377回 心ないものへの、心ない仕打ちは正当な扱いです 2
無くしてもまた手に入れればいい。
代わりがあればいい。
そういうものでしかない。
心より大事にしてる、かけがえ無いもの、という受け取り方はしていない。
だから平気で人の大事なものを奪える。
代わりがあればいいと考える。
損をしたならその分の埋め合わせをすればいいと判断する。
それは、掛け替えのないものなど存在しないから出てくる考えである。
代わりになるものなど何もない、そんな事が分からない。
そうした者達は、だからこそ人当たりがいい。
こだわりがない、愛着がない、執着がない。
ないからこそ、誰とでも打ち解けられる。
だが、そこに心が無い。
だから人の情を理解しない────する事が出来ない。
出来ないから、心を踏みにじる。
無いものを意識できないからだ。
ユキヒコにはそれが分かってしまった。
勇者というこの男、心の無い者だと。
人当たりは良いだろうが、相手の気持ちを慮る事が出来ない。
決定的に心が欠けている。
だからユキヒコの事も考えたりはしなかったのだろう。
折角だからと探った記憶。
暴いた心の内。
相手の精神を読む能力があるからこそ判明した。
目の前のこの男、勇者という輩には心がない事が。
そんな奴が自分の女房だった女をもてあそんでいた。
耳当たりの良い言葉で籠絡して。
その気もないのに愛をささやいて。
都合良く楽しむ為だけに。
「救いがないな────」
呆れるしかなかった。
こんなのに大事なものを奪われたのかと思うと。
今も勇者なる男が抱いてるのは、大切な人を失った哀切ではない。
大事なオモチャを無くして損をしたという気持ちだ。
それはそれで悲鳴をあげて泣き叫ぶ。
だが、どうしたってそこには心がこもってない。
「もういいよ」
あきれ果てながらユキヒコは勇者に狙いを定める。
「さっさと消えろ」
その霊魂を収奪していく。
「う……ああああああああ!」
霊魂が収奪されていく。
その感覚に勇者は悲鳴をあげた。
先に吸収された聖女達を見た時にも恐れを抱いたが。
自分がそうなると恐怖は格別である。
「やだやだやだやだやだやだあああああああああ!」
死ぬ。
存在が消える。
己が失われる。
どうしてもそれに本能的な恐怖を抱く。
また、次の人生がないという事も嫌でも感じ取る。
なまじ肉体から剥奪され、霊体になった事でそれが分かってしまう。
もう自分に今後はないのだと。
「やだああああああああ!
俺は、俺は、俺はああああああああ!」
俺は…………なんなのか?
それは叫んでる勇者にもはっきりとはしない。
ただ、これから先にあっただろう様々な可能性。
それを失ってしまう事への恐怖感とでも言おうか。
あり得た未来を失っていく。
これからを奪われていく。
その事への絶望が勇者に悲鳴をあげさせていく。
「まだ、まだああああ!」
まだもっと何かあったはず。
その可能性が消えていく。
自分自身が消えるというのは、そういう事だと本能で察知する。
痛みや苦痛もあるが、それとは別のもっと違った喪失や消失。
勇者と呼ばれた存在は、今それを感じていた。




