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64回 ゴブリン、襲撃する 5

 三人兄弟は隙を突いて土塁まで走っていく。

 我に返ったゴブリンもその後ろにつくが、距離が縮まる事はない。

 ゴブリン達よりも三人の方が足が速い。

 おかげで家を囲んでいた連中を振り切る事は出来た。



 しかし、ゴブリンはそれだけではない。

 村の中にはおびただしい数が存在していた。

 どこからこれだけやってきたと思ってしまう。

 それでも三人は長女を先頭にして走っていく。

 ゴブリンが立ちふさがる事もあったが、長女の手斧や長男の鉈がそれらを退けた。

 幸いにも邪魔をするゴブリンはそれほど多くはない。

 村の中に侵入したのは確かに多いが、全てが三人に向かってるわけではない。

 多くはあちこちの家で略奪などに忙しい。

 外に出ているゴブリンの数も多いが、三人のいる場所にかたまってるわけではない。

 ざっと見渡せば確かに数は多いが、あちこちに分散はしている。

 おかげで逃げ出す隙が少しはあった。

 三人の家が村の外れ沿いにあったのも幸いした。

 そこまでやってきてるゴブリンの数は少ない。

 おかげで一度に相手をするゴブリンの数は少ない。

 他からやってくればその限りではないが、それまでわずかだが猶予がある。

「急いで!」

 長女の声に、弟と妹も素直に従う。

 姉のあとをついて土塁へと向かっていく。



「はい、残念」

 そんな三人の横から突進したユキヒコが、その足を止める。

 手にした棒をまず長女の足に絡ませる。

 勢い余って長女が転んだ。

 続いて鉈を持つ長男の足を蹴る。

 足払いのように放たれたそれは、長男を地面に転がした。

 最後、包丁を持った妹の腕を掴みひねって倒す。

 間接を極められる形になった妹は、包丁を落として動きを封じられた。

 三人の逃走は、そこで終幕を迎えた。



「おーい、これ」

 近づいて来たゴブリンに、取り押さえていた妹を放り出す。

 それを受け取ったゴブリン達は、嬉しそうな顔をしてその場で事に及んでいく。

 それを見る事もなくユキヒコは刀を抜いて他の二人に向かっていく。

 既に立ち上がっていた長男の方は、襲われてる妹を見ていたが、少しの躊躇のあと村の外へと向かっていった。

 姉である長女に言われていた事を思い出したのだろう。

 絶対に振り返らずに村の外、町へと向かえと。

 実際、長男にこの状況を打破する力は無い。

 ゴブリン数匹はともかく、自分を蹴りころがした相手がいるのだ。

 それを退ける事など出来ない。

 仕方なく長男はその場を後にしようとした。

 だが、それよりも早くユキヒコがおいつき、手にした刀で切りつける。

 その一撃で長男は致命傷を受けた。

 即死ではないが、助かる見込みはない。

 地面に倒れて、そのまま死を待つ事となった。

 そんな長男を放って、ユキヒコは最後の一人へと向かっていく。



 棒を足に挟み込まれた長女は、それでも立ち上がると後ろも見ずに土塁へと向かっていった。

 弟と妹は心配だが、構ってる余裕は無い。

 ここで逃げ無ければもう後がない。

 そう思っての事だった。

 何せ、ゴブリン以外の誰かがいる。

 そいつがどれ程危険なのか分からないが、ゴブリンよりも脅威だと思った。

 だから急いで逃げ出した。

 ここで捕まったらどうなるかは予想がつく。

 魔族のやる事、特にゴブリンが行う略奪が起こるとどうなるかは聞いている。

 男であっても女であっても悲惨な目にあう。

 男の方はなぶり者にされ、苦痛の中で死んでいく。

 女はなぶり者にされ、苦痛の中で生きていく。

 どちらであっても苦しみもがくのは変わらない。

 そんな事態が目の前に迫っていた。

「いや……」

 か細く、かすれるような、隙間からかすかの漏れたような声が出る。

 その声が空気の中に消えていく中で、長女は背後から迫ったユキヒコに捕らえられた。

「はいはい、暴れるなって」

 ゴブリンとは違う滑らかな声。

 それを聞いて長女は顔を向ける。

 そこには夜の暗がりでもはっきりとゴブリンとは違う人影が見えた。



「人……?」

「ああ、そうだな。

 人間だ。

 ゴブリンじゃない」

 相手の疑問に律儀に答えていく。

 だが、だからと言って長女を解放するわけではない。

 むしろゴブリンの方へと連れていく。

「なんで、放して!

 ゴブリンが、ゴブリンが!」

「そうだよ」

 慌てて暴れる長女を拘束しながらゴブリンの所へと向かっていく。

「だって、俺はあいつらの味方だもん」

 長女の動きが止まった。

 ユキヒコの言葉に凍り付いた。

「…………え、なに?」

「だから、俺はゴブリンの味方。

 お前は敵」

 言ってる意味が分からなかった。

 人間とゴブリンは敵同士というのが長女の持ってる常識だった。

 なのになぜゴブリンが味方だというのか?

 その意味が分からなかった。

 分かったところでどうにもなるわけではないが。

「そういうわけだから、あいつらの所に戻ろうね」

 捕らえられ、連れ去られるのは変わらない。

 それをやってるのが人間かゴブリンかの違いである。

「……なんで、なんでよ」

「何が?」

「どうしてゴブリンなんかに……」

 そこから先は言葉にならなかった。

 頭の中で様々な言葉が渦巻き、何を言えばいいのか分からなくなってしまった。

 その為質問は質問と言えないような漠然としたものになってしまう。

 ただ、ユキヒコはそんな長女に応えていく。

「そりゃあ決まってるだろ」

「…………?」

「お前らが女神なんか拝んでるからじゃねえか?」

 訳が分からなかった。

 どういう意味なのかさっぱりわからない。

 疑問はますます深まる。

 しかし、それについて考えてる時間はもう無い。

「おーい、こいつも持ってけー」

 妙に脳天気な声と共に放り出される。

 その先にいたゴブリン達が長女を受け取った。

「…………いやあああああああああ!」

 絶叫が夜空に響き渡った。

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