418回 勇者誕生
裏切り者を集めた国には、その後も流れ込んでくる敵国民を送り込み続けた。
王族・貴族・有力者・平民の区別なく。
おかげで裏切り者の国は騒動が絶えなかった。
そもそもとして、全てがちぐはぐなのである。
ア国の王族と、イ国の貴族と、ウ国の商人と、エ国の職人と、オ国の平民が。
こういった別々の国の人間が集まってるのだ。
統制などとれるわけがない。
更にそこに、カ国とキ国とク国の王族がやってくる。
その下の貴族・商人・職人・平民などもだ。
違う国の者達が集まってくるのだ。
混乱は避けられない。
それでも土地がいくらかあればまだ分散する事も出来たかもしれない。
だが、国一つとはいっても、その広さには限りがある。
枯れた土地ではないが、それでも限りのある土地を求めて争いも始まる。
その時には、元々の国を中心にまとまっていく。
なまじ王侯貴族がいたことがそれに拍車をかける。
掲げる旗頭がある。
だから国ごとに団結する。
それ自体は良いのだが、この状況では悪く出る。
互いに陣営を作って争いあってしまう。
これが商人職人と平民だけなら、別の王侯貴族の下に吸収されたかもしれないが。
たとえ一時的にせよ。
そうはならないから収拾がつかなくなる。
それぞれの権利を主張して譲らない。
実際、生死の瀬戸際だ。
土地を確保出来なければいずれ死んでしまう。
命がかかってるのだから、後に退くはずも無い。
かくて一国の中で戦争が始まる。
自ら潰し合いを始めた彼らは、生き残ったのに自ら殺し合いを始めた。
何のために裏切ってまで生き延びたのやら。
それを見ていたエルは笑いが止まらなかった。
ただ、そんな事をしてばかりでもしょうがない。
続けばいずれ鬱憤をためるだろう。
それがエルに向かう可能性はある。
だから対応策も施す事にした。
ここに勇者が誕生する事になる。
それは最初、エルの側の領土から発生した。
ごく普通の、特に目立たない少年が。
エルが直接語りかけ、加護や奇跡を授けた。
また、教会の者達にも神託という事で語りかけた。
これにより、一晩にして目立たなかったごく普通の少年は有名人になった。
周りも驚いた。
本人が一番驚いた。
何にせよ、初めての事だ。
いったい何がどうなってるのかといぶかしんだ。
その説明は教会の者達が行っていった。
「女神イエルは、長引く戦争に心を痛められている
「それを終わらせる事を望んでいる
「そこで、これはと思った者に力を授けた
「この戦争を終わらせ、世に平穏をもたらす事を願って」
そんな煽り文句でもって少年に起こった事を説明させた。
なお、全て嘘っぱちである。
確かに戦力は欲しいが、別に力のある者を作るつもりはなかった。
時間はかかるが、今のやり方で十分にやっていける。
これはあくまでも、面倒な敵を倒すための策でしかない。
ただ、なんであれ勇者と呼ばれる者が登場した。
これを使ってエルは更に工作を進めていく事になる。




