54回 その場における己の立ち位置 7
騒動を起こすような者達は、他のゴブリンとは別に集められる。
食事や寝床は一応与えられるが、他のゴブリンとは大きな差がつけられる。
食事も(ゴブリン基準で)手の込んだものではない。
適当に火を通した程度のものになる。
寝床もテントなどの比較的しっかりしたものではない。
野ざらしよりはマシ程度の粗末な屋根の下くらいになる。
当然ながら他のゴブリンのようなお楽しみはない。
憂さ晴らしも娯楽もない状態におかれるようになる。
これが嫌ならば、最低限の規律を守ればいい。
そうでなくても、他人が不快になるような事を避ければ良い。
ただそれだけである。
これすらも出来ないのであるならば、他と同じような扱いは出来ない。
多少は改善した生活の場から除外される。
更にここから何かしら問題を起こしたら、もう次はない。
即座に処断される。
それも投獄などの措置はとらない。
即座に死罪となる。
これは牢屋などの設備がないからではない。
即座に分かりやすい形で見せないとゴブリンが理解出来ないからだ。
また、罰がこれほどに苛烈であると思わせないと、規律を破る恐ろしさを理解しない。
実際ゴブリン達は、投獄というか他から隔離されても、死ぬわけではないから構わない、と平気な顔をする。
死が目の前に迫らないと何も守ろうとはしないとも言う。
だからユキヒコは躊躇う事無く処断をしていく。
これだけがゴブリンに規律を守る意義を教える手段だからだ。
もちろん、守るべき事を守ってる者達への褒美も理由にはなる。
食い物に寝床、お楽しみも優先される方が良い。
これらを取り上げられるのは避けたい。
そう思う者が大半だ。
しかし、元々が劣悪な状況で生きてきたのもあってか、生活水準が下がる事への危機感は薄い。
最悪、今の待遇が無くても以前に戻るだけと思っている。
なので、報償なども大きな効果があるとは言い難い。
このため、悪さをすれば隔離する、隔離しても悪さをするなら死罪、という形態をとるしかなかった。
それでも、一度は隔離という形で命をとりとめる事が出来る、というので悪さをする者が出てきたりもする。
悪さをしても一度だけなら助かる、と考えてしまうのだろう。
もちろん、例え一度目であっても看過し得ない悪さをしたら、即座に死罪という処分を食らわせる事にはしてる。
それでも、猶予があればギリギリまで悪さをしよう、自分だけが得をする事をしようとする。
それで他者を踏みにじっても構わないと考えてしまう。
このあたりはもって生まれた性分としか言いようが無いかもしれない。
ユキヒコも、さすがにこれにはさじを投げるしかなかった。
だが、それにしてもゴブリンの中に規律が生まれつつはあった。
それはゴブリンにおいては大きな変化である。
グゴガ・ルなどのまともなゴブリンなどが驚く程だ。
また、規律を守る事を通して、士気も上がってきている。
学習意欲や学習の進み具合も上がっている。
総じてゴブリン達は以前より各段に優れてきてると言えた。




