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6回 裏切り────やってみて、やらせてみて、褒めて教えてみたら、ゴブリン達は意外なほど頑張ってくれた

 翌日も同じような手段で敵を倒していく。

 少人数の義勇兵は、面白いように倒れていった。

 おかげでゴブリンの装備も向上していく。

 ようやくまともに戦闘が出来るようになっていく。

 それを見て、ユキヒコはゴブリン達にも参戦をさせようと考えた。



「自分達がどれくらいやれるのか知っておいたほうがいいだろう」

 それが理由である。

 今のところユキヒコが義勇兵を倒してしまっているが、それだけではさすがにまずい。

 ゴブリンにも戦ってもらい、やり方もおぼえてもらいたかった。

「言っちゃなんだけど、酷いから」

 それは、義勇兵としてゴブリン達と戦っていた側からの感想でもある。



 もとより装備が劣悪なのもある。

 しかし、更に劣悪なのはゴブリンの戦法だった。

 基本的に大人数で囲んで倒す、というのが彼らのやり方だ。

 それは悪くないのだが、それでもずさんさが目立った。

 囲んで一網打尽にするはずが、足並みが揃わない事が多く、どこかに隙が出来る。

 そこを狙うと簡単に包囲から逃げることが出来た。



 また、もっと少人数のときは悲惨の一言に尽きる。

 能力において劣るゴブリンだけに、簡単に瞬殺されていく。

 敵としてはありがたい事ではあった。

 手強いよりはずっと良い。

 しかし、味方としては頼りない。

 そこは少しでも改善してもらわねばならなかった。



 幸い、装備も良くなっている。

 それを利用しない手はない。

 また、包囲の仕方も多少は変えていってみる。

 それを実際に試していってみた。



 そして、教えてみて分かったが、ゴブリンはほとんど教育や訓練がなされてなかった。

 グゴガ・ルなどの班長や隊長あたりはまだいい。

 さすがにそのあたりになれば、統率の仕方なども多少は身に付けている。

 しかし、その下にいるゴブリンと言ったらもうどうしようもない状態だった。

 戦場に送り込むのに、それにふさわしいやり方など全く身に付けてない。

 そもそも、何も教えてもらっておらず、だから何も知らないという状態だった。

 なので、本当に基本的な事から教えてていってみた。



 忍び足のやり方、姿の隠し方。

 その為の体の使い方や気をつけるべき事を伝えていく。

 実際にやって見せてみる。

 また、簡単な通信手段なども伝えたt。。

 簡単な手振りによる指示などを幾つか。

 それだけ知っておけば声を出さず済む。

 さすがに全部はおぼえられない。

 教える時間がそもそもない。

 だが、それでも幾つかの手振りなどを教えて実行してみた。



 効果は驚くほどあがった。

 義勇兵は次々に倒れていく。

 包囲で逃がすこともなく、戦闘になっても負けることはない。

 やり方を少し変えるだけでもかなりの効果が出てきた。

 というより、それまでのやり方が著しく悪かったというだけだったのだが。

 それでも損害もなく敵を倒せるようになってゴブリンも喜んでいた。



 それを見てユキヒコも安堵した。

 これで駄目だったらどうしようもなかったからだ。

 しかし、ゴブリンは教えたことをそれなりにおぼえていた。

 見ててはらはらしたが、全く出来ないというわけではない。

 繰り返し練習をして見に付ければ、立派な戦力になると思えた。



 出来れば、符牒を決めた呼び子笛での合図などもおぼえてもらいたいと思った。

 他にも様々な通信手段なども。

 それだけで戦闘の幅が広がる。

 今は無理だが、時間があるときにでも教えていきたかった。



 そして問題になる接近戦。

 これのやり方も教えていく。

 義勇兵としておぼえた抜刀術に剣術、格闘術などを伝えていく。

 とはいえ、これも難しいことを教える余裕がない。

 そのため、比較的簡単に出来る事を一つ。

 それだけを教えることにした。

 他の事は、生き残ってから時間のあるときに教えることにして。



 こうした事を教えた結果はかなり大きい。

 ゴブリンだけでもかなり良い戦い方が出来るようになった。

 特に凄かったのは、接近戦での勝率の上昇だ。

 体格や体力で劣るゴブリンは、戦闘になるとどうしても負けることが多い。

 基礎となる能力が違うのだから仕方ないのだが、それでもユキヒコは少し工夫をこらしてみた。

 ようは、小さい体格でもどうにかなる戦い方だ。



 そのためには、思い切り敵に近づかねばならない。

 懐に入るくらいに。

 攻撃をかいくぐって。

 小柄なゴブリンであるが、だからこそ懐に入れば有利になる。

 接触するほど接近されれば、対応するのは面倒になる。

 そうなれば小柄なほうが逆に有利になるのだ。

 しかし、小心者が多いゴブリン達にとっては、敵に近づくのは困難であった。

 やり方を伝えても、すぐに賛成するものはいなかった。

 だが、それでもユキヒコが練習の相手をして、やり方を教えてみた。

 それで実際に効果があると分かると、何人かがやってみようと名乗りをあげてきた。

 それらを中心として、接近戦を実際にやる事になった。



 そのゴブリンの一人にグゴガ・ルがいた。

 ゴブリンの班長を務めるだけあって、それなりに度胸はあるようだった。

 また、ゴブリンにしては頭が良いというか、落ちついたところも見られる。

 勇猛さとは違うが冷静さが見られる。

 うるさく騒いで考えなしに行動するといわれるゴブリンらしくはない。

 だが、こういった好ましい方向での違いというのはありがたい。

 他にも名乗りをあげた者を含めて



 そういった者達を伴って義勇兵に襲い掛かっていく。

 騙して接近するのではなく、最初から敵に攻撃を仕掛けていった。

 その戦闘にはユキヒコが立つ。

 義勇兵達はさすがに驚くが、襲い掛かってくると見るや、すぐに反応してきた。

 さすがというべきだろう。

 伊達に最前線で戦ってきたわけではない。

 しかし、彼らが生き延びることはなかった。



 技量においてユキヒコの方が上回っていた。

 それを相手に互角に戦える者などいない。

 気を読む能力も合わさって、まともに戦える者などほとんどいなかった。

 加えて、接近してきたゴブリン達が援護にもなる。

 おかげでユキヒコはほぼ一対一の戦いをする事が出来た。

 ゴブリン達もユキヒコの教えをまもって接近戦を挑み、勝利をおさめていく。

 懐に入ってから急所に刀剣を刺していく、あるいは斬りつけていくという戦法は上手くいった。

 小柄なゴブリンに懐に入られたらどうしようもなかった。

 ゴブリン達によって義勇兵は、体を刺し貫かれて絶命していく。



 これも義勇兵から武器を奪えたからだった。

 刃物があるから刺し釣らぬく事ができる。

 最小限の力で、体を貫くことが出来る。

 棍棒だったらこういった事は出来なかった。

 先に武器を奪っておいて本当に良かったと思う。



 加えて防具の充実もある。

 今までだと、攻撃を受けたらそれだけで致命傷になっていた。

 それを避けても、重傷になる可能性は高かった。

 だが、まがりなりにも防具を身に付けたことで、その心配が減る。

 特に、相手の懐に入る接近戦を挑むには、防具は欠かせないものになる。

 最悪、敵の攻撃を受けることになるのだ。

 それをしのぐ手段は必須である。

 これもまた、義勇兵から奪うことで何とか確保する事ができた。



 そんな事を三日ほど繰り返した。

 その間にゴブリン達は、十数組の義勇兵を倒した。

 今までとは比べものにならない多大な戦果をである。

 これには隊長ゴブリンもご満悦だった。

 今までの彼らでは決して為しえなかったことである。

 おかげで、隊長ゴブリンはもっと何かないか、もっと教えろとユキヒコに迫るほどだ。

 彼にしても、損害もなくこれほどの戦果をあげられたことが嬉しいのだろう。



 それと同時に嬉しいのは、様々な装備を手に入れたことだ。

 武器や防具は言うに及ばず。

 その他にも様々な道具が手に入ったのがありがたいようだった。

 それだけゴブリン達は道具にも事欠く状況だった。

 単純に、火打石や鍋などの調理器具すらもありがたがっている。

 それすら支給されてないのかとおどろく程だ。

 だが、それも仕方ないのかもと思ってしまう。

 日常的に接してみて分かったが、ゴブリンの能力は本当に低いのだ。

 そんな連中にあれこれ物を与えても、宝の持ち腐れになるのは目にみえている。

 なら、下手に何か与えるのももったいない、となるのだろう。

(俺が上に立ってたら、そう思うわな……)



 教えればそれなりにこなす。

 しかし、なかなか熟達する者はいない。

 そういった連中だから、教育や訓練もろくに施さないのだろう。

 かける手間が無駄になりすぎる。

 道具も似たようなものだ。

 高級品でなくても、廉価品でも無駄にしそうな気がする。

 だったら、何も与えないのが最良なのかもしれない。

 それはそれで酷い話ではあるが。



 だが、やはり有ると無いとでは大違いだ。

 外套や毛布なども手に入れ、寝るときの快適さも確保した。

 折りたたみ・組み立て式のスコップに持ち運び式の工具で、工作なども出来るようになる。

 方位磁石やこの近隣の地図もあり、移動も楽になっていく。



 そういった物の使い方も教えつつ、ユキヒコはゴブリン達の練度を上げていった。

 確かにおぼえは悪く、どうしても一定以上の事をやるのは難しい。

 しかし、簡単な事ならおぼえられる。

 それを伝えていく事で、ゴブリン達の動きは見違えて良くなった。

 それだけでも大収穫である。

 そんな彼らに、最後の仕上げとして一つの提案をしていく。



「次は大物を狙う」

 隊長と班長達が集まる会議で、ユキヒコは提案をする。

「今の皆ならかなり出来ると思う。

 その成果を試すためにも、面倒な連中を倒したい」

「ふむ……」

 隊長ゴブリンは真剣な顔で話を聞く。

 班長のゴブリン達もだ。

 彼らもユキヒコが本気で言ってるのが分かるのだろう。

「それで、何を倒すんだ?」

「俺たちの中でもやり手だった奴らだ」

「それは?」

「混成部隊────エルフやドワーフが組み込まれてる連中だ」

 それを聞いてゴブリン達は一斉に目を見開く。

 驚きと…………かすかな恐怖に。

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