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42回 聖戦士と聖戦団────選んだ道が正解とは限らない、それでも責任をとらねばならない

 アカリの指示に従い、ゴブリンの突破をはかる者達。

 彼らはやってくる指示を待ってしのぶ。



 そんな彼らと対照的に、指示を待つことなく逃げ出した者達。

 彼らは開いている拠点の門を目指して走っていった。

 特に攻撃される事もなく、安全に。

 それを彼らは、ゴブリンがいないからと勝手に解釈した。

 こちらの方が安全だったのだ、とも。



 振り返る事もなく走る彼らは、そのまま拠点に入っていく。

 考えがあってそうしてるわけではない。

 そこが安全そうだと思ったから飛び込んだだけだ。

 身を隠す場所、攻撃を遮る物。

 目についたものが拠点だった。

 だからそちらに向かう。

 それだけだった。



 そうして飛び込んだ拠点。

 彼等は門を閉めていく。

 一番最初に入った者から。

 後に続く者など気にもせず。



「お、おい!」

 門の外に残された何人かが声をあげる。

 しかし、中にいる者はそれを気にする事はなかった。

 自分が生き残る事が優先だった。

 他の者を省みる余裕などない。



 そもそも、そんな考えを持ち合わせてない。

 自分が良ければそれでよい……そういった考えの者達がほとんどだった。

 だからこそ、指示を待たずに逃げ出した。

 門も敵が入ってこないように、すぐに閉めた。

 それで安全が確保出来るならと。

 多少の犠牲はやむをえないと自己弁護して。

「女神イエルよ、どうか彼らを助けたまえ……」

 そんな呟きを免罪符にして、彼らは身の安全を優先させた。



 それでも逃げ出した者達の大半が拠点に飛び込んだ。

 外に置き去りにされたのは3人ほどである。

 それもあって彼らは、これはやむをえない損失と考えた。

 単に切り捨てるための口実として、そう考える事にした。

 閉め出され、置き去りにされた方はたまらない。



「開けろ、開けてくれ!」

と叫び、門を叩く者達。

 そんな仲間を無視して、拠点に飛び込んだ者達は安堵する。

 これで助かったと。

 そして、身を隠す場所を求めて、建物を物色しはじめる。

 防壁の中とはいえ、それだけでは心許ない。

 更に身を隠せる場所を求めて、適当な家屋を選びはじめる。

 そんな彼等に、門を叩く音と呼びかける怒声が絶えることなく浴びせられていった。



「ちくしょう、ちくしょう!」

 外に残された者達は、ただひたすらに声をあげる。

 それで何がどうなるわけでもないのに。

 そんな彼らには、更に悲惨な現実が迫っていく。

 拠点の周囲に潜んでいたゴブリンが迫っていくのだ。



 その数は外に残された者達よりも多い。

 20人ばかりはいるだろうか。

 それに気づいた閉め出された3人は絶望した。

 いくら能力の劣るゴブリンでも、これだけの数が相手では分が悪い。

 武器と盾を構えはしたが、3人はここで命運は尽きたと察した。



 そんな彼等は身を以て示していった。

 退いたこちらの方が死地であったと。

 そしてそれを襲いかかってくるゴブリン達によって証明させられる。

 自分達の死体をさらす事で。



「来たねえ……」

 拠点に入って来た敵を感じ取って、ユキヒコは少しだけ安心した。

 予想通りの行動をとってくれた事に。

 その為に、ゴブリン達に退路を塞ぐ形で展開させていた。



 敵を生かして帰すつもりはない。

 まだもう少し敵には混乱をしていてもらいたい。

 結果がすぐに分かるような事は避けたかった。

 その為にも、敵にはここで全滅してもらわねばならない。

 一人も生きて帰らぬように。



 敵戦力の壊滅も狙っている。

 ここで義勇兵の大半を処分した。

 聖戦団も片付ければ、この方面の敵はほぼ消える。

 そうなれば、敵はその補充に時間をかける事になる。

 その時間の分だけ、ユキヒコ達は自由に動き回る猶予を得る。

 なので、やってきた者達には確実に消えてもらう事にした。



 その為に、わざわざこんな手段を弄した。

 撤退する気の緩んだ瞬間を狙い。

 来た道を塞ぐ事で出口を消して。

 あえて拠点の方に逃げ道を作り、そちらに人を誘導し。

 門も開いて敵を招き入れる事にした。

 拠点の中と外で敵を分断するために。



 少しずつでも敵の戦力を減らせればその方が良い。

 例え一人か二人だったとしても、その分戦力は低下する。

 幸い、今回は10人も敵が逃亡してきてくれた。

 おかげで敵の戦力はその分減っている。

 ありがたい事だ。



 聖戦団50人という人数はいささか大きい。

 まともに正面からぶつかれば、ゴブリンに多大な損害が出る。

 それを少しでも減らして撃破したかった。

 なので、今回のように敵が分裂してくれるとありがたい。



 これで敵の本隊は40人になった。

 その分だけゴブリンとの戦力差がひろがる。

 被害にあるゴブリンもそれだけ減るというもの。

 更に敵が減ってくれれば言うことはないのだが。

 こればかりはどうにもならない。



 悲しいかな、ゴブリンは戦力として期待出来ない。

 100人単位でいても、気休めにもならない。

 何せ、訓練を受けた兵士一人で、ゴブリンを二人や三人はあしらえる。

 まして聖戦団の聖戦士であれば、有象無象のゴブリン10人くらいは簡単に倒す。

 戦闘力の差はそれだけある。

 なので、相手の戦力削減は緊急課題だった。



(まあ、10人も減らせれば)

 それだけでも削る事が出来れば御の字。

 そう考える事にする。

 10人減る事で、敵を倒すのに必要なゴブリンも減る。

 おおよそ20人から30人は不要になる。

 これは大きい。



 この逃げ出してきた10人。

 確実に始末していく。

 幸い、拠点の中に立てこもっているゴブリンがいる。

 それらに聖戦団の連中を片付けてもらう事にする。

「隊長、中に入ってきた連中を片付けよう」

 グルガラスに提案をする。

 それを受けて、隊長ゴブリンのグルガラスは命令を出す。



「くそ、くそ!」

 悪態を吐きながら聖戦団の兵が建物の陰に向かっていく。

 立て籠もれる、身を隠せる場所を探すために。

 そうして彼らは、散り散りになっていく。

 せめてまとまって行動すれば良いのだが。

 他を省みる余裕がない彼らは、自ら各個撃破をしやすい状況に陥っていく。



 そんな彼らは、適当な建物の中を覗いてく。

 様子を確かめる、身を隠すのに適してるかどうかを調べる。

 さすがに彼らも、この状況の拠点が安全だとは思ってない。

 いきなり連絡が途絶えた場所だ。

 何かあると警戒する。

 その調査の為にやってきたのだ。

 慎重になって当然だ。



 とりあえず中から物音がしなければ大丈夫とふんでいく。

 安全を保証する理由にはならないが、それでも構う事はない。

 逃げ込んできた彼らにとって大事なのは、実際に安全かどうかではない。

 自分が安全と思えるかどうか。

 そう思えればそれで良い。

 優先してるのは、具体性ではなく気分の方だ。



 そして、安全と思える所を見つければすぐに入り込んでいく。

 可能ならば中から鍵をかける。

 他の者もかくまおうという気持ちはない。

 散り散りになってるから周りに味方がいないというのもある。



 だが、仮に一緒に行動していたとしても協力したかどうか。

 今の彼らは酷く動揺し、恐慌状態に近い状態になっている。

 味方であっても迂闊に信用できないほどに。

 そんな彼らに連携という言葉はなかった。

 この場において、最も必要であるはずなのに。



 いずれにしても、彼等のやってる事は全てが無駄であった。

 どれ程警戒しようと、どれ程身を守ろうと、それが実を結ぶ事はない。

 彼等が飛び込んだ先は敵が潜む危険地帯である。

 安全な場所など何処にもない。



 そう、彼等は飛び込んだのだ。

 逃げ込んだのではない。

 向かった先は安全地帯などではない。

 危険区域だ。

 そんな所に入って無事でいられるわけがない。



 建物の中に入った者達は、ひとまず安心する事が出来た。

 だが、それが間違いであるといずれ気づく事になる。



 気の流れによって隠れた場所を特定するユキヒコ。

 それをもとに、ゴブリン達に指示を出していく。

 その建物の出入り口を全部塞ぐようにと。

 扉はもとより、窓も含めて。

 それらには板が打ち付けられ、障害物を設置されていく。



 拠点襲撃時に立てこもった者達と同じだ。

 中に入られないようにしたは良い。

 しかし、敵によって外に出られ無くなってしまう。

 水も食料もない状態で。

 一応、保存食はいくらか持ち合わせてるが、それで持つのは数日という程度。

 それを過ぎれば飢え死にするだけ。

 立てこもった者達はそれに全く気づいてない。



 いずれ気づくにしても、その時には手遅れ。

 外に出たくても出られない。

 そのまま体力を消耗し、干からびていく。

 あるいはそうなるまえにゴブリンに息の根を止められるかもしれない。

 まともに動くことが出来ないほど消耗したところを。



 彼らはもう詰んでいた。

 いずれ潰える。

 それがいつになるかという違いしかない。

 早いか遅いか。

 そんな運命を、まだこの時点では知らない。

 おそらくそれは幸せなのだろう。

 一時でも平穏を得られたという意味で。



 そうでない者もいるにはいる。

 ただ、それも決して安楽を得られたわけではない。

 立てこもる家屋も見つけられずにうろついている。

 そこをゴブリンに囲まれていくのだ。



 道を塞がれ、屋根の上に上ったゴブリンからも見下ろされ。

 10人20人というゴブリンに囲まれて。

 いくら聖戦団でも、一般兵ではそれだけのゴブリンを相手にする事は不可能。

 襲いかかってきたゴブリンに四方八方から袋だたきにされていく。

 そして、接近したゴブリンの手にした短剣で体中を突き刺されていった。

 体中から血を流していきながら、ほどなく潰えた。



「やってるな」

 聖戦団への処理が進んでいくのを感じ取っていく。

 各所で動くゴブリンの気配からそれが伝わってくる。

 拠点に入ったのは10人中7人。

 そのうち5人は自ら閉じ込められていっている。

 一部は外に出てるところを倒された。

 経過はともかく、全員潰れたのは確かだ。

「順調、順調」

 円滑に進行していく事に満足する。



 こうして拠点内に向かってきた聖戦団は壊滅していった。

 全部で10人。

 そのうち3人は外に取り残されてゴブリンに。

 中に入った者のうち5人は建物に立てこもり、入り口を塞がれ隔離される。

 更に2人は、外を歩いてる所をゴブリン達の手で倒された。



 隔離された者はまだ生きてる、それは今は放置してもかまわなかった。

 戦闘に参加しないならそれでよい。

 戦力になってなければ当面は問題ない。

 今後、時間をかけてじっくりと処分するだけだ。



 これらを倒すにあたり、ゴブリン側の損害は極めて軽微。

 外に出た敵を襲撃した際に、4人が負傷しただけだ。

 その4人も極めて軽傷。

 兵の武器がかすった程度である。

 戦果としては上々だった。



「上手くいったようだ」

 感じ取った気配をグルガラスに伝える。

「ゴブリン達からの報告もそのうち来るよ」

「そうか」

 頷くグルガラスは満足そうだった。

「あとは外にいる連中だけか」

「ああ、まだ気配が残ってる。

 そのうち動き出すだろうけど」

「なら、潰しにいこう」

 腰をあげたグルガラスは、外に出向こうとする。



「いや、待ってくれ」

 ユキヒコはそれを留める。

「大将が簡単に動いちゃいけない。

 ここを抑えておく必要もあるんだし」

「ぬ?」

「閉じ込めた連中の事もある。

 グルガラスにはここにいて欲しい」

「うーん、それでいいのか?」

「それがいいんだ」

 はっきりと断定する。

「外には俺がいく。

 少しは働かないと」

「なるほど」

 納得したグルガラスは、

「なら、任せた」

とユキヒコの言い分を認めた。



「それじゃ、行くぞ」

 監視の為に残す者以外を集める。

 総数は100人にもなろうか。

 それらがジッとユキヒコを見つめる。



「これから外に出て、残った敵を片付ける。

 残敵掃討だ」

 あえて残敵とした。

 外にいる方が主力であるのに。

 しかも、数も多い。

 それでもそう言ったのは、士気向上の為だ。

「残った連中を片付けて、決着をつけよう」

 嘘でもこう言う事でやる気を奮起させる。



 残った少しの仕事をこなすだけ。

 そう思わせていく。

 実際、さほど手間はかからないだろうという確信もあった。

「門を開け」

 指示に従いゴブリンが動く。

 開いていく門の向こうには、動き出した聖戦団の姿があった。

 それに向けてユキヒコは足早に進んでいった。

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