55回 その場における己の立ち位置 8
また、生かしてある隔離したゴブリン達であるが。
これらを即座に処断しないのは温情から、というわけではない。
可能な限り冤罪を避ける為、というのはある。
だが、それが目的はない。
そもそも、事故や不幸な偶然ならともかく、悪さをする奴が持ち直す事はほとんどない。
悪さをする者は意識するしないに関わらず、同じ問題を繰り返す。
それを止める事が出来る者は、まず悪さをしない。
やってしまったとしても、周りの者達から何か言われれば控えるようになる。
それが出来ない者達が問題を繰り返し、全体に悪影響を与えてしまう。
こういった者の改善を求めたり待ったりする気は、ユキヒコには全く無い。
それでもユキヒコが問題を起こす者を簡単に死刑にしない理由は一つ。
後々、これらも利用しようとしているだけだ。
問題を起こすような連中であるが、それならそれで使い道はある。
囮や捨て石としてなら充分役に立つ。
それ以外の役目などユキヒコは全く求めてなかった。
だからこそ、食料を含めた様々な負担をしてまで問題を起こす連中を囲っていた。
いずれ敵地に突っ込ませるために。
それが何時になるかは分からないが、そう遠くないのは確かである。
だからそれまでの間は養っておこうとしていた。
逆に言えば、それ以外のゴブリン達は、どうにかして手元に残そうと考えていた。
可能な限り死なないように。
出来るだけ生き残れるように。
質が折角上がってきたところだ。
そんなゴブリンをむざむざ死なせるのは勿体ない。
それなりに統率がとれて、それなりの戦力になってきたゴブリン。
能力と性根の悪さで知られる中で、ここにいる者達は異色なのだ。
そんな貴重な連中をどうして手放せるだろうか。
これについては、グゴガ・ルを含めたまともなゴブリン達からも承諾を得ている。
彼等とて救いようのない程無能な連中に手を焼いていた。
それらまで面倒は見きれないという。
規律を持ち始めた連中が増えた今は、そういった考えはより強くなっている。
『わざわざあいつらの面倒をみたくはない』
グゴガ・ルが放ったこの言葉に、他のゴブリン達も頷いていた。
そんな事になるくらいならば、邪魔者を使い捨てにするというユキヒコの提案に乗るとも。
『あんたに従ってれば、悪いようにはならんだろうからな』
こんな事も口にした。
どちらを取るかというならば、ユキヒコが示してくれる利の方が良い、という。
ゴブリン側からの賛同、それに伴う協力。
これらがユキヒコに大きな権限を与える事になる。
事実上、ゴブリン達を率いる立場を手に入れたようなものだ。
実際に彼等に勝利をもたらした事が大きく作用していた。
そういった実績があるからゴブリン達もユキヒコの言う事を受け入れている。
言われた通りにしておいた方が得するだろうと。
言ってる事はよく分からないが、とりあえず言う通りにしておいた方が良いと。
残念ながらゴブリン達はユキヒコが示した提案の意味を理解はしてない。
何故そうするのかとか、やったらどうなるのか、という事を知ってる者はほとんどいない。
ゴブリンの方の理解力が足り無いのだ。
一応ユキヒコも説明はしているのだが、どうしても伝え切れないでいる。
しかし、そこはゴブリン自身も分かってるので、言われるがままにしている。
実際、そうしていったおかげで拠点を潰す事が出来た。
ゴブリン達の言う魔女の僕である聖戦団まで倒す事が出来た。
その体験からゴブリン達は、下手の考えを排除させていった。
幸いなのは、体験すればさすがに学習するという事だ。
何でそうなるのかは分からないが、やってみた結果を見れば理解はする。
なるほど、こういう事だったのかと。
彼等は先を見据えたり、これをやったらどうなるかを考えるのは苦手だ。
しかし体験した事を記憶したり、他の者に伝えるくらいは出来る。
そうして経験を積んでいったゴブリンは馬鹿に出来ない賢さを見せる事もある。
だからゴブリン達はユキヒコに従っていった。
おかげで、彼等は日常における平穏すら手にいれてきていた。




