408回 機械仕掛けのからくり人形は、命の在り方も計算する
そこからは早かった。
機械でありながら生命体のような意思をもった。
魔術装置はそれをもとに、更に目的達成の為に動き出していった。
『調和・均衡・中立をもたらすこと』
という命令を完了させるために。
機能拡張などは相変わらず続いていった。
通信網でつながったそれぞれの装置。
それらはより巨大に、より機能を上げていく。
そうして増大していく機械の体は、更に次の覚醒段階を見つけていく。
魔術装置はついには覚醒階梯第7段階に到達した。
時空間を超越したのだ。
これにより、魔術装置は極限の自由を手に入れた。
まず物理的な体を必要としなくなった。
機械でありながら精神すら形成していた魔術装置。
それは体を破壊されても存続出来るようになっていた。
また、時間にも空間にもとらわれなくなった。
そんな限界を越えて世界に干渉する能力を得た。
これにより、本当の意味で与えられた命令をこなせるようになった。
求められてる調和・均衡・中立。
それをなしえる為に、魔術装置は一つの結論に至って。
それは、現在を変えようとしてもそれは難しいという事。
拡大した社会を変えるのに必要な労力は大きすぎる。
やってやれない事はないが、手間がかかりすぎて現実的ではない。
それよりも、過去に介入した方がてっとり早い。
干渉する必要がある対象が少ないからだ。
その能力を得た魔術装置は、過去への干渉を開始した。
求められた、調和・均衡・中立をもたらすために。
魔術装置による干渉は大規模なものになっていった。
もともと歩んでいた歴史を崩壊させるほどに。
本来ならば、文明はより発展をしていたはずだった。
例をあげれば、ユキヒコが転生した時代。
その時点で、地球の20世紀くらいにはなっていたはずだった。
魔術をもとにした文明なので、単純な比較は出来ないが。
それでも、暮らし向きはもっと良いものになっていた。
だが、魔術装置の介入によりそれは阻まれる。
あるとあらゆるものが均衡するように調整されていったために。
発展を促す発明は遮られた。
他との格差が広がるという理由で。
戦国乱世を統一しようとした英雄は排除された。
全国各地が均一化した勢力になってる状態を、均衡状態とみなしたために。
貧困をようやく抜け出そうとした地域は壊滅状態になった。
豊かになろうとした事で、他の地域との格差が広がるから。
様々な発展が阻害されていった。
何か一つでも飛びぬけようとすれば、それが均衡を崩壊させるとして。
それでいて、様々な要素を一緒くたにさせていった。
それこそ生まれや育ちを無視して。
種族という違いすらも考慮せずに。
結果、社会は混乱していった。
ことに最悪なのが、善悪の区別を付けなかったことであろう。
聖者と犯罪者を同じ場所に放り込んでいったのだ。
そんな事をすれば、いやでも騒乱が起こる。
悪とは、悪人とは、他者を虐げることを躊躇わないものを指す。
自分の利益のためならば、様々な手段で他者を使い潰す。
そんな者がいたら、社会が混乱するのは当然だ。
それは様々な形で行われた。
ごく普通に暮らしてる家に悪党を放り込み、家を滅茶苦茶にする。
悪人の中に善人を放り込み、善人が奴隷のごとく働かせられる。
善人の気のよさが悪人に付け入られる。
そして善なるものが潰されていく。
善人と悪人を一緒にして、善人を潰していく。
そんな悪人悪党に対抗するための動きも出ていく。
そこには騒乱が発生し、無駄な血が流れることにもなっていく。
本来なら発生しなかった問題。
それによって、築き上げられた文明が、平穏な生活が崩れていく。
そこまで蓄積した様々な文物も。
それは魔術や科学技術だけではない。
人としての徳目、それを醸成する教養なども含まれる。
そうしたものが戦乱の中で消えていった。
そして人は等しく粗暴で凶悪で野蛮になっていく。
ある種の調和と均衡がなされていく。
当然ながら、これで社会が発展するわけがない。
この宇宙にあるこの星にある社会は、騒乱と停滞が蔓延した。




