428回 そしてここから始まっていく、どの世界でも、この世界でも
「それで、なんで」
ため息混じりにグゴガ・ルがぼやく。
「俺の所に来るんだ?」
「いやまあ、たまには顔を見たいなー、と思って」
「たまにはってなあ」
呆れるしかない。
「俺たちに時間なんぞ関係ないだろ」
「まあ、そうなんだけどさ。
でも、この前あったのって、かなり前じゃん」
「それだって、俺たちからすれば、一瞬前の出来事だろ」
時間と空間を飛び越える事が出来る二人である。
時の流れなど、既にあってないようなものだ。
グゴガ・ルも既に覚醒階梯8段階目。
虚無を越えて宇宙から宇宙へと移動する事が出来る。
物質の再構成などもお手のものだ。
そんな段階の存在にとって、時の流れほどどうでもいいものはない。
それこそ、無限といえるほどの隔たりすらも、一瞬の出来事のようなものだ。
そんな物に、久しぶりという言葉を使う方がおかしい。
そうは言っても、その気持ちも分かるのであまり強くは言わない。
それくらいの優しさをグゴガ・ルは持ち合わせている。
「言っておくが、俺は手伝わないからな」
それはそれ、これはこれ。
仕事の押しつけを許さない。
線引きはしっかりとする。
そういうしたたかさも備えている。
ユキヒコがやってきた理由を、グゴガ・ルも察している。
久々に面倒な事が起こってる。
その解決に乗り出すつもりなのだ。
そこに連れ出される事をグゴガ・ルは危惧していた。
嫌なのでは無い。
解決事態はそれほど難しくもない。
だが、ある程度の線引きはしておきたかった。
今回の問題、グゴガ・ルの管轄ではない。
そういった明確な分担があるわけではないが。
しかし、どう考えてもグゴガ・ルが介入するようなものではなかった。
「分かってるって」
ユキヒコもそれは承知している。
「長引くかもしれないから、顔で見ておこうと思ってね」
「そりゃまた迷惑な」
「そう言わないでくれ」
わざとらしく情けない声を出す。
「さびしくなるじゃないか」
「嘘つけ」
そんなものと無縁に生きてるくせに、と続ける。
「まあ、そんなに長引くわけでも無いとは思うけどね。
ソウスケとやってくし」
「そうしてくれ。
何でもかんでも俺の所にもってくるな」
「そんなにお前さんに面倒かけてるか?」
「過去の履歴を見てこい」
そう言ってグゴガ・ルは目の前の空間に様々な事件のあらましを表示させる。
ホログラフによる空中表示のひょうに。
そこには、これまでグゴガ・ルが駆り出された件数が掲載されている。
他の者達との比較も含めて。
「これを見ても同じ事を言うのか?」
「…………コメントを控えさせていただきます」
馬鹿な事を言い合う。
そんな事が二人には大事な事だった。
気を抜くことが出来るので。
それほど二人の抱える問題は大きかった。
何せ、無限に存在する宇宙に介入してるのだ。
忙しくもなる。
後進も育ててはいるが。
まだまだ手が足りない。
せめて覚醒階梯8段階くらいになってもらわないとどうしようもない。
一つの宇宙を任せるだけなら、7段階目でも十分ではあるが。
そこで留まってもらっては困るのだ。
とはいえ、問題を放置するわけにもいかない。
また再びイエルのようなものが。
そして、魔術装置のようなものが出てくるのだから。
放置してたら全てが悪化していく。
手遅れになる前に手を打たねばならなかった。
悲劇を繰り返すわけにはいかない。
悲劇は決して何も生み出さない。
試練といってそれを放置するわけにはいかない。
悪は悪である。
悪とは、何一つ良いところがなく、あらゆるものに害をもたらすものだ。
そんなものを放置すれば、全てが悪くなる。
それが発生する兆候があれば、その原因ごと除去しなくてはならない。
ためらう理由は何一つない。
「しかし、不思議だよな」
「そうだな」
「なんでこんなに悪さする奴が出てくるんだか」
「分からん」
そこが二人にとって不思議でしょうがなかった。
「悪さしなくてもいいのに」
「そういうエラーがどうしても出てくるからな」
そうならないように調整はしている。
そうして宇宙を作ってる。
だが、どうしても欠陥は何かしら出てくる。
それが周囲に悪さをしていく。
結果として、様々なものを崩壊させていく。
それらを見つけて処分するのがユキヒコ達の仕事だった。
やらねばならない義務があるわけではない。
だが、やらねばいつか破滅につながるのではないか?
そんな心配があった。
だからこそ、頼まれるでもなく様々な介入をしていた。
誰にも望まれてないにしてもだ。
やらねばいずれ自分達の災いになる。
だからこそ、先手をうって処分をしていく。
何も起こってないのにとか。
まだ何もしてないのにとか。
そういった御託は必要ない。
そうなると分かっている、ならば先んじて処分をする。
ただそれだけだった。
「それで、今度はどうなりそうなんだ?」
「そんなに手はかからないと思う。
いくつかの霊魂を消滅させれば終わるだろうし」
「なら、大丈夫か」
「まあ、覚醒階梯もせいぜい4段階目くらいだし。
今のうちに潰しておけばどうにかなる」
「なら、がんばってきてくれ」
「はいよ」
返事と共にユキヒコは旅立つ。
転移で一瞬にして。
隣から気配が消えたのを感じて、グゴガ・ルはため息を吐く。
「まったく、あいつは」
いつまでも変わらない。
面倒で手間がかかると分かっていても、決して引き下がらない。
問題があれば解決しようとする。
「らしいと言えば、らしいんだろうが」
もう少し気を抜いてもいいんじゃないかと思う。
それが出来ない性分なのも分かっているが。
「損な性格だ」
だからこそ、グゴガ・ルをはじめとした様々なものが助かっている。
そこは感謝をすべきなのだろう。
飛び出したユキヒコは、次の瞬間に目的の世界に到着した。
ここでも問題は拡大の兆しを見せていた。
覚醒を果たしたものが問題を抱えてる輩だったからだ。
そいつが馬鹿げた事をやらかそうとしてる。
既に悲惨な事態が起こってきている。
このままいけば、更に酷い事になる。
だから、そうなる前に張本人を消去していく。
「お、いたいた」
目的のものを見つける。
すぐにそいつを霊魂的にも物理的にも、時空的にも確保する。
それから、一気に消滅させる。
それで世界が変わっていく。
そいつがいたから起こっていた事。
それが消えていく。
それによる波及効果も確かめていく。
問題がなければこのまま放置。
あれば、修正を施していく。
問題となるものを消滅させる。
それで終わりなら良い。
だが、そうならず、別の誰かが代わりになることもある。
そうなった場合に備え、しばらくは様子を見る。
幸いこの世界ではそれはなさそうだった。
だが、別の可能性を見つける。
問題を起こす屑が消えた事で出てきた可能性。
本来なら押さえつけられ、抑圧されていたもの。
世の中をよりよい方向に導く可能性をもったもの。
それが芽を出してきた。
それを感じ取ったユキヒコは、それのいる場所へと飛ぶ。
滅多にあらわれない貴重な存在だからだ。
そのまま様子を見てもいい。
だが、可能なら更によりよく導いていきたかった。
素質や才能があっても、必ず成功するわけでもない。
上手くやっていくものもいるが、全員がそうではない。
よりよい環境を用意できるなら、それにこしたことはない。
だからユキヒコは、可能な限りの援助も心がけていた。
見つけたそれは、どこにでもいるような男の子だった。
この世界で最も多い農家の生まれで、どこにでもいるような三男坊。
これといった特徴も才能もない。
そう見られている子供だった。
だが、ユキヒコにはその子の未来が見えていた。
口数は少なく、無愛想にすら見える。
しかし、的確に物事を見通し、よりよい道を示す事が出来る。
そんな人物になる。
ただ、周りがそれを理解出来ない。
それだけの素養が無い。
教養も何もなく、目先の事しか考えられない。
新しい事を受け入れられない。
それを理解するだけの頭がない。
教育がないから、とはいえない。
地の頭の悪さもある。
言ってはなんだが馬鹿が多い。
だから男の子の言う事が理解出来ない。
それどころか、訳の分からない馬鹿だとすら思っていく。
その結果、排斥されていく。
それがもったいなかった。
だから手を差し伸べようと思った。
それだけの価値があり、素質がある。
「よう」
目の前にあらわれ、声をかける。
不審人物そのものだが、そうは思わせないように細工はする。
あまり良い事ではないが、精神的な操作をかけていく。
下手に手間をかけてあれこれ準備するより良い。
そういう面倒な事をするつもりはない。
「初めまして」
「…………」
声をかけても返事は無い。
だが、決して拒絶してるわけではない。
ユキヒコを見る目には、興味がたたえられている。
それは決して精神操作によるものではない。
何かしらユキヒコに感じてるのだ。
そんな男の子にユキヒコは語りかける。
「迎えにきた。
行こう」
言いながら手をさしのべる。
少年はその手をためらう事無くとる。
この日、ユキヒコはこの世界の問題点を全て取り除いた。
そして、新たな可能性を手に入れた。
まだ長い時間が必要だ。
だが、いずれ芽吹いて大樹となる。
その種を見つけた。
あと何回かの転生をしなければならないかもしれない。
あるいは、今生で一気に覚醒を果たしていくかもしれない。
そのどちらになるかは分からない。
だが、どちらでも構わない事ではある。
どちらを選んでも未来がよいものである事に変わりは無い。
長い時間もユキヒコには大したものではない。
当事者である男の子が選べば良いことだ。
その未来への道をある程度示してやる。
ユキヒコが出来ること、なすべきことはそれだけだ。
「ま、上手くやっていこうや。
出来るだけな」
「…………うん」
少し考えてからの返事。
若干遅れるこの時間差。
それがこの少年の特性でもある。
考えるからこそ間が空いてしまう。
それもまた、好ましい部分だととらえていく。
「それじゃ、よろしくな」
「…………うん」
こうして未来を作っていく。
幸せな結末になるように。
これまでも、そうしてきた。
これからも、そうしていく。
ずっと。
【あとがき】
これで終了。
とにもかくにも終わらせることが出来てよかったと思ってる。
この終わり方で良いのかどうかは分からないけど。
欲を言えばもっとあれこれ書きたいとは思う。
特に悪党どもの悪辣さとか。
それへの制裁とか。
もっと派手に、もっと邪悪に。
それにふさわしい悲惨な末路を作りたかった。
けど、俺の頭じゃこれが限界だった。
これは本当に残念。
でも、書きたいものというか、書きたい方向性というか。
それだけは出したつもりではいる。
この手の復讐や報復もの。
その展開がどうしても納得できないものが多かったので。
俺ならこうするのに、と思うことばかりだった。
なので、そういう不満のない形にしたかった。
これだけはやりきれた。
悪人悪党は滅びるべき。
許しとか反省とか。
そんなもんが出てくる展開がやたらと目につくので。
そんなわけないだろ、という思いからこんなものをこさえた。
受けないだろうなとは思ったが。
それでも、読んでくれる人がいるのがありがたかった。
主人公に不可解な動きもさせたくなかった。
自分を痛めつけた加害者をいたわるという。
そんな理不尽で不可解でありえない人間など出したくなかった。
それは人がいいのではない。
奴隷でしかない。
自我を放棄したロボットでなければなんなのか?
生きてるサンドバックでしかないだろう。
やられたらやり返す。
どんなに時間がかかり、手間がかかろうとも。
それが普通の人間だろう。
それがそうならない、やり返したら加害者がかわいそうなんて人間は出したくなかった。
上手くいったかどうかは分からないが、これもとりあえずは書けたと思いたい。
なので、復讐を当然おこなう。
悪いのは加害者で、報復する被害者ではない。
被害者になんの罪もない。
手段も問わない。
正々堂々なんていうわけのわからない事はしない。
やらかした奴は手段を選ばない。
だから同じように手段を選ばない。
悪いことしてるのだ、悪いことしてやるのが当然の対応だろう。
それをしないというのが理解出来ない。
こういう展開だけは心がけていた。
そこから外れた場面が無いことを願うばかりだ。
自分で書いたものだけど、どうしてもそうなってない部分もあるかもしれないので。
また、そういった表現になってない部分もあると思う。
そういう書き落としが思った以上に多かったかたら書き直しをしてたりするのだが。
最初の頃を見ると、まあ酷い酷い。
よくこんなの掲載したなと頭を抱えたくなる。
修正が出来るネット投稿で本当に良かった。
ただ、こういう話なので、誰がどこまで読んでくれるか分からんかった。
最後まで読み続けてくれた人がどれだけいるのだろうか?
楽しんでもらえるという贅沢な事は考えないが。
読んでて良かったと思えるような部分が一つでもあればいいなとは思ってる。
また新しい話も考えてるので、そちらもよろしく。
では、また別の話で。
【追記】
この話の蛇足的な小話についてのリンクを、下に表示してある。
よかったらリンク先のブログだけでも眺めてもらえるとありがたい。