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49回 その場における己の立ち位置 2

 邪神官。

 イビルエルフ。

 どちらも敵側からの呼び方である。

 邪神官は女神の敵である神々を奉る者達を指し。

 イビルエルフは女神に与することのない種族の一つを指す。

 それらの教義や性質の善し悪しから出て来た言葉ではない。

 あくまで立場や立ち位置といったものの違いによる呼び方だった。

 正義とは全く関わりのない、むしろ対極にある分類の結果である。

 そんな呼び方をされる彼等は、言葉が示すほど悪辣なわけではない。



 実際、ユキヒコの前に出てきた二人は、そう非道な態度をとってるわけではない。

 身元のあやふやな者への警戒はするが、だからと言ってユキヒコの待遇が悪いわけではない。

 捕らえて拘束するわけでも、尋問の名を借りた拷問で情報を吐かせるわけでもない。

 警戒はしてるし、簡単に信用出来ない。

 裏切りや寝返りというものへの真っ当な嫌悪感から対応も冷たくはなる。

 しかし、尊厳をおかすような事はしていない。

 ユキヒコが挙げた戦果や成果もあるのだろうが、極端に不当と思えるような事はしていなかった。

 そこをユキヒコも評価はしている。

 だからこそ、目の前にいる二人からある程度の信を得ておきたかった。

 少しは話が分かりそうな者達だったから。



 その邪神官とイビルエルフ。

 二人の男達は警戒と冷淡さをたたえながらユキヒコに尋ねてくる。

「何が目的だ?」

 端的な問いかけである。

 何故裏切ったのか?

 もって当然の疑問だ。

「奴らを潰したい」

 応じる言葉も淡々としたものだった。

 目的をはっきりと告げている。

 これ以上そぎ落としようもないほど明確な言葉で。

 だが、肝心な部分が抜けている。

「どうしてだ?」

 理由。

 原因。

 そういったものがそこには無かった。

 何故そこまでやるのか?

 どうしてそうしたいのか?

 それがも知っておかねばならない。

 行動原理、あるいは思想といったものは、その者の今後の考えや行動を方向付ける。

 この部分が確かでないものは、どこかで躓く。

 くじけてしまう。

 困難を前に諦める。

 何もないところで足を止める。

 すぐに息切れを起こす。

 目的がすぐに曖昧になる。

 だからこそ動機というものもはっきりさせねばならなかった。

 それは同時に、その者の本性を見る事でもある。

 理由や動機は、抱いてる者の一面や側面と密接に繋がってる事もある。

 それを知る事が相手を知る事につながる事もある。

 二人の男達はその部分を問いただそうとしていた。

 そんな二人にユキヒコはあっさりと答える。

「復讐」

 その言葉に二人は怪訝そうな顔をする。

 それを無視して、

「仕返し」

 ユキヒコは言葉を続ける。

「大事なもんを奪われた。

 だから許せない。

 それだけだ」

 分かりやすく単純な理由。

 邪神官とイビルエルフはユキヒコの理由を即座に理解した。

 同時に。

 これ以上なくユキヒコの意志の強さも感じた。

 極めて単純な言葉だったからだろう。

 気持ちが率直にあらわれていた。

 だから二人はゾッとするものをおぼえた。

 それが純粋であまりにも一途であったから。

 二人はそこに、純化された狂気のようなものを感じた。

 そのせいで邪神官は顔を強ばらせ。

 イビルエルフは青白い肌にうっすらと汗を浮かばせた。

 幸いだったのは、それが傍目に大きな変化ではなかったことだろう。

 ただ、周囲の気配を察する能力が飛躍的に高まったユキヒコには伝わっていたが。



「……分かった」

 邪神官は絞り出すように声を出す。

 いつの間にか力んでいたのか、声が上手く出ない。

「それが本心なら、お前を受け入れよう。

 作戦とやらの支援も考えよう」

「助かる」

 邪神官とイビルエルフの答えに安堵する。

 完全に受け入れられたとは思わない。

 だが、追い出される事はなさそうだった。

 それだけでも充分である。

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