62回 ゴブリン、襲撃する 3
この村は本当に小さなものだった。
戸数でいうなら10軒程度。
村長や小さな礼拝所すらもないような所だった。
田畑の耕作の為に、元になる村から別れた形で出来た集まりだった。
それだけに防備や警戒も手薄だった。
前線に近いこの辺りは、襲撃を警戒してそれなりの備えはしている。
しかし、この規模だとそれも難しい。
夜中の見張りを立てる事すら困難な程に。
それをするだけの人がいないのだ。
万が一に備えて駐留する義勇兵すらもいない。
あるのは、村を囲むように作った堀と、掘った土を盛り上げた土塁くらい。
それとて、完全に敵を阻むほどではない。
底がそれほど深くもない堀は簡単に降りる事が出来る。
そこから土塁をよじ登る事も不可能ではない。
多少進軍を遅らせる事は出来ても、遮る事は出来ない。
それでもこの村が今まで無事だったのは、ここまで踏み込んでくる魔族がいなかったからだ。
それくらいには前線から離れてはいた。
それが崩れた今、村が無事で済む事はない。
棍棒を手にしたゴブリンが堀に飛び込み、土塁をよじ登っていく。
その向こう側に入り込んだゴブリン達は、次々に家を襲撃していく。
手にした棍棒で雨戸などを叩いていく。
比較的弱いそれらは、棍棒の打撃を連続して受けて粉砕されていく。
突破口を得たそこにゴブリンは殺到し、次々に中に入っていく。
家の中は阿鼻叫喚の惨事が展開されていった。
その音で他の家も異変に気づいていく。
何事かと雨戸を少し開いて外の様子を伺う者達もいた。
そこに松明を掲げたゴブリンの姿を見て、何が起こってるのかをすぐに悟っていく。
だが、分かったとて何が出来るわけでもない。
逃げだそうにもゴブリンは全ての家に襲いかかってくる。
そんな余裕などない。
対抗しようにも、さすがに100人のゴブリンに対抗するのは難しい。
村民全員が立ち上がればどうにかなるかもしれないが、家の中にいた事が災いした。
家族毎に家にいたので、村民は分断された形になってしまっていた。
このため、戦力が自然に分散される形になってしまっている。
いくらゴブリン相手であっても、群がってるゴブリンに向かっていけるわけではない。
また、家族全員が戦えるわけでもない。
祖父母に父母、更に子供達という家族構成の中で、戦力として期待できるのは父母と年長の子供であろう。
その数は一家族3人から4人といったところか。
老衰した祖母や、幼児だったり赤子である子供は当然戦力にはならない。
それだけの人数で家の外に出ていっても、ゴブリンの群れに押しつぶされるだけである。
数の優位だけを用いたゴブリン達は、押し入った家で狼藉を始めていく。
最も危険な戦力である男に群がっていく。
手足に飛びかかり、動けなくしたところで手足や頭を叩き潰していく。
本当に潰してしまう必要は無い。
まともに動かなくなれば良いのだ。
何回か手足を棍棒で打ち据えればそれを達成出来る。
それからゴブリン達は家の中にいる他の者達に狙いをつけていく。
残ってるのは祖父母か子供。
比較的簡単に倒せる相手だ。
もっとも驚異的な成人男性を倒したあと、ゴブリン達は次の獲物へと向かっていく。
また、何人かは室内を物色していく。
金目のものを奪う……というわけではない。
ゴブリンにそんなものは意味がない。
金銭などあっても使う場所がないのだから。
また、もっと実用的な食料などを物色するのでもない。
興味はあったが、それは後で手に入れれば良い。
そうではなく、今ここで必要なものを見つけにいく。
それは応戦してきた者が握ってる事もある。
台所や道具箱に入ってることもある。
一人一人の帯に挟まれてる事もある。
ナイフや包丁、鉈に斧。
そういった生活用の道具にして戦闘に使えるもの。
それら手にしていく。
そして、倒れて一時的に戦闘力を失った者にとどめをさしていく。
鋭利な刃物は棍棒よりも簡単に生命を奪っていける。
こうしてゴブリン達は、最も脅威となる存在の排除に成功していった。
それが終わればあとは簡単だ。
残ったのは女子供。
そのうち男は邪魔になるので早々に倒していく。
新たに手に入れた刃物なども助けになる。
場合によっては相手がナイフや鉈などを持ってる事もある。
そうした場合は少しばかり面倒にはなる。
だが、数で押せばたいていはどうにかなる。
狭い家の中でも、一斉に襲いかかればどうにかなる。
そうなれば、あとはゴブリンの優勢に傾く。
能力の低いゴブリンと言えども、さすがに子供相手ならば遅れは取らない。
衰えた老人もだ。
そうした者達をゴブリンは次々に片付けていった。




