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46回 聖戦士と聖戦団────それが選んだ道をたどった最後の姿

「終わったな」

 倒したアカリを見下ろして呟く。

 やってきた聖戦団はこれで全部始末した。

 他に生き残ってる者はいない。

 ユキヒコの把握出来る範囲には存在しない。



「こいつらを運べ。

 死体が見つかったらまずい」

 周りのゴブリンにそう指示をだす。

 頷いたゴブリン達は、一斉に動き出していく。

 そこらに転がってる死体を抱えていく。



 敵も味方もない。

 全てを等しく扱っていく。

 何も人道やら大儀めいた理由があるからではない。

 敵に見つかったら面倒だからだ。

 だから敵の死体も担いでいく。



 もっとも、ある程度運べば扱いは変わる。

 ゴブリン達の死体ならば、丁重(ではなくても)に埋葬する。

 敵は適当な場所に捨てておく。

 あとは野生動物などが勝手に処分してくれる。

 邪魔にならないよう処理が出来ればそれで充分だった。

 敵に情けをかける必要は無い。



 そうして移動していくゴブリン達と共に、ユキヒコは拠点をあとにする。

 さすがに聖戦団まで倒したのだ。

 これらが帰還しないとなれば、教会が黙っていない。

 いずれ敵がそれなりの規模でやってくるのは目に見えている。

 そうなる前にさっさと退散せねばならなかった。



 正面からぶつかるのが危険なのは、今回の戦闘ではっきりした。

 接近されたらゴブリンは脆い。

 勝てないわけではないが、損失が大きすぎる。

 まして女神の奇跡を使われたら、形勢が逆転しかねない。

 今回の戦闘でそれがはっきりした。



 なので、残念だが拠点は捨てるしかない。

 確保する為にゴブリンを消耗するわけにはいかない。

 それだけの価値があるならともかく、今の段階では無駄死になりかねない。

 それは避けねばならなかった。



「それで、これからどうするんだ?」

 今回の戦闘で生き残ったグゴガ・ルが尋ねてくる。

 並んで歩く彼は、これからの展望に興味があるようだった。

 そんなグゴガ・ルに、

「とりあえず、もっと兵隊が欲しい」

と要望を伝えた。



「とにかく数が欲しい。

 数がいればどうとでもなる」

「そうか」

 頷いたグゴガ・ルは少し思案しながら答える。

「今回の報告と一緒にお願いしてみよう。

 どうなるかは分からないが、多分大丈夫だと思う」

「そうなのか?」

「これだけの結果が出てるからな。

 無下にはしないだろう」

「だったら良いけど」

 ぜひそうなってもらいたい所だった。

 今後の展開の為にはどうしても頭数が必要になる。



「それまでは、大人しくしてなきゃならんな」

「だったらありがたい。

 休みは欲しい」

「もちろんそれも考えてるよ。

 でも、大人しくってのは何もしないってわけじゃないぞ」

「そうなのか?」

「ああ。

 休みもとるけど、それが終わったら訓練とかだな。

 おぼえてもらいたい事がある。

 あと、相手の様子を探りにも行ってもらわないと」

 控えるのは目立った戦闘だけである。

 それ以外の活動は、むしろ積極的に、活発に行う事になる。



「大人しく行動してくれ」

「そういう事なら」

 頷いてグゴガ・ルは承諾した。

「となると、まだ少しは忙しいままなのかな」

「そうなっちまうな」

 休みがあけたら再び活動してもらう事になる。

 申し訳ないと思うが、これも勝つためだ。

 ゴブリン達にはまだまだ頑張ってもらわねばならない。



「その分、結果が出たらお楽しみも増えるから。

 それで勘弁してくれ」

「そこは本当に頼む。

 期待してる奴も多いから」

 ゴブリンに与える報酬である。

 手に入る分け前が多いほどやる気が出るのは人間と変わらない。



「担いでるそれも、お楽しみに使うのか?」

 ややからかい気味にグゴガ・ルが尋ねていく。

 聞かれてユキヒコは苦笑するしかなかった。

「いや、さすがに無理だな」

 ユキヒコは肩をすくめるようなしぐさをした。

 実際には、アカリを担いでるのでそうはいかない。



「こいつ聖戦士だ。

 あんたらの言う魔女の力を使う。

 下手に生かしておいたら、面倒な事になる。

 神官どもと同じように処分しなくちゃならん」

「分かった。

 となると少し残念ではあるな」

「お楽しみに使えないからか?」

「もちろんだ」

 グゴガ・ルは肩をすくめた。



 こればかりは仕方なかった。

 幾ら女とはいえ、敵の神(と呼ぶのはしゃくだが)の眷属だ。

 生かしておいたら、イエルの力を呼び込みかねない。

 それで損害を出したら目も当てられない。

 残念だが、お楽しみを諦めるしかなかった。



「他の連中がブツクサいうだろうが。

 今回のお手柄は、どう考えてもあんただ。

 あまり強くは言わないだろう」

「そうならと助かるよ」

「俺からも他の連中には言っておく。

 文句があるならあんたに勝ってからにしろってな」

「是非そうしてくれ。

 俺も面倒なのは避けたい」

「ああ、任せておけ」

 そう言って二人は軽く笑っていった。



 下らないやりとりである。

 だが、緊張を解くには軽口のやりとりが結構効果的だったりする。

 何はともあれ大きな仕事が終わったあとである。

 緊張しっぱなしというのも疲れるので、それをほぐす必要があった。



「でも、分捕ったものはそっちで好きにしてくれ。

 それは俺からあれこれ言うつもりはない」

「そうしてくれると助かる。

 取り分がないと、さすがにどうにもならんからな」

 そう言ってまた笑う。



「今回もそれなりのものは手に入った。

 おかげで助かる」

「面倒なのは、こいつの処分だけか」

 言いながらユキヒコは、担いだ女の尻を叩く。

 手足を縛られたアカリは、それによって気づく事もなく意識を失い続けた。



 ゴブリン達はその後も歩き続け、野営地点まで帰還していった。

 凱旋である。

 戦闘で勝利しての帰還だ。

 誰もが陽気に浮かれていた。



 また、いつもより損害が少ない事にも驚いていた。

 たいていの場合、戦闘になればゴブリンの死傷者は膨大なものになる。

 その為、出撃前と帰還後では人数に大きな違いが出てしまう。

 野営地に戻ってきても、妙に寒々しいというか空間が広く感じるものだ。

 しかし、今回の場合そういった事がない。



 人数は確かに減ってるが、その減り幅がいつもよりも小さい。

 損害がかなり少なかった為だ。

 それがゴブリン達を喜ばせもした。

 戦い方次第でこうも変わるのかと。

 それは、こういう結果をもたらした者への尊崇へとなっていく。



 今回、味方として協力したユキヒコという存在。

 その智慧が彼等に畏敬というものをおぼえさせていった。

 素直に従う事の意味や利点というものも。

 その為だろう。

 最後に戻ってきたユキヒコを見たゴブリン達は、歓声をあげて彼の帰還を祝った。




 そんなゴブリン達の歓迎をある程度で切り上げる。

 それよりも、急いでやらねばならない処置がある。

 そのためにユキヒコは、ゴブリンの神官を尋ねていく。

「悪いけど、こいつも処分してくれ。

 イエルの眷属だ」

「……分かった。

 すぐに始めよう」

 それだけですべてを理解したゴブリン神官は、祈りを始めた。

 彼の仕える神へと。



「……う」

 意識を取り戻すアカリ。

 まだ頭は朦朧とするが、それでも目を周囲に向けた。

 自分がどうなったのか、どこにいるのかを探るために。

 それ以上に、おぞましい気配の原因を探るために。



 それが原因で目を覚ました。

 何かが自分を取り巻いてる。

 目に見えない気配のようなものが。

 まがりなりにも神に仕える聖戦士だ。

 超常的な何かについては一般人よりも敏感だ。




 自分を取り巻くもののおぞましさにも気づく。

 何が起こってるのかは分からない。

 だが、ろくでもない事になってるのはすぐに察した。

(なにが、どうなってる?)



 そんな思いで周りを見てる。

 その目がとあるところで止まった。

「貴様!」

 そう 叫んで睨み付けようとした。

 だが、意識を失ってる間にかまされた猿轡で阻止される。

 それでも目は、とある一点をにらみ付けている。

 義勇兵の装備を身にまとった、ユキヒコを。



 声は口に噛まされた猿轡で。

 手足も縛られて、思うように出来ない。

 それでもにらみつけ、もがくアカリに、

「元気だな」

とユキヒコは無愛想な感想をもらした。



「あれだけ元気なら、さぞ素晴らしい土産になるだろうな」

 いつの間にか隣にきていたグゴガ・ルに呟く。

「だろうな」

 グゴガ・ルも短く応じた。

 そんな二人は。

 そして周囲に集まってきた他のゴブリンも見つめていく。

 今まさに神々にささげられようとしてるアカリの末路を。



 ゴブリン神官の祈りは、最高潮を迎えようとする。

 それに応じて彼らの神々がやってくる。

 その力の一部が。

 この場所を目掛けて、見えざる手がのびてくる。



 それがアカリを包んでいく。

 彼女が感じた不穏な気配の正体がこれだ。

 それがアカリの体にまとわりつく。

 そして、体から霊魂を抜き取っていく。



 その瞬間にアカリは察した。

 本能の部分で。

 よからぬ何かが起こる事を。

 それが何なのかは分からなかったが。



 しかし、休息に体温を感じなくなっていく。

 体の感覚も消えていく。

 それどころか、自分がだんだんと保てなくなる。

 意識が遠くなり、体の末端がだんだんと消えていくような。

 そんな感覚をおぼえた。



 実際に消えていく。

 それが痛みのような感覚として伝わってくる。

 自分という存在が消えていくのを。

「………………嫌やああああああああああああああああ!」

 悲鳴があがった。




 霊魂が消滅していくときの反応は誰も彼も同じだ。

 ユキヒコの知る限りでは。

 そう多く見たわけではないが。

 けど、それが普通なのだろうと思う。

 吸収され、餌として消化されるのだ。

 自分と言うものがなくなる。

 その恐怖と痛みは、霊魂をもつものにとって最悪の事態だろう。



「けど、文句はないだろ」

 消え去っていくアカリを見てもらす。

「神に仕えた結果なんだから」

 だからこうなっている。

 違った生き方があれば、違った最後を迎えただろうが。



「まあ、文句言うなよ」

 消滅していくアカリに、最後の言葉をかける。

「これも、お前らの奉る女神とやらの思し召しだ」

 一片の情けも哀れみも抱かない。

 そんなものをかけるべき相手ではない。

 だからこそ、冷静に告げるべき言葉をかけていく。

「大事なものを踏みにじったカスだ。

 それに付き合ったんなら、そういう最後になるってもんだ」




 こうして調査に出向いた聖戦団は壊滅した。

 その事を町の者達や教会が知るのは暫くしてからとなる。

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