386回 こんな時に何をと思うが、そんな事が大事だという事もあるだろう
中立、調和と均衡をもたらすと述べる者。
それが何者なのかは分からない。
ユキヒコの力をもってしても解析が出来ない。
そもそも、ユキヒコを空間的にも時間的にも隔離してる時点で、隔絶した力を持ってる証拠である。
それを相手に抵抗しても、さほど長くはもたない。
出来ることといえば、さっさと逃げるくらいだろう。
あるいは、あるかどうか分からない隙を突くか。
しかし、そのどちらもやってる余裕はなさそうである。
圧力は一気に高まり、容赦なく押しつぶしてくる。
「くそっ……」
つとめて冷静になろうとするが、そんな気持ちの余裕などない。
この状況から逃れる術が見つからないのだから。
正直な心境は、泣き叫びたいところだった。
そうしないのは、そんな事をするのが無意味だと分かってるからである。
騒いで状況が改善されるなら好きなだけそうする。
たとえどんなに無様であっても。
しかし、無駄な事は極力したくないとも思っている。
そんなユキヒコにとって、状況打開に何の貢献もしない行為に数少ない余力をつぎ込みたくはなかった。
その余力もどんどんと削られていっているが。
「畜生!」
結局、悪態を吐くしかなかった。
そのままいけば、ユキヒコの命運は確実に尽きていった事だろう。
次元の違うほどに力量の差がある相手である。
普通に考えれば抵抗しようがない。
そのままならば、ユキヒコは潰されていくのだけだった。
しかし、それでもユキヒコはもがいていた。
力を展開し、己を守っていく。
中立を名乗る調和と均衡の者からの攻撃は続き、それにより次第に磨り減っていっても。
それでも諦めず、何とかする方法を考えていく。
何をするべきなのか。
何をされてるのか。
それを探っていく。
相手が何をしてるのか分からなければ、対策のしようがない。
それを少しでも見極めていこうとする。
そして、何よりこの状況からどう抜け出すか。
抜け出してどうするかも大事だが、今は先の事よりも目先の問題である。
逃げ出した後の手段があっても、逃げ出せなければ意味がない。
それが最大の問題だった。
しかし。
(…………?)
そこまで考えて、ふと思う。
何かがひっかかった。
確かに今の状況から逃げ出す事も大事だ。
しかし、それ以上に周囲の状況だ。
中立やら調和やら均衡やらをほざく何かが作ったこの空間の事ではない。
もっと大きな、この世界そのもの。
宇宙についての事だった。
(こんな時になにを……)
悠長だとはユキヒコ自身も思う。
だが、そこになにか大事なものがあるような気がした。
ここから逃れられるかどうかは分からない。
しかし、何かが気になった。
それはとても大事な何かに思えた。
なぜ、とは思う。
だが、あえてユキヒコはそれについて考えていった。
直観だった。
頭で考えれば今の状況でそんな事をしてる余裕はない。
しかし、どうしても気になってしまう。
こういう時、ユキヒコは自分の気持ちに従うことにしていた。
思ったとおりに動くことで状況が改善される事がほとんどだったからだ。
なので、今も気になるその事について思いをはせていった。




