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38回 聖戦士と聖戦団────弱兵をもって勝つために

 聖戦団の者が拠点の中に入ってくる。

 それを見て、ユキヒコ達も動き出していく。

 相手から見えない位置で、静かに。

 建物に潜んでるゴブリン達に伝令を走らせていく。

 そうして、相手が奥まで入ってくるのを待つ。



 行動を開始するのは、聖戦団がある程度入ってきてから。

 そこで相手を捕らえて始末していく。

 拠点そのものを罠として、おびき寄せていく。

 建物があり、隠れる場所も多い拠点を、それにうってつけだった。

 その為にも、聖戦団の連中には奥まで入ってもらわねばならない。



(上手くいってくれよ)

 拠点内部に潜んでるユキヒコは、相手が思惑通りに動く事を願った。

 そのまま中に入ってきてくれればありがたい。

 物陰に隠れながら一人一人を始末していける。

 だからこそ、攻撃をしかける事もなく相手を引き入れたのだ。

 敵が防壁を越えて中に入ってくるのは、本来なら危険な事だというのに。

 あえてそうしたのは、この拠点そのものを相手を取り込む罠にするためだった。



 とはいえ、相手も馬鹿では無い。

 さすがに警戒してるようで、簡単に中に入ってこない。

 来るのは数人だけ。

 全体からすれば少数だ。

 偵察として少数を出して来たのだろう。

 様子を見るために。

 その慎重さと警戒心の高さは見事だと思った。

 味方ならこんなにありがたい事はない。



 しかし、敵に回すと厄介な事この上ない。

 こういう奴は大きな成功をする事はないだろう。

 と同時に、失敗無く物事を進めていくだろう。

 そして、小さな成功を積み重ねて大きな偉業にしていく。

 本当に賢明な者の行動というのはこういうものだと思わせる。

 おかげで、当初見込んだよりも戦果をあげづらくなっている。



(もっと入ってきてくれよ)

 出来るなら全員が中に入ってくれれば良かった。

 そうすれば、拠点の中で敵を殲滅する事が出来る。

 簡単ではないが、それなりに勝算はあった。

 むしろ、ここでないと勝算が立たなかった。

 ユキヒコが使える手駒はゴブリンしかないのだから。



 グルガラスに頼んだおかげで、周辺の部隊を集める事は出来た。 

 だが、その全てはゴブリンだった。

 当然ながら、戦力としては心許ない。

 そんなゴブリンを使って勝つとなると、手段は限られてくる。

 拠点の内部に敵を引きずり込むのは、そうした数少ない手段だった。



 敢えて敵を中に誘い込む利点は大きい。

 物陰に隠れる事が出来るのだ。

 防壁の内側は、住居や仕事に使う建物が並んでる。

 身を隠す場所には困らない。

 その為、相手に奇襲をかけやすい。

 待ち伏せしてる方が有利になる。



 この利点が無視できない。

 小柄なゴブリンなら、身を潜める場所に困らない。

 体力や能力で劣っていても、不意打ちなら出て来る。

 見渡しの良い平野ではこうはいかない。

 それよりも大きな理由もある。

 ゴブリンの臆病さだ。



 調子に乗ってる時のゴブリンはそれなりに優秀だ。

 有利な場面においては、勇猛果敢に挑んでくる。

 能力の低さが変わるわけではないが、恐れる事を知らずに突っ込んでいく。

 それで成功するか失敗するかはともかくとして。

 それでも躊躇う事無く突き進んでいくのは大きな利点だ。



 それは持って生まれた小心さによるものである。

 先の事を考える事が出来ない。

 自分にとって都合の良いことだけを考える。

 視野の狭さと言っても良いだろう。

 だからこそ、調子に乗る。

 そして先の事を考えずに突進していく。

 有利と思えば、後先を考えず突っ込んでいく。



 反面、少しでも不利と分かればさっさと逃げ出してしまう。

 保身がはたらき、我が身かわいさで危険から逃れようとする。

 そこに勇猛果敢さはない。

 もとよりそんなものを持ち合わせてゴブリンは数すくないだろう。



 この相反する行動の全てが小心さから来ている。

 もし本当に心に芯があるなら、こんな事はしない。

 不利であっても、踏みとどまってこらえるだろう。

 有利であっても、警戒をとかずに状況を見据えるだろう。

 そうしないで状況に左右されるのは、小心さによるものだ。



 だからこそ、ゴブリンの用いる方を考えねばならない。

 有利だと思えるようにしておく。

 不利にはならないと思い込ませる。

 そうして、勢いをつけさせる。



 勢い。

 これがゴブリンを扱いには必要だった。

 周りの状態によって一喜一憂する小者には。

 その為にも、可能な限り有利に戦える状態が欲しい。

 さもなくば、逃げ出す場所を無くすこと。

 背水の陣に持ち込まねばならない。

 拠点に敵を引き入れるのは、こういう状態にするためだった。



 物陰から奇襲する事で有利と思わせる。

 それが一つ。

 そして、拠点の中という逃げ場のない場所に追い込む。

 ゴブリンすらも。



 数では勝るゴブリンではある。

 今回集まった他の部隊もあわせて、総数は200を越える。

 やってきた聖戦団に比べて、何倍も有利だ。

 しかし、それでも勝利に繋がるとは限らない。

 最初の戦闘で負けがこめば、士気が簡単に崩壊してしまう。

 それこそ、最初の接触でもだ。



 先頭に立つゴブリンを倒す。

 これはゴブリンと戦う際の鉄則として伝わっている。

 そうすれば、倒したゴブリンの背後にいる奴らは怖じ気ずく。

 我先にと逃げ出し始める。

 あとは殲滅戦に移行すればいい。



 敵として対峙してた時にはそうしていた。

 だからこそ、総崩れにならないようにしていた。

 もしそうなったら統率などとれない。

 誰もが指示や命令を無視して逃走を図るだろう。

 それをどうしても阻まねばならない。

 その為に拠点の中にゴブリンを押し込める事にした。



 防壁は確かに敵を阻む為の壁である。

 しかし、一旦侵入を許せば、逃げ場のない牢獄になる。

 敵を遮る壁は、同時に脱出路の無い死地にもなる。

 その為、敵は防壁の外で食い止める事が求められる。

 これが普通であろう。

 しかし、ゴブリンによる集団ではそうも言えない。



 ゴブリンはすぐ逃げる。

 自分が生き延びるためにあっさりと逃げ出す。

 それくらい小心なのがゴブリンだ。

 この性質は基本的には変わらない。

 ごく一部には、そういった性質とは無縁な者達も居る。

 とはいえそんなのは、希有な例外である。

 例外は、標準や平均ではありえない。



 簡単に調子にのり、呆気なく惰弱に流れる。

 そんなゴブリンをまともに働かせるには、何らかの形で追い込むしかない。

 そして、追い込むならば逃げ場のない場所が最良である。

 それを考えてユキヒコは、拠点の中に敵を引きずり混む事にした。

 ゴブリン達から逃げ場を奪うために。



 こうなればゴブリンも戦うしかなくなる。

 そうなる可能性は出て来る。

 期待出来るほど大きな確率になるかどうかは分からない。

 しかし、それなりに動いてくれるのではないかという希望はある。

 希望するしかないのが残念な事でもあるけども。



 だが、逃亡一択でないだけまだマシだと思う事にした。

 それに、勢いはその場の流れで決まるものでもある。

 何ならユキヒコが敵を一人でも倒せばよい。

 それを見せればゴブリンが調子になる可能性はある。



(あとは……)

 もう一つの策が上手くいくかどうか。

 こればかりはその時になってみないと分からない。

(上手くいくといいけど)

 そこはグゴガ・ル達を信じるしかない。

 ユキヒコが最初に出会ったこのゴブリンは、例外と言える希有な存在だ。

 そういった者達を集めて、今は部隊として動いてもらってる。

 今はそんな彼らを信じるしかない。

 結果が上手くいくよう願うだけだ。



 ただ、不安を懐く一方で、どうにかなるだろうとも思っていた。

 何となくではあるが、これは成功するだろうと。

 味方のゴブリンや、相手の姿を見ていてだ。

 理由は特には無い。

 本当に直観的にそう思うだけだ。



 しかし、そんな直観が確信のようにユキヒコの中にある。

 どこまで信じて良いのかは分からないのに。

 なのに、今はそれを信じてみようと思った。

(信じてみるか)

 そういう直観が今までユキヒコを生きながらえさせてきた。

 気の流れを見る能力と共に。

 だから今回も信じてみようと思った。

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