385回 調和と均衡をもたらすと称してるが、それは本当に調和と均衡を保ってるのだろうか?
(なんだ!)
突如変わった周囲。
突然響いてきた声。
どちらも馴染みのないものだった。
何者なのかと思うのも当然。
その疑問に相手は答えず、
「手を引け」
と指示してくる。
「お前の行いは調和を乱す」
声はそう言いながらユキヒコに翻意を強いる。
「速やかに手を引け。
元の世界に戻れ。
あれはこの世界に必要なのだ」
それを聞いてユキヒコは怒りをおぼえた。
イエルを放置しろ、教団をそのままにしろと言ってるのだから。
「ふざけるな!」
叫び声があがる。
「あいつらを、あんな連中を残してどうすんだ!
どれだけ他の連中が迷惑を受けると思ってる!」
「それで良い」
声はあっさりとイエルと教団を容認した。
「あれはこの世に災いをもたらす。
悪と言えるだろう」
「……それが分かっててのさばらすのか」
「そうだ。
悪は必要だ。
善との調和をとるために」
「ふざけんじゃねえ!」
相手の言ってることに再度言葉を荒げる。
しかし、相手はユキヒコを無視して話を進める。
「この世界を保つ者として、全ての調和と均衡を保たねばならない。
その為に、あの者達は必要不可欠だ。
消すことはまかりならん」
「無駄な問題を作ってどうすんだ!」
「調和と均衡のためだ。
あやつらがより巨大になり、他の者達と対抗できるようにせねばならぬ」
「それで戦争を起こすのかよ」
「両者が互いに均衡を保たねばならぬ」
「争い合ってもか」
「当然だ。
調和と均衡を保つためだ。
それがこの世界の為になる」
調和と均衡を保つとのたまってる何かは、それを繰り返す。
会話にならなかった。
言葉は通じるが。
「調和調和って、争い合ってるのが調和かよ」
「全てが均衡をとるためだ」
「争い合って無駄死にを出す事がか」
「偏りをたださねばならない」
「無駄な争いを起こして何を言ってる」
「全ての調和と均衡は、あらゆる事より優先される」」
相手は全く聞く耳を持たなかった。
自分の行為が全てに優先されると思ってるらしい。
「なら、お前が死ね」
「出来んな、それは」
ここで初めて相手は違った反応を見せた。
「私はこの世界の調和と均衡を保たねばならない。
世界を安定させねばならない。
この大役を担わねばならない」
「お前は世界を混乱させて衰退させてるだけだ」
「私は世界に調和と均衡をもたらしている」
「さっさと潰れろ」
「それを崩すお前をたださねばならない」
「くたばれ」
出せる限界の力を用いる。
相手の居場所を探し、そこに向けて力を放とうとする。
幸いにも相手の位置を発見する事が出来た。
そこに向けて、出せる全力で攻撃をしかける。
しかし。
「あくまで調和と均衡を崩すというならやむをえない」
相手には全く効果がなかったようだ。
「残念だが削除する。
お前もこの世界の調和と均衡の一部であったのだが」
そう言って調和と均衡を口にする者は圧力をかけてくる。
逃げ場がないように全方位から。
空間だけではない。
時間の方向の道も塞いでいる。
さすがにこれでは逃げようがなかった。
「畜生!」
罵倒がユキヒコの口から吐き出される。
しかし状況が変わる事はなかった。
圧倒的な力だった。
逃げ道を塞がれ、全方向から圧力をかけてくる。
それは圧縮と言ってよいものだった。
ユキヒコを捕らえて逃さず、確実に潰そうとしている。
なんとかそこから逃れられないかと考え、周囲を探るがそんな隙はない。
調和と均衡を口にしてる者は容赦がない。
「私は中立を保つ者。
調和と均衡を保つために、あらゆる手を尽くす」
その言葉と同時に、すさまじい圧力がユキヒコに加えられていった。




