51回 その場における己の立ち位置 4
野営といっても、ゴブリンの場合それは粗末なものである。
テントなどもほとんど用意せず、野ざらしのまま寝起きする。
食事の調理もほとんどせず、その場で手に入れたものか保存食を貪る。
汚い話だが、排泄物もあたり構わずひねり出すといった調子だった。
しかし、それが今はかなり改善されている。
敵から強奪してきたテントなどでとりあえず雨風をしのぐ寝床を確保している。
また、毛布や布団などの寝具もある。
これにより、休息による疲労回復が著しく向上した。
食事も調理器具を使って調理している。
これにより、栄養の吸収効率は各段に上がった。
おかげで健康状態も良い。
食料も敵から奪ってきたので、当分は困らないだけの蓄えがある。
あと、汚物も一カ所で処理する事にしてるようで、衛生面も向上した。
何より、寝床や調理場などの配置が整理されてる。
おかげで空間効率が各段に向上していた。
それだけではない。
ゴブリン達への訓練や教育というのも為されている。
それらは基本的なもので、高度な技術というものはない。
しかし、基本となる部分をおさえてある。
おかげでゴブリン全体の底上げをしている。
しかも、戦闘だけに留まってない。
日常の、野営地・宿営地での活動にも影響を与えている。
これらの運営と維持、各作業の分担など。
物資管理に調理に清掃などなどにそれぞれ専門の要員を配置している。
また、それぞれの役割に相応の知識や技術も与えていた。
部署ごとの専門化が始まっている。
やってる事は大したものではないが、これが出来るというのは大きい。
今までは雑然としていたこれらがなされるようになったおかげで、ゴブリン達の群はかなり整然としたものになっていた。
「ゴブリンがなあ」
「さすがに、これは意外だったな」
邪神官とイビルエルフは本当に驚いていた。
彼等とてゴブリンの統率をする立場である。
しかし、これがなかなか上手くいかなかった。
一部の優秀なゴブリンならば言う事も聞く。
しかし、そうでないのが大半なのがゴブリンだ。
指示は聞かない、規律も守らない。
そもそも言ってる事を理解してるのかもあやしい。
そんなものだから、彼等もゴブリンの扱いにはさじを投げるものがあった。
なのだが、それが覆されている。
ここでは確かな規律が存在していた。
「どうやってやったのかは知らんが、これだけやれる手腕は認めねばならん」
「分かってる。
実際、目で見てしまっては否定する事も出来んからな」
それが二人の結論であった。
ユキヒコの思惑や真意は依然としてはかりかねる部分もある。
だが、出してる成果は確かで、文句の付けようがない。
それは単なる戦果だけというわけではない。
日常、普段の部分でもこれだけの成果を出してるのだ。
素直にこれは認めねばならなかった。
「それでどうするかだな」
そんなユキヒコをどう扱うか。
これが悩みになってしまう。
「厄介なもんだ」
決して悪い事ではない。
だが、二人は裏切って寝返った者の扱い方に思案する事になる。
「ただ、あの男が提案してる事は悪いものではない。
実施するのに問題があるとは思えんぞ」
「ああ。
問題無く承認して構わない」
ユキヒコが求めて来た増援。
それを必要とする作戦案。
二人はそれを了承するつもりでいた。
「ただ、あいつをどうするかだな」
「さすがに全体を任せるのも何だし」
「かといって小さな部隊を預けるだけではもったいない」
「出来るなら、それなりの事を任せたいな」
「そこまで信用していいかどうかがまだ分からんのがきつい」
「そうだ、そこなんだよ」
「本当に悩ませてくれる」
なまじ優秀であるからこそ扱いに困る。
そんなユキヒコに、二人はため息を吐いた。




