387回 こんな時に見いだす、悟ってしまう次の段階
思うのはこの宇宙の在り方。
そこにある気の流れ。
それは膨大で強力で、個人の力など及ばないものだった。
また、それらが織りなす複雑な絡み方は、あやなす糸のように一つの形を作っていた。
その一つ一つは己の意思や思い、願望といったものによって成り立っていて。
しかしそれらが複数合わさって重なり合いながら反発もせず。
それは見事に組み合って、一つの世界を作り上げていた。
自分の意思を通しながら。
そして、相手を損なわない位置を取りながら。
己の放つ存在感や力を発揮して。
そして、他者が放つそれらを受けて己を活かしていって。
そうして一つの大きな何かを成り立たせていた。
世界とはかくあるべし、という姿がそれなのだろう。
そう思える何かがあった。
覚醒階梯が上がり、様々なものが見えるようになって分かった事である。
世界はそうやって成り立っているのだと。
そして、ユキヒコが気になってるのは、その更に向こう側である。
それはこの世界、この宇宙という空間・時間の中の事ではない。
その向こう側、外側にある何かだ。
今まさに命の危機というこの状況で、ユキヒコはそんな事が気になっていた。
それは死の間際になって、心残りが浮かんできたからなのだろうか。
ユキヒコ自身にもそれは分からない。
だが、気になる事をそのままにはしたくなかった。
能力を拡大していく。
その能力を使って様々な事を探り、考えていく。
周囲から迫る圧力をしのぎながら。
余裕などほとんどないが、それでも気になる事を解析していく。
なぜそこに今注目するのかという疑問の答えを求めつつ。
宇宙の外。
この世界の外。
そこがどうなってるのか?
それは分からない。
ただ、自分が元いた世界がそこにあるのは分かってる。
前世の世界、地球の日本と呼ばれた場所。
そこでユキヒコは過ごしていた。
また、その地球で何度も転生をしていた。
それが何故か不思議な事に、この世界に流れてきてしまった。
(そういや……)
今までは忙しさ、イエルを倒す事に集中していた。
だからそういった事は考えないでいた。
しかし、考えてみればそれも不可解な話だ。
過去を振り返るに、どうも輪廻転生というのは同じ世界、同じ宇宙で起こってるらしい。
ユキヒコが思い出せる範囲では、知覚できる範囲ではそうなっていた。
もしかしたらそれが例外的な事なのかもしれないが。
だが、考えてみてもそれは少し特殊なように思える。
おそらくは偶発的な出来事。
それが起こったのだろう。
本当にそうなのかは分からないが、例外というのは何かしら起こりうる。
それが何故かユキヒコにも発生したのではないかと思えた。
事実はどうなのかは分からない。
少なくとも、今の段階では確認しようもない。
そして大事なのはそこではない。
別の世界、別の宇宙。
異世界とのつながり。
その経路。
そこが重要だった。
本来ならまず起こりえない、異世界への移動。
それが起こってしまった事。
その繋がりに注目する。
なぜそうなったのか?
どうしてそうなったのか?
そこはあまり重要では無い。
大事なのは、そういった出来事があったという事。
そして、その時の経験。
何をどう感じたのか?
それを確認する────自分自身に。
その時の現象そのものは既に終わっている。
だが、その時の体験はユキヒコ自身に残っている。
ならば、それを確かめれば何かが掴める。
それをまず自分自身から探していった。
すぐに見つける事が出来たその時の感覚。
霊魂の状態で漂っていた時の記憶。
それを元に逆算を始める。
感じた事、その時に受けたもの、それをはっきりとさせる。
それがなんであったのかを考え、その答えを元に更に計算。
それを続けて、元の元をたどる。
その結果見えてきたのは、宇宙と宇宙、世界と世界の繋がり。
宇宙そのものは虚無という大海の上に浮かんでる島のようなもの。
それぞれの間には虚無があり、通常ならば接点は無い。
だが、全く無いという事も無い。
ある意味、虚無を通じてふれあっているともいえる。
そこを伝って何かが渡る事もある。
それほど頻度が高いわけではないが、全くないわけではない。
その時の事を思い出し、宇宙間の接点を見つけていく。
(…………あれか)
程なくそれは見つかった。
その瞬間に、ユキヒコは迷わず飛んだ。
空間や時間すらも越えて。
この世界から虚無の中に。
虚無の中にあるかすかな道に。
ユキヒコは飛んでいく。
行く先は、こことは違う世界。
別の宇宙。
そこを目指して、ユキヒコは飛んだ。
あらゆる束縛、あらゆる拘束。
閉鎖されていた全てを越えて。
中立を名乗る調和と均衡を名乗った存在は、その事に驚いた。
何が起こったのかと思った。
抜け出せないはずの場所から消え去った。
その事実に困惑する。
その世界において、おそらく最高峰に位置するそれにすら理解出来ない事だった。
「…………なにが?」
その答えが分からぬまま、ユキヒコが消え去った一点だけを見つめる。
「いったい…………」
疑問だけを抱いて、中立・調和・均衡の者は呆然とした。
呆然とするしかなかった。
虚無の、虚空の中をユキヒコは進む。
転生先の異世界から飛び出して。
その先を目指して。
いずれは戻るにしても、今は一旦退散する。
まだ自由に虚無の中を通れるわけではない。
一度進行方向の先にある世界にたどり着いた方がいい。
でないと、虚無にのまれて消滅する可能性がある。
そうならないように、まずは安定した場所にいく必要があった。
そうしてユキヒコがたどり着いたのは、懐かしい世界。
元々ユキヒコがいた宇宙。
その中にある、彼が過ごしていた星。
地球へとおりていく。
予想外の帰還になった。
<社ユキヒコの能力値>
体力 192 → 296
反射 206 → 299
判断 201 → 305
心意 214 → 378
知識・精神系統技術:
人界において知らぬもの無し → 宇宙の理を知る
運動・作業系統技術:
人界において出来ぬこと無し → 宇宙の仕組みを形作る
『転生者』
『覚醒階梯 7 → 8』




