65回 ゴブリン、襲撃する 6
「これで全部かな?」
「たぶんな」
途中で合流したグゴガ・ルが答える。
他のゴブリン達による家屋の制圧は粗方終わっている。
わずかだが死亡者も出たし、怪我人はもっと多い。
それでも成功に終わった。
「男は始末してる」
「女は?」
「運び出しの準備中だ」
そう言って運ばれてる者達を指す。
月と星と松明の明かりの中で、猿轡を噛まされ手足を縛られてる女達が担がれていた。
それらが村にあった台車に乗せられ、外に運び出されていく。
「何回か行ったり来たりする事になる」
「しょうがないな、それは」
ゴブリン全員が頑張っても、そう簡単には終わらない。
なんだかんだで村民も数十人はいる。
その中から女だけ選んでも、運び出す対象は20人にはなるだろう。
どうしたって時間はかかってしまう。
「男は止めを刺したがな」
「そっちの始末もしておきたいところだね」
敵に発見されたら面倒な事になる。
出来れば隠しておきたい。
見つからなければ見つからないで問題はなるだろう。
だが、それでも初動を少しは遅らせる事が出来るかもしれない。
その為にも、多少は手間をかけておきたいものだった。
だが、何せ人手も時間も足りない。
「諦めるしかねえな、こればっかりは」
「必要なものだけは運び出せるようにしておきたいが……」
それもどうなるか分からない。
すぐに露見するとは思わないが、それでも作業は手短に済ませたい。
目撃の可能性がその分減る。
なのだが、そう簡単に出来るわけもない。
「食料と、出来れば道具。
どうにか手に入れておきたい」
「確かにな。
でも、それはこいつらに任せよう」
そう言って周りのゴブリンに目を向ける。
「これからはこいつらが全部やっていかなくちゃならんのだから」
「……確かにな」
ユキヒコの言葉にグゴガ・ルも頷く。
この方面の事は、ここに連れてきたゴブリン共に任せるつもりでいる。
なので、あらゆる事はここにいる連中だけで片付けねばならない。
やり方についてはある程度教えてるのだし、あとはここにいる連中で処理する必要がある。
一々ユキヒコ達が口を挟む筋合いではない。
それに、
(どうせ……)
(言う必要もないか)
胸に浮かんだ本音は口に出さず、二人は放置を決め込んだ。
どうせ、こいつらにそこまで求めてないのだから。
敢えて何も言う必要は無い。
警告や注意など。
むしろ、そうしておかない方が都合が良かった。
(見つかった方が助かるし)
そんなユキヒコの本音は、ついぞ表に出る事はなかった。
落ちこぼれのゴブリンが村を襲撃した翌日。
駐留拠点は盛大な宴を催す事となった。
村から運び出した食料のおかげで食う物に困らない。
また、連れてきた女があるので遊びに困る事もない。
早速ゴブリン達は享楽に耽り始めた。
ユキヒコや引率のゴブリン達はそれを放置していた。
止めるつもりは全く無い。
後先考えずに耽るならそれも良いと思っていた。
ゴブリン達の哄笑と、女達の悲鳴が混じる中で、ユキヒコはそう考えていた。
「後の事はこいつらに任せよう」
「それはそうだけど……」
さすがにグゴガ・ルは苦言を呈しても良いのではと思った。
しかし、ユキヒコは首を横に振る。
「放っておこう。
俺達がどうこうする理由は無い」
「それはそうだが」
「あとはこいつら次第だ」
好きなだけ遊ぶのも良い。
勤勉に襲撃に励むのも良い。
どちらを選ぶかはここにいる者達次第だ。
「後はこいつらに任せよう。
もう俺達の仕事じゃない」
引率の仕事もここまでである。
必要な面倒は充分に見たのだ。
関わる必要は、もう無い。
「分かってるがなあ……」
それでもグゴガ・ルは、若干の未練を残してしまう。
なんだかんだで同胞だ。
そう簡単に割り切る事は出来なかった。
これが今生の別れかと思おうと。
それでもユキヒコとグゴガ・ルを含めた引率者達はこの場から去っていく。
やらねばならない仕事はあるし、こちらにかまけてる場合ではない。
挨拶もそこそこにこの場を離れていく。
携わらなければならない仕事は他にある。
ここの事は、もうここにいる連中に任せるしかないのだ。
「……せいぜい頑張ってくれれば」
帰る途中、置いてきたゴブリン達について少しだけ呟く事はあった。
「敵を少しでも引きつけてくれりゃあいいけど」
それこそ、祈る気持ちで漏らした。
落ちこぼれゴブリン達が、囮としてちゃんと機能するようにと願いながら。




