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376回 心ないものへの、心ない仕打ちは正当な扱いです

「分かってくれるかな?」

 おどけた調子で勇者に問いかける。

 つかみ上げてるユカにも尋ねる。

 一緒に過去の出来事、記憶という記録を直接頭の中に送り込んだ聖女共にも。

 その誰もが何も答えなかった。

 答えられなかった。

 彼らの常識からすれば、それがどうしたと言えるものである。

 例え過去がどうであろうと、聖女に選ばれたら勇者に添い遂げるのがあるべき道だというのが彼らの常識だからだ。

 それ以外の生き方など想像も出来やしない。

 しかし。

 今、それ以外の人生の在り方を見た。

 頭の中に直接流し込まれた。

 だからこそ、イエルの示している事以外の道についても思いをはせる事が出来てしまう。

 それでもこの世界で生まれ、この世界での、いや、イエル側の社会の常識が見せられた様々な事を否定する。

 否定するのだが、しかし。

 どうしても否定しきれなくなっている。



「というわけで、間男」

 勇者に声をかける。

「お前は俺から女を奪っていった」

 もう既にいない存在。

 ユキヒコに吸収されて取り込まれた者。

「アレが俺にとってどういうもんかは分かったはずだ」

 それがどれだけ大事なものであるのかは、既に伝わっている。

 ただ、大事なものを『アレ』と呼ぶほどに冷め切っている事は分かっていない。

 勇者はそこまでユキヒコとユカの事を理解していない。

 ただ、強制注入された記憶という記録に圧倒されてしまっている。

 どれほど二人が共に寄り添っていたのかを知って。

 そんな勇者という間男に尋ねていく。



「その落とし前、どうつければいいのかな?」

「…………」



「手を下したのは俺だけどな。

 でも、そうでもしないと決着がつかないからさ。

 だから始末した。

 そうしたくなるような事をしでかしたのはお前らだ」

「…………」



「ああ、それだけじゃないぞ。

 あいつも俺と同じ転生者だ。

 そのうち俺と同じように覚醒するかもしれねえ。

 そうなったら厄介だからな。

 だから先に始末した」

「…………」



「打算的だとは思うぞ。

 でもな、そうなったらお前らへの復讐が果たせなくなるからな。

 それだけはどうしても阻止しなくちゃならなかった」

「…………」



「あいつがお前らに情をうつしてるかもしれなかったからな。

 そうなってたら余計な面倒が増える事になった。

 だから、それだけは絶対に阻止しなくちゃならなかったんだよ」

「…………」



「そこまでしなくちゃならないような事をしてくれて。

 本当にどうすりゃいいんだろうな?」

「…………」



「まあ、聞いても答えなんか出ないだろうけどさ」

「…………」



「でも、お前らを放置するつもりはない。

 反省とかも必要ない」

 そういうユキヒコは、これ以上なく晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。

「ただ、死んでくれ。

 消滅してくれ」



「償いもしなくていい。

 地獄に落ちなくてもいい。

 存在している事そのものが苦痛だ。

 目障りだ。

 だから消えてくれ」

 そういってユキヒコはエナジードレインを施していく。



「まずはあいつら、お前の女からだ」

 そう言うと。聖女達から霊魂を抜き出していく。

 悲鳴をあげて干からびていく聖女達。

「あ…………あああああああああああ!!」

 勇者は悲鳴をあげてそれを見つめていった。



「うん、良い声だ。

 是非、君にも知ってもらいたい」

 淡々とユキヒコは告げる。

「自分のもんが消えていくってのがどんだけ辛いのかを」

 その苦痛を少しは知ってもらわねばならない。

 多少は自分の感じたものを体感してもらいたい。

 そうでなければやるせないものがあった。

 とはいえ、そこまで期待してもいない。

 相手が反省をするとは限らない。

 心ない者ならば決して相手の気持ちなどくみ取りはしないのだから。

 また、教えを狂信してるような者、そんな自覚すらなく教えに従ってる輩にも。

 こういった者達が相手を慮る事は決してない。

 だからこそ、反省も後悔もせずに何でもやってしまうのだろう。



 そういった連中にあるのは、せいぜい喪失感だけだろう。

 大切なものを失ったという気持ちにはなる。

 だが、それは大切なオモチャなどを無くした、というようなものでしかない。

 それか、何かを無くして損をした、というような。

 利害や打算の延長でしか無い考えである。

 そこに、心は存在しない。

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