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60回 ゴブリン、襲撃する

「それじゃ、行ってくる」

 準備のととのったところで、ユキヒコは出発していく。

 道案内役のゴブリン数人と、敵地での作業を任せる連中を伴って。

 見送る邪神官とイビルエルフは、

「気をつけろよ」

と声をかける。

 多分に形式的なものだが、無いよりは良い。

 一応それなりに心配もしている。

 それを読み取り、ユキヒコは自然と表情がゆるんでいった。

「こいつらを案内するだけだ。

 そんなに難しいもんじゃないよ」

「それはそうだけどな」

 作戦行動地域に出向いたら、ユキヒコと道案内のゴブリンは引き返してくる。

 そういう予定なので、危険はそれほど大きくは無い。

「それでも一応な」

「そう言ってくれるとありがたい」

 無事の帰還を望む声に、素直に感謝をする。



 連れていくのは、100人ほどのゴブリン。

 いずれも規律を守れずに落ちこぼれた連中だ。

 もともとそれなりの数がいたが、ここ最近は特に増えた。

 邪神官らの配下にいた連中から流れ込んで来た者が多いからだ。

 ユキヒコのやった成果を見て、邪神官らも真似をし始めた為だ。

 おかげで、ゴブリン全体の質は上がったが、ついてこれない者が出てきた。

 その中でも特にどうしようもない連中である。

 時間をかけてもまともなゴブリン達の所に復帰できなかった者達だ。

 それらをまとめてユキヒコは率いていく。



 ついていく連中は、実に生き生きとしていた。

 何せこれから略奪を行う事が出来る。

 欲しい物を奪うことが出来る。

 その事がゴブリンを奮い立たせていた。

 何より、好き放題いたぶれる。

 自分の持ってる残虐性を満たす事が出来る。

 その事にゴブリン達はまだかまだかという期待を高めていった。



 そこに、自分達が返り討ちにあう可能性などない。

 そんな事を考える者はいない。

 そこまで頭が回らない程に能力が低いのだ。

 そもそも、危険を考える思考というものもない。

 危機感がない。

 失敗する可能性を思い浮かべる事が出来ない。

 そういう発想がそもそも欠けている。

 だから彼等はどこまでも自分に都合の良いことを考えていた。

 奪った飯で腹が膨れるまで食べよう。

 奪った物で今までよりも楽な事をしよう。

 奪った女でしこたま楽しもう。

 そんな事ばかりを考えていた。



 それもやむをえないのかもしれない。

 ゴブリンは脆弱である。

 まともに自分の能力と行うべき事項を照らし合わせたら、絶望しか残らない。

 普通にやればまず間違いなく失敗する。

 様々な手順や手法を駆使しなければならないが、それらをこなす能力がない。

 どう考えても失敗の危険性が高くなってしまう。

 それを自覚するのが怖くて出来ない。

 失敗して惨めな姿をさらす自分を想像したくない。

 それがたまたまならば良いだろう。

 いずれは問題を解決し、困難を超えていけるならば良い。

 だが、その可能性が低い。

 限り無くゼロに近い。

 そう自覚したらやってられなくなる。

 あらゆる努力が無駄だと突きつけられるのだから。

 それを無意識に自覚してるから、困難から目を背けるのかもしれない。

 努めて都合の良いことだけ考えるのかもしれない。

 無駄に楽観的になるのかもしれない。



 そうやって勢いをつけないと、何にも挑戦する事が出来なくなる。

 計画段階で全てを諦めるしかなくなる。

 だからゴブリンは、最初の勢いのままに物事を進めるしかない。

 でなければ何も成し遂げられない。

 そもそも、やるべき事に着手する事すら出来ない。



 また、だからこそちょっとした躓きですぐに諦めてしまう。

 全てが無駄だったと思ってしまう。

 もともと駄目だ無駄だと思ってるから、少しでも手間取ればそれで諦めてしまう。

 最初の勢いを失ってしまう。

 後先の事を考えないのは、そんなゴブリン達が何かをやるために必要な機能なのかもしれない。



 とはいえ、その脳天気さにユキヒコは辟易としてしまう。

 こんなんで本当に大丈夫なのかと。

 同時にそんな事を考えてどうするのかと考えなおす。

 ここにいるゴブリン達がどうなろうと、そんな事考える必要などない。

 やるべき事をやってくれるなら、ゴブリン達がどうなろうと知った事ではなかった。

 ただ、そうさせるために、最初の段階ではある程度誘導しなくてはいけない。

 上手く襲撃などを成功に終わらせ、ゴブリンのやる気を奮い立たせねばならない。

 そこまで持っていくのが面倒ではあった。

(これも仕事か……)

 そう思って自分を納得させる。

 何より、考えたのは自分である。

 出来る事はやらねばならなかった。

 全ては成功のためでもある。

 その為ならば、多少の労力は惜しんでいられなかった。

(それでもなあ……)

 どうしても気持ちが落ち込みはする。

 後ろからついてくる連中の脳天気さを考えると先が思いやられる。

 それもこれも、あと数日程度だと自分に言い聞かせる。

 それが終われば、こいつらとはおさらばなのだと。

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