56回 その場における己の立ち位置 9
それをもたらしたユキヒコへの評価は難しいものがあった。
邪神官とイビルエルフは処遇に困ってもいた。
ユキヒコの功績の大きさを彼等は理解していた。
しかし、寝返ってきた者を抜擢するのも難しい。
信用出来るかどうかという問題もあるし、現時点での組織や集団内の兼ね合いもある。
いかに功績が大きくても、外から入ってきた新参者をいきなり高い地位に置くのは難しい。
権限を与えるのもそうだ。
既にいる者達の感情などへの配慮を考えると。
どうしてもそこには、『なんであいつが』という嫉妬が入ってくる。
こういった僻みなどは、抱いてる方が悪いのだが、そうも言ってられない。
自分の力量などを正確に把握出来ない者はどこにでもいる。
相手が優れてるからより大きな仕事を任せよう、という考えになる者はそう多くはない。
こういった小心者、あるいは小児性とも言うべきものを持ってる者の方が多いのかもしれない。
馬鹿馬鹿しい事だとは邪神官もイビルエルフも分かってる。
だが、余計な面倒を発生させる事は避けたいというのが二人の本音である。
「とはいえ、このまま腐らせておくのも勿体ない」
「あれだけの事をしてるしな。
出来ればこのまま色々と任せたい」
邪神官とイビルエルフとしては、ここが悩みどころだった。
既存の者達の事を考えれば大きな抜擢は難しい。
しかし、才覚や能力があるのは分かってる。
それを放置しておくのは損失でしかない。
出来るのであるならば、それなりの物事を任せたかった。
今後の戦果や成果を求めるならば、そうするのが得策である。
「けど、何を任せる?」
「そこなんだよな」
悩ましいところだった。
二人の権限で出来る事は限られてる。
ゴブリン達の上司というか上の立場であるが、全てを司ってるわけではない。
担当する地域や任された作業の範囲はそう大きくは無い。
個人でみれば結構な大きさだが、組織全体からすれば末端と言って良い。
与えられた範囲でならば裁量の自由はある。
しかし、他の部署や組織全体への影響力は小さい。
出来る事と言えば、せいぜい提案する事くらい。
それが受け入れられるかは、更に上にいる者達次第となる。
二人でどうにか出来る事ではない。
「もっと兵がいるんだがな」
「食料とかもな」
ユキヒコが考えてる事を実施するには、手元に今あるものだけでは足りない。
二人が自由に動かせるものと言えば、ゴブリンの部隊が幾つか。
それと、他の種族の部隊が少々である。
数だけでいえば決して少なくないが、主力はゴブリン。
戦力として見れば、実際の数よりも低い。
なにせゴブリンは、数人で人間一人分と言えるほどに弱い。
そんなゴブリンだけでは、とても考えを実行出来るとは思えなかった。
やったとしても、望んだ成果を、見込んだ結果を得る事は無いだろう。
それが分かるから、二人も考えてしまう。
「出来るだけ上にはたらきかけてはみるが……」
「承諾してくれればいいが」
そこが悩みどころだった。
「とにかく、その事を
「そりゃそうだろうな」
現状を説明しにきた邪神官とイビルエルフに、ユキヒコはあっさりと応えた。
「そこまでは期待してないよ」
「そうか」
その態度にイビルエルフは拍子抜けする。
もう少し絡んできたり粘ってきたるすると思っていた。
自分の要望を通すために、あれやこれや画策すると。
しかし、ユキヒコはそういう事は一切しなかった。
それよりも、
「まあ、出来る事をやろう」
と前向きな姿勢を示した。
「とりあえず、今動かせる兵隊がどんだけあるのか教えてくれ。
その範囲でやれる事があるかもしれん」
そんなユキヒコに、二人はどうしたものかと考えた。
正直に全てを打ち明けるか。
それとも、ある程度誤魔化した数字を出すか。
二人も目の前の裏切り者に、馬鹿正直に手の内をさらす事を警戒していた。
だが、
「そうだな」
邪神官は腹を決めた。
目の前の男を用いるつもりなら、下手な出し惜しみは出来ない。
さらせない事もあるが、どこかである程度信じないといけない。
その区切りははっきりさせないといけないが、示せる事は全て出しておかねばどうしようもない。
「今、我々のしたには1500の兵がいる」
そこから邪神官は自分達が扱える兵力を伝えていった。
魔族の兵力は合わせて1500人。
そのほとんどがゴブリンだ。
実質的な戦力は、この数分の一とみた方が良い。
それ以外にも、鬼人や獣人といった種族もいる。
ゴブリンよりも優れてるこれらは、各部隊の指揮官だったり、こういった種族だけで構成された部隊を編成している。
ただし、数は少なく、全体で100人にもならない。
これらが、邪神官を頂点とした部隊になる。
イビルエルフはその副官という立場だ。
もっとも、戦闘においてイビルエルフが全体の統括をする。
「さすがに全部をお前に任せるわけにはいかん」
邪神官はこれだけははっきりと言った。
さすがにそこまで信用は出来ない。
「ある程度は融通はきかせるが、これだけは分かってもらう」
「もちろんだ」
ユキヒコとしても文句は無い。
「それで、俺の提案は?」
「悪くはないと考えてる」
「なるほど」
「ただ、承認するのも難しい。
ここにいる者でどれだけ出来るか分からんからな」
「うん」
言いたい事は分かる。
ゴブリンでどこまで出来るか不安なのだろう。
それくらいにゴブリンの能力は低い。
だが、それはゴブリンを使う側の視点だ。
対立していた者は違う。
「でもまあ、何とかなると思うぞ」
ユキヒコは自信を滲ませてそう言った。




