我を負っている。

 それらを放置出来るほど町の人間は冷淡ではなかった。

 あるいは、合理性を持ち合わせていなかった。

 すぐさま収容し、怪我人の看病にあたっていく。

 ただ、数が余りにも多いので即座に対応が出来ない。

 まして町の大きさからして、一度にこれだけの人数を受け入れる事が出来る場所がない。

 町の中心となってる広場は埋め尽くされ、それだけでは足りずに道にも人が横たわるありさまだ。



 おかげで町は一気に手狭になっていった。

 そこかしこに人があふれ、道を通るのも一苦労になる。

 しかも一様に衰弱していて、すぐに食事が必要な状態だ。

 すぐに炊き出しなどが始まる。

 特に教会は率先してこれらの救助にあたっていった。

 彼等の教義が怪我人であり住処を追い出された者達を放置させなかった。

 献身的に尽くすその姿に、多くの者達が感動した。

 救いの手をさしのべる慈悲深さに。

 同時に、このような事をしでかした者達への怒りがつのっていく。

(こんな酷い事を)

 誰もがそう思った。

 早速逃げてきた者達への聴取が始まり、事情を聞いていく。

 村人達は正直に話していった。

 何があったのか、自分達に何が起こったのかを。

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