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374回 過去、かつてあった日々

「さて、間男」

 勇者に向けてユキヒコは笑顔を浮かべる。

 それは狂気をはらんだものだった。

 その声を聞き、その表情を見た勇者は、背筋に冷たいものを感じた。

 生理的なおぞましさを感じる何かに遭遇した時にように。

 そんな勇者に、

「お前らが強奪していった俺の女房の分。

 しっかり精算してもらうぞ、慰謝料を」

 そう言って笑みを浮かべて勇者をにらむ。

 決して笑ってなどいない瞳で。



 散々なぶりものにした聖女達。

 もとより手足は麻痺させてるので身動きはとれない。

 そんな聖女達の中からユカの髪を掴んで引き上げる。

「う…………」

 痛みに顔をしかめるユカ。

 そんなものなど気にもとめず、ユキヒコはそれを勇者の目の前にかかげる。

 持ち上げられたユカの足が地面から離れる。

 髪の毛だけで全身を吊され、苦悶を浮かべる。

 その顔を勇者の前につきつける。

「なあ、どういうつもりだ?

 他人の女房を強奪する了見てのは」

 問いかける声に勇者は、

「何をいってるんだ?」

という気持ちになる。



 確かにユキヒコとユカは恋仲…………そう呼ぶには淡い関係であっただろう。

 だが、決して夫婦というわけではない。

 事実上の婚約状態だったとはいえ、それは強固なものではない。

 それを女房と、配偶者と呼ぶのは無理がある。

 しかし。

「この世界の話じゃねえよ」

 ドスン、とユキヒコの拳が勇者の腹にめり込む。

 それだけで内臓が破裂し、体の中で出血が始まる。

 痛みと、それ以上の衝撃に勇者が意識を飛ばしそうになる。

 だが、そうならないようにユキヒコが意識を操作していく。

「ああ、まだ寝るなよ。

 これから説明するんだから。

 でも、その前に────」

 言いながらユキヒコは力を使っていく。

「────こいつには先に消えてもらうわ」

 言いながらユカにエナジードレインを施していった。



「────!!」

 声にならない悲鳴が上がる。

 ユカの霊魂がユキヒコに吸われていく。

 存在そのものをズタズタに引き裂かれ、形を失っていく。

 肉体を失い、霊魂の状態になるのとは違う。

 霊魂そのものが消えていく。

 存在そのものが消失していく恐怖。

 それをユカはおぼえた。

「いやああああああああああああ!」

 声にならない悲鳴が霊魂から放たれる。

 エナジードレインを受けた者達がそうであったように。

 ユカもまた同じような反応を示していく。

 そして、他の者達がそうであったように、体が干からびていく。

 そこに詰まっていた生命が消え去り、物体としての肉体だけを残していく。



 時間にしてわずか数秒。

 それだけでユカという存在は消えていった。

 この世からだけではなく、宇宙からも。

 霊魂の世界からも。

 未来永劫、あらゆる場所から。



「……呆気ないもんだな」

 霊魂を吸収したユキヒコは、それだけを口にした。

 もう少し後悔があると思ったのだが、意外とそれはなかった。

 ただ、胸がごっそりと抜け落ちるような感覚がある。

 言葉にしきれない程大きな喪失感。

 それだけが残った。



 未練はある。

 出来る事ならば失いたくはなかった。

 それも自分の手で相手を始末などしたくなかった。

 だが、何もしないで許したくもなかった。

 やむをえない状況であったとは思うが、それを考慮に入れたとしてもだ。

 ここで放置してしまったら、それこそ後悔をしてしまうだろうという確信もある。

 だからこそ自分の手で全ての決着をつけた。

(これで良かったんだろうな……)

 そうしなかったよりも、こうした方がまだ割り切れる。

 そう感じたからこそ、ユキヒコは自分の手で全てを終わらせた。



 敢えて。

 敢えて今は、ユカを取り込んだ時に流れ込んできた記憶。

 それについては触れないでいた。

 やるべき事はまだ残っているのだから。

 回想も追憶もあとで出来る。

 だからまずは残ってる連中の処分にかかった。



 なにより。

 下手に過去を思い出して覚醒でもされたら面倒だった。

 それでユキヒコと同等の力を得られてしまったら。

 それこそ取り返しがつかない。

 最悪の敵としてユカが立ちはだかる可能性がある。

 それは絶対に避けねばならなかった。

 その為に、エナジードレインで霊魂を吸収し、存在そのものを消滅させた。

 反省もさせず、何があったのかの説明もせず。

 転生前の過去についても語りもせず思い出させもせず。

 そこまで徹底しなければ、取り返しがつかない事になりかねなかった。

 だからこそ、早急に処分した。

 せざるをえなかった。

 せめて最後に、何か一言でも語り合えればと思いつつも。

 それが暴言の応酬であったとしても。

 もう少し、会話らしい会話を、気持ちをぶつけるくらいの事はしたかった。

 既にもう遅いが。



 様々な後悔や未練を残しはした。

 しかし、それでもこれは必要な行程だったと思う事にする。

 円滑にこの世界に報復するための。

 何よりも、まずはこの場にいる屑共を処分するためにも。

 そのせいで、何も言うことなく、言わせることもなくユカを潰すしかなかった。

 その憤りを抱えながら振り返る。



「それと」

 そう言ってユキヒコは勇者と聖女達に振り返る。

「折角だ。

 俺とあいつがどんな間柄だったかを知ってくれ。

 その上でお前らにも少しくらいは考えてもらいたい。

 自分が何をやらかしたのか、イエルっていう屑がどんなことをしたのかをな」

 そういってからユキヒコの記憶を勇者と聖女達に送り込んでいく。

 相手の頭の中に直接。


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