415回 やり方を求めたものと、勝つことを求めたもの
そんなイエルに対抗する為に神々も動き出す。
しかし、彼らは決して勝てなかった。
イエル側を殲滅しなかったからだ。
相変わらず彼らは敵の軍隊を狙った。
降伏すれば捕虜として扱った。
その為、イエル側に損害などほとんどなかった。
戦えば死傷者は出たが。
しかし、国力が落ちる事はなかった。
中には軍勢ごと捕虜になるという事態もあった。
それにより神々の側はとてつもない負担をする事になる。
何せ降伏した軍勢を食わしていかねばならないのだ。
戦わずして大損害を受ける事になる。
むしろイエルは、こういうやり方をよく行った。
万全の敵がいる時は。
そうして敵の糧食を奪い、自分の糧食を保つ。
敵は戦わずして飢えていく。
体力を失っていく。
そうなってから襲いかかるのである。
腹を減らした軍勢ならば、それほど恐れる事は無い。
本来の力の半分も出せない神々側の兵は、次々と倒れていった。
ここで捕虜について説明せねばなるまい。
まず、捕虜とは悲惨なものと考えられてるかもしれない。
しかし、これは大きな間違いである。
捕虜とは、大切に扱わねばならない存在だ。
捕虜と聞くと拷問や虐待を連想するだろう。
だが、本来ならそんな事はしてはいけない事である。
捕虜とは、極力その心身を損なわないように扱わねばならない。
命も尊厳も人として扱わねばならないのが捕虜である。
なかにはそう扱わない者もいるだろう。
だが、そういった者には処罰が下る。
捕虜に拷問や虐待などを行えば犯罪である。
やらかした者には相応の罰が下る。
もちろん、無駄飯を食べさせる必要もない。
労働力として使うのは構わない。
ただ、そういった場合には適切な対価を支払う事にもなる。
奴隷では無いのだから。
実際にはこうはならない事もある。
虐待や拷問を加える奴もいる。
それを咎めない事もある。
しかし、これらを行う事を奨励してるわけではない。
厳しく取り締まられる。
そうして守られるのが捕虜である。
神々の側はこれを守っていた。
その為にいらぬ負担を背負い込む事になった。
結果として自分達の消費や消耗を激しくして、敵に利益を与えている。
イエル側からすれば笑いが止まらない。
そんなイエル側も一応捕虜をとりもする。
捕虜を交換して味方を回収する為に。
その材料として敵を捕らえる事もある。
だが、まともな扱いなど決してしない。
食事をろくに与えないのは当たり前。
強制労働なんて基本中の基本。
拷問に虐待もしょっちゅうだ。
死なないように注意はするが、死んだところで気にしない。
そして、捕虜交換を材料を確保しておく。
そして捕虜交換の際に、まともに動けなくなった廃人を使っていく。
イエル側は敵が養ってくれた精強な兵士を回収する。
神々は残りの人生をまともに過ごせないほどにやつれた者を連れてかえらねばならない。
自力で動くことも困難な者達を移送するのも大変な労力だ。
そしてイエルはそんな移送者を襲う。
襲って新たな捕虜交換材料を確保する。
この違いにより、神々はどんどん退く事になる。
だが神々はそれでも敵を優遇する事をやめなかった。
それはあまりにも惨いと言って。
愚劣としか言い様がない。




