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5回 裏切り────ゴブリンと共に攻撃する、昨日までの味方を

「それで、具体的にどうする」

 今後の行動を尋ねるグゴガ・ル。

 ユキヒコは、

「とにかく兵隊が欲しい。

 向こうも少人数で行動してるけど、出来るだけ取り囲みたい。

 逃がすと面倒だし」

と答える。

 さすがにゴブリンの戦闘力の低さまでは口にしない。



 しかし、

「まあ、俺達の力じゃな」

とグゴガ・ルは素直に能力差をもとに話をしていく。

 ユキヒコにはそれが意外だった。

「はっきり言うんだな」

「仕方がない、事実だからな。

 嘘や見栄をはってもしょうがない」

 その実直さにユキヒコは好感を抱いた。



「ただ、人が欲しいって言っても、俺が動かせる数は少ない。

 もっと欲しいなら、あの隊長に言うしかない」

 女義勇兵でまだ遊んでる隊長を指して言う。

 それもそうだろうとは思う。

 ここにいる部隊を動かす権限を持ってるのは隊長なのだから。

「どうにかできないか?」

「隊長が興味もてばなんとか。

 まあ、功績とかぶら下げればどうにかなるんじゃないか?」

 そこはゴブリンも人間も違いはないようだ。

 出世や栄達を狙っているのだろう。



「あと、女がいれば最高だ。

 間違いなく乗り気になる」

「なるほど」

 実に分かりやすい。



「ついでに聞いておきたいけど」

「おう」

「もしかして、あの隊長のもっと上の人とかもそうなのか?」

「うん?

 手柄とか女とかか?」

「ああ、そうだ」

「まあ、そうだろうな。

 嫌いではないはずだ。

 言っちゃなんだが、俺たちゴブリンならそういうのを理由にいつでも動ける」

「なるほど」

 正直に語ってくれるグゴガ・ルがありがたい。



「念のために聞いておきたいんだが」

「なんだ」

「あんたもそうなのか?」

「…………嫌いではない。

 出世もしたいし、女は…………言う必要があるか?」

「いや、全然」

 それ以上聞くのは野暮だと思ったので、グゴガ・ル個人への質問はそこで切り上げた。



 ただ、これである程度やり方も決まった。

 手柄と女を餌に、目の前の隊長に話を持ちかける。

 それで動いてくれた儲けもの。

 今日から敵になった元味方を倒していく。

 これからならまだ何人か倒すことが出来るはず。

 それらを更なる土産として提供する。



 この事がどれだけ立場を良くするのかは分からない。

 だが、手ぶらよりは良いはずだ。

 それを少しでもゴブリン達に提供し、便宜をはかってもらえるようにする。

(使えると分かれば、それほど悪くはしないだろうし)



 あと、敵(元味方)から武装などを奪いたいというのもある。

 ゴブリン達の装備では、まともに戦闘にならないからだ。

 使いこなせるかどうかという問題はあるが、装備が良いにこした事はない。

 その為にも、敵から現地調達しておきたかった。



 そう考えてるうちに、隊長ゴブリンが事を終えていく。

 満足するまで遊べたようで、幸せそうな顔をしている。

 そんな隊長に近づき、話を持ちかける。

 もちろん、グゴガ・ルを間に挟んで。

 ユキヒコが直接話しかけても、まともに相手をしてもらえないだろうと思ったからだ。

 幾らなんでも、そこまで気安く接触できるとは思えなかった。



「なんだ?」

 ふてぶてしい態度をとる隊長ゴブリン。

 その彼にグゴガ・ルが話しかけていく。

 ユキヒコから提案があると。

 手柄と土産をもっと用意したいと。

 そういった事を伝え、隊長の反応をうかがう。

「ふん」

 面白くもなさそうな態度を隊長は示す。



「そりゃあいい話だがよ。

 俺達も大変なんじゃねえのか?

 あいつらと戦うって事になるんだぞ」

 そういって気色ばんだような態度をとる。

 しかし、ユキヒコはそれが上辺だけだと見破る。

 漂ってくる、立ち上る気配でそれが分かる。



 幼少期からユキヒコがもっていた能力。

 気を読む力がここで役立った。

 実際に相手から立ち上るもの。

 気というべき何かをユキヒコは感知する事が出来る。

 それにより、相手の動きなどがある程度は読める。

 もっとも、感知できるだけで、操作する事は出来ない。

 感じ取ったものをどう活用するかは、ユキヒコ次第となる。



 しかし、交渉が有利に進められるのは確かだ。

 相手の出方どころか気持ちすらある程度は把握できるのだ。

 それを活かして話を進めていく。



 ユキヒコが提示出来るのは、先ほどグゴガ・ルに言ったものと同じ。

 また、不利な条件も正直に出していく。

 戦闘になるので、どうしても損害は出るだろうと。

 しかし、それでも得られるものの大きさに、隊長ゴブリンは興味を強めていく。

 そこに、

「功績は隊長のものにしてほしいです」

 とどめを刺していく。



「俺のものにしても、うやむやにされるでしょうから」

「ほう」

 これで隊長はかなりやる気になったようだ。

「その上で、俺を上手くかくまってくれると助かります」

「なるほど」

 隊長もそういう事かと納得する。



 ユキヒコが功績をたてても、それだけでは待遇が少し良くなるだけで終わるだろう。

 だが、隊長の功績とすれば、彼が恩恵を受けることが出来る。

 その上で、隊長がかくまってくれるならば、ユキヒコの立場もより安泰になる。

 そこまでは隊長ゴブリンも読むことが出来た。

 しかし、そこからのユキヒコの発言は予想を超えた。



「それから、上手くいけば物資も強奪できる」

「なに?」

「そのためにも、もっと多くの兵隊が必要だ」

 その提案に隊長ゴブリンは更なる興味を示した。

 一緒にいるグゴガ・ルも。

 そんな彼らにユキヒコは自分の考えを披露していく。



「…………なるほどな」

 話を聞き終えた隊長ゴブリンは、そう言うと考え込んでいった。

「上手くいけば、確かにいい話だ」

 だが、上手くいくかどうかは分からない。

 失敗する可能性だってあるのだ。

 それを考えるとさすがに判断に悩む。

 だが、熟考する時間がないのも確かだ。

 こうしてる間にも巡回は移動している。

 素早く動かなければ、それらをとり逃すことになる。

 やるか、やらないか。

 決断するなら今しかない。

「……しょうがない」

 言いながら立ち上がる。

「行くぞ」

 隊長は欲を満たすことにした。



 決断した隊長のもと、ゴブリン達は移動を開始した。

 女義勇兵の監視の為においていく数人を除くほぼ全員がだ。

 総数20人。

 部隊のほとんどが動いていく。

 それにはさすがにユキヒコも驚いた。

 ユキヒコの話にのるにしても、せいぜい数人を貸すだけで終わると思ったからだ。

 しかし、隊長ゴブリンは思いのほか大胆なようだった。



 その20人を先導して、ユキヒコは巡回路に張り込んでいく。

 定期的な巡回の通り道なら全て記憶している。

 ここに来てから何度も通ったからだ。

 その中から、最も遭遇しやすい場所に張り込む。

 しばらくすると、巡回の義勇兵達がやってくるのが見えた。

 ユキヒコはそんな彼らに走りよっていく。



「大変だ!」

 わざとらしくならないように声をはりあげる。

「敵が、敵が出た」

 その声に、巡回していた義勇兵達が驚く。

 何があったのかと血相を変えて向かってくる。

「どうしたんですか?」

「なにが?」

 全員顔なじみの連中だ。

 ユキヒコと面識があり、仕事以外でもあれこれと話をした事もある。

 そんな彼らはユキヒコの様子を見てただ事ではないと思ったのだろう。



「確か、新人の引率だったよな」

「そいつらは?」

 口々に質問をしてくる義勇兵達。

 そんな彼らにユキヒコは、

「襲われた、全員死んだ。

 かなりの数だった」

と伝える。

 それで彼らは内容を察したのだろう。

「分かった、急いで戻ろう」

 そういって来た道を戻ろうとする。

 そうして背中を見せたところで、ユキヒコは切りかかった。



 油断してる相手ほどやりやすいものはない。

 背中を見せて走り出そうとした義勇兵は隙だらけだ。

 そんな彼らの背中や足を切っていく。

 背中は胸当てや胴丸など、背中が開いてる防具を身に付けてる時に。

 足はそうでない者達の動きを止める場合に。

 それは呆気ないほど簡単に出来た。

 義勇兵になってから鍛えた抜刀術や剣術を用いる必要すらない。

 巡回に来ていた5人の義勇兵は、抵抗する事もなく倒れていく。



「うん、大変なんだよ」

 倒れる仲間だった者達に、止めを刺しながら告げる。

「俺が裏切ったんだから」

 それが義勇兵達が聞く最後の言葉になった。

 間髪入れずにユキヒコがとどめを刺していったから。

 彼らは何がどうなったのかほとんど知ることなく息絶えていった。



 それを見ていたゴブリン達は、唖然呆然とするしかなかった。

 裏切ってきたとはいえ、そこまで躊躇いも容赦もなく行動するとは思わなかったからだ。

 いま少し動きが鈍るものと思っていたのだが。

 そんな事は一切なく、ユキヒコはやる事をやり遂げた。

 おかげでゴブリン達は何もする事がない。



 そんなゴブリン達を呼び、ユキヒコは処理を急がせる。

「装備を荷物をとって、死体を運ぶんだ。

 すぐに巡回はこないけどそのうちやってくる」

 それまでに全てを片付けておかねばならない。

「出来れば、今日中にあと二組か三組は片付けたい。

 そうすりゃ、装備もそれなりに手に入る」

 それを聞いて、ゴブリン達も急いで動いてくる。

 基本的に怠け者な気質をもっているゴブリン達だが、命がかかっていればそうでもないようだ。

 手際が良いとはいえないが、やるべき事はしっかりとこなしていく。



「上手くいったな」

 そんな中でグゴガ・ルが近づいてくる。

 彼と彼の班は作業の割り当てがなく、少しだけ余裕がある。

 だから話しかけることも出来た。

「ああ、こいつらだったからな」

 運ばれていく死体を見ながらユキヒコは応える。

「エルフやドワーフがいたら面倒になってたよ。

 あと、古参の連中とか」

 それらがいたら、さすがにここまで上手くはいかなかったと思えた。



 古参兵はユキヒコ以上に戦いなれている。

 その戦闘力は侮れない。

 気が読めるユキヒコでも、少し有利に戦える程度だ。

 それが真正面から複数で迫ってきたら勝ち目はない。



 また、エルフやドワーフという別の種族が混じっていたらどうなっていたか。

 エルフは魔術の適正があり、その戦闘力は予想しにくい。

 炎や風を操ってきたら厄介だ。

 また、体力に優れるドワーフ相手だと、接近戦ではかなりの不利を強いられる。

 たとえ不意打ちしても、簡単に勝てるかどうか悩ましい。

 それらがいたら、ゴブリンの参戦を頼むしかなかっただろう。



 今回、こういった者達がいなかったのは幸いだった。

 おかげで順調に装備や物資が手にはいる。

 それで少しはゴブリンの戦闘力を上げることが出来た。

「この調子でいきたいよ」

 そう呟くユキヒコは、次の目標に向かって動こうとした。



 その後も同じような手段で敵を倒していく。

 ユキヒコがいる事で油断した義勇兵達は、次々に倒れることになった。

 最終的にこの日は三組の義勇兵を倒すことが出来た。

 そいつらから奪った装備で、ゴブリン達の戦闘力も上がる。

「これから明日も大丈夫だな」

 日が暮れる前に撤退をはじめながら、ユキヒコは今後について考えていった。

 その横でグゴガ・ルが、

「いけるか?」

「もちろん」

 質問に明るく頷く。

 この調子なら明日も上手くやれる。

「もう少しあいつらを倒す。

 そしたら、次の段階に進もう」



 これで終わりではない。

 まだまだこれからである。

 だが、展望は存外明るいように思えた。

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