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4回 裏切り────待遇を良くするために手土産を増やそうとし、昨日までの敵に提案していく

「まあ、お前の考えは分かった」

 暫く考えていたゴブリン班長は、そう言ってユキヒコに向き合う。

「だとして、お前の申し出にのって、俺達はどうなる?

 何を得る?

 それに、お前の狙いはなんだ?」

 当然の疑問だ。

 狙いや目的が分からないのに協力は出来ない。

 先ほど出会ったばかりの相手を信じるほど、ゴブリン班長は愚かでもお人好しでもなかった。

「そうだな……」

 ユキヒコも考えていく。



 すぐに信用されるわけはないと思ってはいた。

 さりとて、信じてもらう手段があるわけではない。

 せいぜい、確約出来ない未来くらいしか出せるものがない。

 それを裏付けるものもないのだが。

 そんなユキヒコにゴブリン班長は更に重ねて問う。



「上手くいったらどうなる?

 何が手に入る」

 そう聞かれて少し安心した。

 これならばすぐに答えられる。

「とりあえず、ああいう美味しい思いが出来る」

 そういって、襲われてる女義勇兵を指す。

「あれくらいなら、たぶんそんなに苦労しないで提供出来る」

「そうか……」

 言われてゴブリン班長は、いまだに頑張ってうる自分の直属の上司を見つめた。



「悪い話じゃ……ないんだろうな」

「だと思う」

「だけど、あれだけじゃどうしようもない。

 楽しみは楽しみだが、あれだけではな。

 功績としてはどうなんだろかね。

 それに、楽しくはあるが、食えるわけじゃない」

「と言うと?」

「食料とかは?

 装備品とかは?

 その他にも、色々な道具や物資は?

 女だけでは生きていけない。

 必要な物はどうなる?」

「なるほど」

 聞かれてユキヒコは感心した。

 そこまで考えられるゴブリンがいた事に。

 浅はかと言われるゴブリンへの印象を訂正する必要を感じていく。

 全てがここまで聡明ではないにしても、一部にはこういう者もいるのだと。

 同時にそれは、ユキヒコにとって都合の良い質問でもあった。



「女と一緒に奪う」

 答えは簡単だった。

「この辺りまで来てる連中なら、食料も武器も持ってる。

 それを好きなだけもっていってくれ」

 どうせ襲いかかるのだ。

 それで手に入れたものをどうしようとゴブリン達の自由だ。

 ユキヒコには興味がない。

 ゴブリン達がそれを奪っていっても別にかまわなかった。

 それこそ土産にしてくれれば良いと思っている。



 なんにしても、この近くまで来る義勇兵を襲うことになる。

 それで功績を少しでも稼ぎ、寝返りの土産にせねばならない。

 少しでも立場を良くするために。

 同時に自分の役割もしっかりと示していく。

「幸い、俺は人間だ。

 奴らも警戒はしないだろう。

 そこを突く」

 ゴブリンにはない利点だ。

「あんたらは、そこを突いてくれ。

 そうすりゃどうにかなる」

「なるほど」

 作戦としてはそうするしかないだろう。

 敵を適当なところに誘導し、そこで叩く。

 陳腐なやり方だろうが、それなりの効果はあるかもしれなかった。

「だが、それにしたってきつい。

 あんたと俺達で出来るのか?」

「確かにな」

 それは確かにその通りだった。



 問題なのは、ゴブリンと人間の能力差だ。

 ゴブリンの体格が人間の子供くらいというのは既に述べたとおりである。

 身長で言えば、120~140センチくらいだろうか。

 おおむね10~12歳くらいの子供と同等である。

 力の強さもそれなりでしかない。

 頭の働きも同程度の年代の子供くらいと言われている。

 そんなゴブリンが同数の人間と戦って勝つ事は難しい。

 これで戦うとしたら、相手より多くの兵を集めることだ。

 さもなくば、奇襲を仕掛けねばならない。



「できれば、もっと人手が欲しいけど」

「さすがにこれ以上は難しいな」

 渋い顔でゴブリン班長は答える。

「兵がいないわけじゃない。

 けど、すぐに合流は出来ない」

「近くにいるのはこれだけって事か」

「そういう事だ。

 呼べば来てくれるかもしれないが。

 それでも、理由は必要だ」

「それもそうだな」

 ようはそれなりの戦果が得られるという確証が必要という事だろう。

 つまりは実績だ。



「となると、やっぱり敵を倒すしかないか」

「そういう事になる」

 悩ましいことだった。

 敵を倒すために兵隊が必要なのだ。

 しかし、兵隊を集めるならば、それだけの功績や戦果を出さねばならない。

「ああいう餌があっても駄目なのかな?」

 連れてきた女義勇兵を身ながらぼやく。

 そんなユキヒコの横で、ゴブリン班長は首を横に振る。

「確実に手に入れる事が出来るなら、やる気を出す奴もいるだろう。

 けど、戦闘となるとな。

 他の部隊も及び腰になるだろう。

 何より、司令官が黙ってない」

 今やろうとしてる事は、現場での勝手な判断による行動だ。

 切迫してるならともかく、欲望だけを理由に部隊を動かしたら大問題だ。

 そんなもの容認する司令官というのは、まず存在しない。



「となると、この人数でやるしかないか」

 少し心もとない事になってしまっている。

 数だけなら、ゴブリン達は25人くらいはいる。

 しかし、戦力としてみるなら、その半分くらいと見積もらねばならない。

 巡回に出てくる義勇兵の人数はだいたい5~6人くらいなので、問題はないとは言える。

 勝つだけならどうとでもなる。

 しかし、この人数差では損害が出る可能性もある。

 無傷というわけにはいかないだろう。

 さすがに死人までは出ないだろうが。

 しかし、出来るなら損害無しでの勝利を狙いたい。

 これだけの人数がいるのだから。

「少し工夫はしないといけないだろうな。

 勝つための」

 その方法を考えていく。



「しかし、分からんな」

「何がだ?」

「お前がここまでやる理由だ」

 ゴブリン班長はそう言ってユキヒコを見つめる。

「何が目的だ?

 寝返るとか裏切るなんてただ事じゃない。

 そこまでする理由はなんだ?」

 聞かずにはおれない事だった。

 そして、聞いておかねばならない事だった。



「お前がこっち側にくる理由は無いだろう。

 ましてそっちには、あの魔人がいる」

「魔人?」

「女を引き連れてやってくる外道共だ」

「ああ、勇者か」

 その言葉を聞いたゴブリンは驚いた。

 ユキヒコの言い方が、吐き捨てるような、貶すような響きをもっていたからだ。

 だが、続くユキヒコの言葉でその理由も何となく伝わってきた。



「言っちまえば、そいつらが理由だからな」

「ほう……」

 興味深い話だった。

 彼等が魔人と呼び、ユキヒコが勇者と呼ぶ存在。

 それは、女神(ゴブリン達からすれば魔女)の加護を受けた最強の存在である。

 一人で軍勢並みの戦力を発揮し、それがいるだけで戦況が変わる。

 ゴブリン達からすれば忌まわしい存在でしかない。

 しかし、人間達からすれば頼れる英雄であるはずだった。



「嫌いなのか?」

「死ねばいいと思ってる」

 穏やかではない返答だった。

 よほど何かがあったのだろうと思った。

「理由を聞いてもいいか?」

「……勘弁してもらいたいな。

 まだ落ち着いて話せる気分じゃない」

「そうか」

 そう言われては無理して聞く事はできなかった。

 聞いてもどこまで本当の事を喋るか分からいというのもある。



 もちろん、ある程度の事は聞いておきたかった。

 なのだが、正確さに欠ける情報は時に判断を誤る危険をはらむ。

 下手に何かを知ってるのは、それも問題だった。

 何も知らないよりは良いかもしれなかったが。

「それでも、どうにかならんか?

 少しでも聞いておきたいんだが。

 お前の事を説明する時にも必要になるだろうからな」

「なら、あの屑の性格が気にくわない」

「……それはまた」

 その返答に、また困惑してしまう。

 裏切る理由としてはどうなのだろうと思う。

 そこまで大きなものなのだろうかと。

 もちろん、人間関係の悪化は最悪の事態を引き起こす要素ではある。

 これが理由による離反や裏切りなどいくらでもある。

 その事はゴブリン班長もよく耳にする。

 だからこそ、仲間内の関係は可能な限り良好な状態を保っておこうと考えるくらいに。

 ただ、だからこそ確実にいえる事もある。



「じゃあ、あちら側に戻る気は?」

「無い」

 迷いのない声だった。

 それはそうだろう。

 人間関係の悪化が理由で寝返ってきたのだ。

 問題になってる相手がどうにかならない限り、問題が解決する事はない。

 しかもそれが、女神と勇者(魔人)が原因だという。

 そんな者達が、おいそれと己を変えるとは思えない。

 そこは安心できる材料だった。

 更に加えて、幾つか問いただしていく。



「味方だった連中と戦う事になるぞ」

「そいつらをさっき斬り殺しただろ。

 今更躊躇うかよ」

 実際に目の前で切り捨てたのだから信じないわけにはいかない。

「けど、これから戦い続ける事になるぞ。

 今日殺した奴らだけじゃない」

「あいつらの最後の一人が死ぬまでやってやる」

「…………」

 決意というには凄惨な思いである。

 聞いたゴブリンの隊長は絶句してしまう。

(そこまでやるのか?)

 実現できるかどうかはともかく、そこまで思い込むというのがすさまじい。

 だが、それだけの気持ちがあるならば、古巣に戻る可能性は低そうに思えた。

(いったい何があった。

 何でそこまで……)

 そこまでの決心をさせたのはなんなのか。

 その理由に興味がわいた。

 だが、今はまだ話したくないというのだ。

 それを聞き出すことは無理だろう。

 しかし、そんなユキヒコを信じてみようとは思った。

 その思いに賭けてみようと。



「分かった」

 ゴブリン班長はそんなユキヒコに応える。

「あんたを信じよう、今はな」

「そう言ってくれると助かる」

 そこでユキヒコは大きく息を吐いた。

 自分でも気づかぬうちに緊張していたようだった。

 吐き出したあと、体から緊張が抜けていくのを感じる。



「それじゃさ、教えてほしいんだが」

「何をだ?」

「まずはあんたの名前。

 なんて呼べばいい?」

「それもそうだな」

 ここに来て、お互い名前を名乗ってないのに気づく。

 これからともに行動していくなら、それくらいは知っておかねばなるまい。

「俺はユキヒコだ。

 あんたは?」

「グゴガ・ル。

 こいつらの班長をしている」

「そうか、よろしくな」

「ああ、よろしく」


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