66回 本隊、行動開始
置いてきたゴブリン達には、一応色々と言い含めておいた。
何を襲い、何を奪うかは自由。
自分達で決めればいい。
奪ったものをどうしようと自由。
こちらに持ってくる必要はない。
さらった人間をどうしようと自由。
いつも通りに男を殺し、女は犯せばいい。
そして、女をこちらに持ってきて上納する必要もない。
全ては自分達の好きにしろと。
それを聞いたゴブリン達は歓声をあげて喜んだ。
そんなゴブリン達を置いて帰還するユキヒコとグゴガ・ル。
置いてきたゴブリン達に寄せる思いはない。
何をしようとどうなろうと、もう関係のない事だった。
せいぜい、これからこちらの邪魔にならないよう願うだけ。
これからより重要な作業が待ってるのだから。
一旦戻ったユキヒコ達は、あらためて本命の作業に取りかかっていく。
それらは、先に引率していったゴブリン達と並行して進められていた。
既にかなり進行しており、いつでも作業に取りかかれるようになっていた。
そんなゴブリンを率いて、ユキヒコは行動を開始していく。
「それじゃ始めよう」
先に引率していったゴブリン達とは別方面。
距離としてはかなり離れている地域。
そこに集まったゴブリン、総勢400。
これらがユキヒコの声で動き出す。
先んじて調べておいた襲撃対象へと向かう。
夜陰にまぎれて動くそれらは、着実に人間の村へと進んでいく。
到着したゴブリン達は、村を包囲するように展開すると、即座に襲いかかっていった。
防壁は梯子で登り、内部に入った者達は門を開いていく。
そこから内部に入り込んだゴブリン達は、やりたい放題に襲いかかっていく。
即座に対応出来たのはわずかな不寝番だけ。
それすらもゴブリン達が放った弓矢や投石で沈黙していく。
それ以外の村人がどうなったかは言うまでもない。
皆、寝込みを襲われていく。
男は手足を砕かれ、女は生け捕りにされて縛り上げられていく。
いずれも悲惨な状態にされているが、死亡者はほとんどいない。
男はまともに動けないよう手足を潰されてるが、女の方はさほど傷を負ってない。
ひっかき傷や打撲は受けてもせいぜいその程度だ。
このため、襲撃にあった村にしては、生存者が多い。
それが良い兆候という事は無かったが。
「指示通りだな」
集められた村の者達を見て、ユキヒコは安心した。
事前に指示は題していたが、果たしてどこまで従うか不安だった。
だが、思ったよりもゴブリン達は理性的で、殺さず生け捕りにしろという言いつけを守ってくれた。
衝動的に行動すると思いがちなゴブリンにしては意外であった。
例えゴブリンでなくても、血が高ぶれば前後の見境が無くなるのも珍しくない。
言いつけを忘れて血なまぐさい事をしでかす者も出てくるだろうと思っていた。
(助かる)
素直にありがたいと思った。
おかげで今後の策につなげる事が出来る。
「よし、それじゃお楽しみだ。
男共をしっかり縛り上げたなら、好きにして良いぞ」
村の広場に集めた村の者とゴブリン達。
それらに向けて宣言する。
何はなくとも今夜の作業は終わった。
見張りに出てる者達以外の者達には褒美を与えねばならない。
折角獲物が目の前にあるのだ。
それを我慢しろというのは酷な話だ。
「たっぷり楽しめ」
その声にゴブリン達は歓声をあげた。
村の者達の悲鳴は、それにかき消された。
やる事は決まっている。
捕らえた女を囲んで、欲望を発散する。
それ以外に楽しみなんてあるわけがない。
それを村の男共の前で行っていく。
それを男は憤怒の顔で眺めさせられる。
女は、自分に襲いかかってくる数人のゴブリンに狂乱していく。
怒りと絶望が渦巻くなか、狂気の宴は始まっていった。
そんなゴブリン達から離れ、ユキヒコは周囲を見渡していく。
強化された感覚で周囲を伺う為だ。
一応、村の中の探索をして、隠れてる者がいないかは確かめてある。
村を包囲するようにゴブリンを配置して、村から脱出、あるいは外から侵入しようとする者がいないかどうかは確かめさせている。
しかし、それでも見落としや隙間というのは発生する。
ゴブリンでなくても、こうした事では抜けや漏れというのは出てきてしまう。
それをユキヒコは自らの能力で補っていた。
ゴブリンを信用してないわけではない。
念のため、万が一に備えてである。
幸い、懸念するような異常は無い。
村の出来事は村の中で完結してる。
外に漏れる事も、外から救援が入る事も無さそうだった。
もっとも、騒ぎを聞きつけた誰かがやってくる可能性はある。
だが、それもユキヒコの目と耳と感覚が届く範囲には無さそうだった。
それを確かめたところで、ユキヒコは目に付いた顔なじみへと向かっていく。




