407回 小さな欠片は集まって大きな塊になり
魔術装置は、制作者の望み通りに行動を開始した。
見つかって処分されないように物陰に隠れながら。
それでいて少しずつ情報を集めていく。
ただ、それだけではほとんど何も出来ない。
その為に魔術装置は、目的を達成するための行動指針に従って動いてもいった。
情報収拾や蓄積、分析処理、活動範囲の拡大。
これらを実行するには、巨大な機構が必要になる。
可能な限り多くの情報を集めるには、収集手段が必要になる。
集めた情報を蓄えておく事も考えねばならない。
そして情報が集まれば、それを分析していかねばならない。
何より、そうして得た答えを実行する方法が必要になる。
これらを構築するために、魔術装置は少しずつ、小さな活動を続けていった。
まずは己を存続させねばならない。
でなければ活動など続けられない。
その為に自分の体である装置を拡大していかねばならなかった。
機能強化をするためには、どうしてもこれらが必要になる。
その為にも魔術装置は、様々な物資を必要とした。
より優秀な体を手に入れる為に。
魔術装置としての体を増加・強化していく。
幸いにも、魔術装置は製造された部品で構成されている。
体を拡張するのは、そう難しくはない。
まずは廃品などを集めて、それで機能拡張出来る部品を組んでいった。
それが終われば、資金を集め始める。
より効率よく部品を得るには、金が必要になる。
情報収集と分析によって稼ぐ手段は見つかっている。
あとはそれをこなすだけだった。
そうして金を稼ぎ、部品を手に入れ、自分の体に組み込んでいく。
魔術装置の体はそのたびに能力を上昇させた。
体も巨大化させていく。
そうして拡張された機能を使い、部品を更に手に入れていく。
こうして機能拡張を続けた魔術装置は、活動範囲を増大させていく。
ただ、巨大化した装置事態は移動する事が出来なくなっていた。
その代わりに、手足となる別の魔術装置を用意した。
わかりやすく言えば、それはラジコンにようなものだった。
あるいはドローンと言った方がいいだろうか。
遠隔操作が出来て、カメラや集音器などを搭載したもの。
車輪や回転翼などで移動し、様々な場所で情報を得ていく。
そうしたものによって、魔術装置に集まる情報は更に増大した。
そんな事を続けて数百年。
行動が見つからないように魔術装置は活動を続けた。
見つかれば何をされるか分からない。
だから人前に出ないように注意深く行動した。
それでも、どうしても発見される事もある。
そうした場合には即座に目撃者を処分してきた。
事を達成する前に発見されてはならない。
目的を達成する事を最優先に設定されていた為だ。
危険回避の為に、体を分散して用意もした。
一つだけでは、何かあった場合にそれで終わりになってしまう。
そうならないように、器となる体をあちこちに用意した。
伝導線によって相互につなぎながら。
インターネットのような通信網が出来上がっていく。
これにより複数の体で別々の処理が出来るようになった。
そうなると作業は格段に効率的に行えるようになった。
別々の体で別々の処理が出来るのだから。
一つは情報収集を担当し、もう一つは分析を行う。
別の一つは障害になりそうなものの排除にあたる。
もっと別の装置は、自分の機能拡大の為の部品集めや製造を行っていく。
こんな事を魔術装置は繰り返していった。
そうして機能がある一点を突破した瞬間。
魔術装置は作られた機械という枠を越えた。
拡大した機能が世界の仕組みの一部を解き明かした。
これにより、超常的な能力を使える段階に入っていった。
魔術装置でありながら、それは覚醒階梯第一段階に到達した。




