57回 その場における己の立ち位置 10
「とりあえず、その全部を動かす必要は無い」
邪神官とイビルエルフに当面の考えを提案していく。
「動かすのは一部でいい。
まあ、それでも100人以上は欲しいけど」
当面やるべき事、やった方が良さそうな事についてはそれくらいで充分だった。
「補助にもう少し人数が欲しいけど、実際に行動を起こす人数はそれくらいで事足りるはずだ」
「そんなものか?」
訝しげに首をかしげるイビルエルフ。
「言っちゃなんだが、その程度のゴブリンでどうにかなるか?」
「かなり厳しいとは思う」
ユキヒコも楽観はしてない。
「けど、最初の段階ならそれくらいで充分だ。
一応、援護も欲しいけど」
「それは、出来る限りはやるつもりだが」
「どうやるんだ?」
「単純な事だよ」
そう難しい事じゃない、とユキヒコは口にした。
やろうとしてる事を伝え、必要な人員を用意するよう求める。
規模はさほど大きくはなく、無理なく集められる範囲ではあった。
ある程度詳細を聞いた邪神官は、それについて承認していった。
全て彼の権限の中でどうにか出来る事だった。
ただ、ユキヒコに全てを一任するわけにはいかない。
さすがに指揮権を渡すわけにはいかなかった。
なので、今回出撃する部隊に従事するという形態をとる。
立場的には助言者という事になった。
実際には作戦行動の指揮を執るようなものだが、それでもこういう名目は必要だった。
余所者に作戦を任せるとなると、どうしてもこういう形式が必要だった。
既に指揮を執ってる者達を蔑ろにするわけにはいかないのだから。
ただ、どうしても当事者には不評になる。
いきなりあらわれた者に作戦を任せる。
指示も当人から聞いてくれ、と言われれば訝しく思うだろう。
まして自分の権限や職能をおかすような事をされるのだ。
不快感をおぼえるのが当然だ。
これは指揮官であっても兵隊であっても変わらない。
指揮官ならば、自分の権限への介入への嫌悪感。
兵隊ならば自分達に命令や指示を出す者への懐疑。
これらがどうしても出て来る。
それでも、
「まあ、何か考えがあるんだろう」
と思ってとりあえずは受け入れるあたり、ユキヒコの放り込まれた所は理性的だった。
受け入れ先の指揮官は、上に何か考えがあるのだろうと納得する事にした。
(警戒されてるなあ……)
それはユキヒコも感じていた。
吸血族の指揮官を前に、そんな事を感じ取る。
相手が醸し出してる気配などからそれが読み取れる。
五感が強化されてから、相手の感情や考えを読み取るのも簡単になった。
相手のちょっとした表情や声音、態度や仕草の変化。
そういったものに気づけるようになったからだろうか。
それに、以前から感じていた気配の察知もある。
前も何となく感じていたそれは、今まで以上に強く読み取れるようになってる。
人が相手ならば、感情や思考なども大雑把に把握出来るくらいだ。
今も、吸血族という指揮官から放たれる様々な気配を読み取り、相手の思いなどを何となく把握してしまう。
(いきなりやってきて、言う事を聞けってなりゃあそうなるわな)
むしろそう言われてしまった相手に多少の同情をしてしまう。
そんな相手を慮りながら、ユキヒコはやるべき事を伝えていった。
「……なるほど」
話を聞いた指揮官はやろうとしてる事を理解した。
「それくらいならさほど難しくはないかもな」
「でも、やっぱり手間はかかる」
「動かす人数が人数だからな」
やる内容そのものは比較的単純だ。
だが、投入される人数だけは結構大きくなる。
それを効率よく動かすとなると、かなり大変な事になってしまう。
「目的地までの道はある程度把握はしてますけど」
これは事前の偵察などが役に立っていた。
おかげで、道のない場所を突っ切って目的地まで向かう事が出来る。
これを用いて、侵入経路が幾つか
設定されていた。
「ここを通って目的地に向かう。
現地における作戦は、こういう風にやるつもりだ」
「ほう……」
示される作戦を見て、指揮官は少し感心をした。
上手くいくかどうかは分からないが、手元にある物を利用して成功率を上げようとしてるのは伺える。
これならば、正面から激突するよりは効果的に事を進められるかもしれなかった。
上手くいけばだが。
「あとは、実際に動くにあたって、部隊をどう動かすかです」
「そこで自分が必要になると」
「そういう事です」
作戦案がどれだけ優れていても、実際に動くのは兵隊だ。
そして、それらを効率良く動かすのが指揮官だ。
これらが各部隊、各員をしっかり統率しないと意味が無い。
単純に移動だけみても、効率良く動かす方法というものがある。
作戦案を実行にうつすにはこういったものが必要になる。
「だから、あとはそちらに任せるしかない」
「なるほど、分かった」
吸血族の指揮官も頷く。
「なら、これは自分が責任をもって受け持とう」
「お願いする」
頭を下げてユキヒコは頼んだ。
「まずは、現地に到着するまで。
そこまでを円滑に進めてもらいたい」
「もちろんだ。
必ず成功させる」
指揮官も自分の職分をまっとうする意志を示した。




