379回 思い残しを全て無くし、敵を倒しにいく
がんばってもらうのはソウスケだけではない。
グゴガ・ルも、邪神官やイビルエルフも。
もちろんヨウセンも。
他のあらゆる者にも頑張ってもらわねばならない。
イエルに敵対する全ての者達に。
「こっからはなあ……」
ユキヒコが手を貸せない可能性が出てくる。
むしろ、その可能性しかない。
もし企てが上手くいけば、問題は全て解決するはずである。
その場合、他の者達が努力する必要は無い。
もし失敗したら、ユキヒコは死んでるはずである。
そうでなくても、行動不能になってる可能性は大きい。
となれば、助けたくても他の者を助ける事は出来ない。
結局、これから先、ユキヒコが何かしてやれるという事はない。
成功しても失敗してもだ。
成功すればまだ良いが、失敗した場合はもうどうにもならない。
せめて、共にあった彼らが上手くやっていけるよう願うしかない。
せめてもの餞別として、確保してある四角い肉の塊。
そこから霊魂を抜き出していく。
そして、ユカ以外の勇者と聖女達の霊魂。
それらをグゴガ・ル達に与えていく。
おそらく、これが最後の手助けになるだろう。
「……これで能力を少しでもあげてくれ」
そして、出来る事なら覚醒階梯をあげてほしかった。
その為の方法は既に伝えてある。
ユキヒコがここまで覚醒階梯をあげてきた方法だ。
それを少しでも役立ててほしかった。
「さてと」
あらためて覚悟を決める。
この先は、おそらく帰ってくる事の出来ない一本道。
それでもこの事態を解決するために、収拾するために必要と思える事。
少なくとも、ユキヒコの望む結末に向かう為に必須となるもの。
そう思うからこそ、この方法を実施していく。
「行くか」
あえて口にする事で決意を固める。
それが終わったところで、力を使っていく。
覚醒階梯が7段階目に入ったところで使えるようになった能力。
時間にかかわるもの。
それを使って、過去へと向かっていく。
元凶であるイエルを消滅させるために。
覚醒階梯を上げた事で、ユキヒコは相手の強さを知った。
単純な能力の高さではイエルにはかなわないと。
それは、崇拝という形で信者から力を得ている故である。
まがりなりにも女神と言われる存在だけの事はある。
一人一人から得られる力は小さくても、それを少しずつ継続的に得ているのだから、相当な力になっている。
小規模なエナジードレインを連続して行ってると言っても良い。
実際、崇拝という形で力を提供する行為は、自発的なエナジードレインと言ってよい。
生命に問題の無い程度に、後に回復可能な範囲で提供してるのが崇拝だ。
多数の信者を抱えるイエルは、それにより圧倒的な力を得ている。
直接戦って倒す事は不可能である。
だが、そうなる前の段階ならば。
まだ神を名乗る前ならば。
その頃ならば消滅させる事も可能だ。
ユキヒコの狙いはそれだ。
そこでイエルを倒す。
そんな事をすれば歴史が変わるだろう。
下手すれば、ユキヒコすら存在しなくなるかもしれない。
だが、それでも構わなかった。
こんな結果になってしまうような歴史など、尊重する価値などない。
変えることが出来るなら、とっとと変えてしまいたかった。
ただ、そうした場合に何がどうなるのかも分からない。
下手したら、ユキヒコの存在すらも消えるかもしれない。
ここはやってみなければ分からない部分だった。
しかし、それでもいいからこんな状態を覆したかった。
なんにしろ、結果がどうなるかははっきりしない。
それは、拡大した能力でもっても想像が出来なかった。
危険な賭けになる。
それを承知でやる事にした。
その為に、勇者と聖女、そしてユカを始末した。
もしかしたら、歴史の変更と共に、このような事態が起こらなくなるかもしれない。
勇者や聖女という存在が無くなる可能性はあるのだ。
しかし、そうならず、結局は悲惨な結果が生まれてしまうかもしれない。
だから先に彼らを処分する事にした。
どっちに転ぶか分からないから、先に処分をしておきたかった。
最悪、何も変わることなく全てが終わってしまうかもしれない。
そうなった時の為に備えて。
その時に、何事もなく勇者達がその後も過ごしてるなど、想像するだけでも耐えられない。
そういた下準備が終わり、ようやく本番である。
イエルを倒す。
その一歩をようやく踏み出せる。
(ユカ……)
過去に向かうその直前。
自分が手を下したかつての伴侶を思い出す。
唯一、霊魂を吸収した相手を。
そこから得られた彼女の記憶や想いを。




