378回 心ないものへの、心ない仕打ちは正当な扱いです 3
「…………変わらんもんだな」
勇者の反応を見てそう呟く。
他の連中もそうだった。
霊魂を収奪されていく連中の死に際はどれもこれも同じだ。
自分の存在が消えていく事への恐怖に耐えられず、無様な姿をさらす。
それが悪いとは思わない。
死ぬという事は生命体にとっては恐怖だ。
それでも輪廻転生があるならば、死後の世界があるならばいくらか耐えられるのだろう。
だが、その可能性すらも奪われてしまったならどうなるか?
みっともなく泣きわめくしかないのだろう。
それすらも当然と受け入れられるならともかく。
「でも、もう少しマシな死に方……消滅の仕方くらい見せろよ。
勇者とかいうなら」
愚痴が口から出てくる。
無茶な事を言ってるとは思う。
それでも、自分から大事なものを奪った奴なのだ。
もう少し他と違うところを見せてもらいたかった。
そう望むのは無茶なのだとしてもだ。
幾分拍子抜けしてしまうのは否めない。
ある意味、高望みのしすぎなのだろうけど。
「これで勇者かよ……」
呆れてしまう。
加護や奇跡を与えられ、絶大な力を振るうことが出来る存在。
それはつまり、与えられた力だけで問題を片付けたという事でもあるのだろう。
実力は全く関係なく。
そんな者達に、気合いや根性、覚悟や胆力を求めるのが無理かもしれない。
しかし、それでも修羅場をくぐってきたはずなのだ。
そこで培った何かを見せてもらいたいとは思った。
やらかした事にふさわしいだけの人物であったと。
それはそれで、対処が面倒になるのだが、せめてなるほどと思える部分を見せてもらいたかった。
ただ、最後の最後まで、自分の何が問題だったのか、という事には考えが至らなかったようだ。
それは消滅の間際まで頭の中を覗いていてはっきりした。
それは以前消滅させたソウスケの女房とその間男にも言える。
相手に悪いことをした、というような思いは確かにあった。
だが、それも仕方が無い事、と思っていた。
それは既に述べたように、貴族の婚姻などと似たような面がある。
本人の気持ちよりも、家の、ひいては勢力の方が優先。
結婚とは個人の結びつきではなく、家同士の関係強化の為の手段。
そういう感覚で、勇者と聖女の結びつきはなされる。
そこに個人の感情や、そいつが引きずってる関係など考慮される事はない。
言ってしまえば、役割の為に他を犠牲にする事を強要される。
人はどこまでいっても道具でしかなく、個人の気持ちや尊厳が省みられる事は無い。
勇者も聖女達もそんな社会の在り方に従ってるだけである。
あるいはそれが言い訳や理由になっている。
だから悪いことをしてるという思いは無い。
だからこそ問題だった。
そのやり方で問題が起こってるのだ。
何かしらの改善は必要だろう。
しかし、その改善を怠っている。
ならば問題はこの後も繰り返し発生する。
なんとかよりよい方向に変更していく必要がある。
しかし、それがなされてない。
その為に問題は繰り返し発生してしまう。
勇者と聖女はその象徴でもある。
それを放置して許すわけにはいかない。
様々な被害を出して利益を得ているのだから。
これらを許容しているわけにはいかない。
また、問題発生の原因と密接に関係している。
それなのに無関係と除外するわけにはいかない。
関係者として相応の処分はせねばならない。
でなければ、問題のあったやり方を認める事になる。
だから放置するつもりはなかった。
勇者と聖女達は、自分たちが何をしたのか理解してなかったかもしれない。
だからなんなのか?
分かってないからなんなのか。
やらかしたという事実に変わりは無い。
ならば、相応の対応をされるのは当然だろう。
何であれ、許してはいけない。
許しは悪への最大の援助である。
悪事を働いても無罪放免にされる。
そうであるならば、悪事を働いた方が有利である。
善良に生きている者達が損をする。
許しとは、善行ではない。
最悪の悪事である。
だからこそ、ユキヒコは勇者と聖女をこれっぽっちも許しはしなかった。
こんな事をしてたらどうなるのかを示す必要がある。
それを出来るならば相手に伝えていかねばならない。
──勇者と聖女を続けるならば、そいつらにはこういった末路を与えると。
それが多少なりとも抑止力になればと思いながら。
今後、勇者と聖女になれば、ただでは死ねない最後が待っている。
それが伝わっていけば、こんなものになる者も減るのではと期待して。
どうなるかは分からないが、その可能性は多少はあるかもしれない。
その為にも、敵内部に情報をまき散らす必要がある。
(ソウスケに頑張ってもらわないと)
そう思って今後の働きに期待する。
もっとも、それをユキヒコが見る可能性はかなり低い。
ただ、がんばってくれと願うしかない。




