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43回 聖戦士と聖戦団────彼らはそれを選び、選んだ結果を手に入れる

「あいつら…………!」

 逃亡していく者達。

 それらが拠点に入っていくのを見る。

 何人かは取り残されたようだが、この場から離れた事に変わりは無い。



 それらは周囲からあらわれたゴブリンに囲まれた。

 そして、群がられ囲まれ、倒れていった。

 助けにはいけなかった。

 投石の攻撃がまだ続いてる。

 下手に木陰から出たらそれを食らう。

 残念だが、見捨てるしかなかった。



 しかし、アカリがそう思っても、他の兵がそう考えるわけではない。

 危機に陥ってる仲間を助けようとしたのか、物陰から飛び出す者もいる。

「おい、待て!」

 止めようとするが、相手が聞く訳もない。

 そんな者が合わせて3人。

 投石の合間を縫って拠点へと向かう。

 そして、待ち受けるゴブリン達に囲まれて潰えていった。

 典型的な各個撃破の形だ。

「待てと……言うのに!」

 そうなる事が分かっていたから止めた。

 だが、それもむなしく貴重な戦力が、大事な命がまた減った。



 人数が減り、突破が更に難しくなった。

 例え一人でも、この状況での戦力減少は痛い。

 敵がゴブリンとはいえ、振り切るのが難しくなる。

 そうでなくても、大切な命だ。

 それを失った哀切もある。



 だが、それに沈んでるわけにもいかない。

 状況が余計に悪化した今、更に悲惨な決断をしなくてはならない。

 相対的に増強された敵を突っ切るのだ。

 どれだけ犠牲が出るか分からない。



「やるしかないか」

 決断をする。

 投石がやむまで待つつもりだったが。

 味方が焦れて勝手な行動をとりはじめたのだ。

 このままでは更に悲惨な事になりかねない。

「行くぞ。

 合図をしろ」

「了解」

 頷いたアツヤが取り出した笛を吹く。

 符丁通りに吹いたそれに、他の者達も反応していく。

 示したのは敵中突破。

 犠牲を覚悟の撤退だ。



「上手くいきますかね?」

「わからん。

 出来たらいいが」

「確かに。

 突破できれば、帰還出来るでしょうし」

「そういう事だ。

 簡単にはいかないだろうがな」

 実際、難しい問題だった。



 数に勝るゴブリンである。

 強固な抵抗を示した場合、敵の中を突っ切るのは難しくなる。

 それよりは誰もいない方向に進みたくなるのが人情だ。

 それを考えれば、拠点に逃げた者達の行動も分かるというもの。

 だが、そこに大きな危険が潜んでるかもしれない。

 ならば、あえて危険と思える方向に行くしか無い。



「あいつらを突破して、町に戻るぞ!」

 大声を張り上げて、周囲に伝える。

 アカリのその声に、周りにいた聖戦団が反応していく。

 あえてゴブリンの中を突破する理由。

 それが明確になった。



 拠点に籠もっても先は無い。

 救助が来るならともかく、その可能性は低い。

 来たとしても、かなり先の事になるだろう。

 何せ、アカリ達がここに来るのにも、相当な労力を費やしたのだ。

 アカリ達の事を心配して来てくれる者がどれだけいるだろうか。



 それに、拠点に向かった者達には、ゴブリンが群がっていった。

 外でもそうなら、中も同じようなものだろうという予想はつく。

 なので、立てこもるという選択がそもそもない。

 となれば、退路を塞ぐように展開してるゴブリンを突っ切るしかない。

 その先には町があるのだから。

 安全圏はそこしかない。



「やるしかないぞ」

 アカリは決断する。

 アツヤが頷く。

 近くにいた聖戦団も頷いていく。



 犠牲は避けられない。

 アカリもそれは覚悟してる。

 それが自分になる可能性も。

 しかし、突破すれば何人かは生き残る。

「総員、これより敵を突破する!」

 アカリの激が飛ぶ。



 それに従い、聖戦団が動き出す。

 だが、指示とは必ず為されるものではない。

 受け取る側の気持ちや考え次第な部分もある。

 そうでなくても、様々な差異が出てきてしまう。



 例えば、赤や青という色を指定しても、その濃淡には個人による差が出てくる。

 右や左という方向であっても、何度ほどの角度になるのかはその時の状況などで変わる事もあるだろう。

『ほんの少し』という曖昧な表現であらわされる範囲は意外と大きい事もあるだろう。



 こういった差が違いとなってあらわれる。

 指示した側の意図と、実際の行動で。

 これはやむをえないものであり、その都度修正をしていくしかない。

 事前のすり合わせなどで回避するしかない。

 だが、この程度ではおさまらない違いが出て来る事もある。

 危険や困難を前にした場合は特に。

 今回もそんな出来事が当然のように発生する。



「行くぞ!」

 アカリの声が響く。

 それを合図に聖戦団が一斉に動く……事はなかった。

 それより早く、何人かが拠点へと向かう。

 突破とは逆方向へ。



 申し合わせた、というわけではない。

 ただ、走り出した者達は目配せをしたのだ。

 その時に隣にいた者と。

 たったそれだけだが、アカリの指示を無視して拠点へと走った。

 目や顔には怯えが浮かべながら。



 人数にすれば数人。

 だが、その数人はこの場において大きな損失になる。

 アカリの側にいる者は、40人から35人に減った。

 戦う事無く。



 彼等はアカリの言った事を聞いて唖然とした。

 敵の猛攻を前に何を言ってるのだと。

 そこを突破するなど正気とは思えなかった。

 そう考えるほどに彼等は敵の数を多く見積もっていた。

 少なくとも自分達よりは多いと。



 間違ってはいない。

 実際、聖戦団よりゴブリン達の方が多い。

 しかし、それは決して相手に出来ないほどの差ではない。

 それなりの難しさはあるが、突破は可能だった。



 しかし、ゴブリンは森の中からの攻撃してくる。

 相手の数がはっきりと掴めない。

 姿が見えない事で、彼らは冷静な考えが出来なくなっていた。

 指示を無視して走り出した者達には、より多く感じられていた。

 潜んでる敵の数が実際よりも。



 見えないというのは、それ程に怖いものである。

 正確にとらえる事が出来ない場合、人は何をするのか?

 言うまでもない、想像や空想を元に行動する。

 それが危険や困難だったら、逃亡を選択しがちにもなる。

 生き延びる為に。



 慌てず騒がず、冷静に現状を把握する。

 これが出来れば最善だが、そうはいかないのが生物であろう。

 状況を把握し、的確な判断が出来る者は限られる。

 それだけの胆力がある者。

 それだけの智慧が備わってる者。

 そうするよう教育や訓練を受け、なおかつ実践出来る者。

 こうした者達が正解を見つけて進んで行けるのだろう。



 しかし、そんな者はそれほど多くはない。

 たいていが目先の事だけ考えて行動し、その先を考える事はない。

 アカリの指示を無視した者達とは、そういった者達だ。

 特別臆病なわけでもない。

 格別愚かなわけでもない。

 どこにでもいるありふれた人間。

 ただ、それだけだったという事だ。



 彼等にアカリの指示が届かなかったわけではない。

 届いていたけど指示に背いたのだ。

 あるいは、聞いたからこそ背いたのかもしれない。

 それだけアカリの言ってる事に疑念を抱いてしまった。

 信じられなかったというのもあるだろう。



『何故、敵の中を突っ切るという危険な事を考えるのか?』



 そんな考えや思いが彼等の中に浮かんできた。

 敵がいない方向に逃げればいいだろうと。

 拠点に入る事が出来れば、敵の攻撃を凌ぐげると。

 そう思った彼等は、ただひたすら安全を求めて動き出していった。



 安全を求める本能としては正しいだろう。

 しかし、そこから先については全く考えてない。

 敵のいない方向に進んだとして、そこからどうやって帰還するのか?

 その間に敵に見つかったらどうするのか。

 何より、逃げてるつもりで、町から遠ざかって何をするのか。

 こういった様々な問題を考えてない。

 ただ、この場から逃げる事だけを考えている。



 そんな彼等を見て、他の者達も続いていく。

 誰もがアカリの指示に疑問を持っていた。

 だが、命令があるから逃げ出す事も出来なかった。

 そういう意味では、大半の者は良く訓練されてると言える。

 感情や気持ちよりも規律や命令を優先させていたのだから。

 だが、そんなものは簡単に崩壊する。

 指示に背いて逃げ出した者の姿は良いきっかけだった。

 それを見て従う者達が何人も出てきた。



「……ひい」

「ああ……」

「……うあ、あ、ああああ!」

 悲鳴とも叫びとも突かない声を上げて動き出す。

 そのほとんどは恐慌をきたしていた。

 頭が働いてない。

 何人かの例外を除いて。

 そんな例外も、生き残る事だけを考えて走っていた。

 少なくとも、敵の中を突破するよりは生還率が高いと踏んで。

 それも浅はかな考えでしかないが。



 最初に走り出した者。

 それに続いた者。

 全部あわせて10人ほどが逃亡した。

 40人が35人になり。

 35人が30人になった。

 戦力としては壊滅的に低下した。

 戦力差は絶望的に開いていった。



「逃げましたね」

「ああ」

 アツヤの声に、アカリは動揺もせずに応えた。

 そういう者も出て来るのは織り込み済みだ。

 全員が言うとおりに動いてくれるなら苦労は無い。



「何人残ってる?」

「ざっと半分ってところですかね」

「充分だ。

 それだけ居れば生きて帰れるだろう」

 確証はない。

 だが、そうなる可能性はあると思いたかった。



 人数が減った分戦力も低下はしたのは覆しようがない。

 しかし、それでも逃げ無かった者達もいる。

 よほど肝が据わってるのか、何も考えられない馬鹿なのか。

 どちらであるかは分からない。

 ただ、どちらであっても構わなかった。

 不利な状況にどうじないのは変わらないのだから。

 そうであるならば、慌てる事なく行動が出来るものだ。

 こういった状況ではそれが重要になる。



「行くぞ、敵を突破する!」

「おう!」

「おう!」

「おう!」

 アカリの声に、残った者達が応じる。

 いずれの声にも怯えは聞き取れない。

 それが今はありがたい。

「突撃!」

 それに従い、聖戦団が進んでいく。

 数の上では圧倒的に不利な戦闘が始まった。



 アカリの命令に従い突撃を開始していく聖戦団。

 それは一つの塊になってゴブリンの中に突入していく。

 ただ、まっすぐに敵の中央を狙ったわけではない。

 そうではなく侵攻方向の左側。

 そこに展開する敵ゴブリン部隊。

 盾をかざしながら進んでいった。


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