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373回 再会のち、蹂躙 11

 勇者と聖女達からすれば、ユキヒコの言ってる事の方に非がある。

 確かに人の気持ちを無視して事を進めるのはどうかというところだ。

 しかし、世の中や社会の仕組みからすれば、それもやむを得ないものなのだ。

 女神イエルがそう示したのだから、それに従うべきである。

 個人の思いはどうあれ。

 それがこの社会の常識だった。



 イエルの指示というのを、貴族社会における婚姻と読み替えればわかりやすくなるだろうか。

 家同士、勢力争いの手段が婚姻である。

 そこに自由は無い。

 個人の意思や気持ちなど、貴族社会の成立のためにはとるにたらない事である。

 例え想い人がいようとも、それよりも派閥や勢力が優先される。

 むしろ絶対と言った方が良いほど守らねばならない事である。

 そこにどうして個人の感情が入る余地があるだろうか?



 どうしても聖女と一緒になりたいならば、なればいい。

 ただ、それは勇者と聖女の繋がりを認めた上での話になる。

 望むならば、聖女の愛人という立場にでも落ち着いていればよい。

 これは勇者の方も同じである。

 聖女以外の女と結ばれたいならば、それを聖女とは別枠の愛人として迎えれば良い。

 それがイエル側社会の通念だった。

 常識といっても良い。



 その場合、聖女の子供を育てる事も強いられる。

 例え自分の子でなくても、勇者の子であっても。

 聖女の愛人となった男にはそれが求められる。

 自分の子で無い者を育てることを。

 それが出来るなら好きにしろ、というのがイエルの教えであり教会の教義であった。



 そして聖女が勇者以外と交わる事は無い。

 あくまで聖女は勇者の伴侶であるし、それ以外の者との間に子を授かる事は無い。

 育児の負担だけが愛人となった男に課せられる事になる。

 当然、そんなものを認める男はいない。

 だから聖女になった女との繋がりは事実上断ち切られる事になる。

 愛人とならねばならない男に、なんの利点があるというのか?



 しかし、勇者と聖女、そしてイエル側社会ではこれが常識になっている。

 当たり前すぎて疑問を抱く方がおかしいという事になっている。

 同調圧力といってもよいだろう。

 例えおかしいと思っていても、口にするのも憚られる状態になっていた。



 そして勇者と聖女達はそんな常識を疑う事無く受け入れている。

 生まれた時からそんな環境にいたのだから無理もないだろう。

 だからユキヒコの言い分が理解できないし、受け入れられない。

 全てイエルの教え、ひいては社会の常識に反してるからだ。



「ふざけるなああああああああああ!」

 勇者の絶叫が続く。

 彼からすれば、訳の分からない理由で勝手な事をされてるのだ。

 文句も出てくるというものだ。

 しかし、そんなもの勇者と聖女、そしてイエル側の社会の通念を疑わない連中の話でしかない。

 大切なものを奪われたユキヒコが考慮するものではない。

 何よりそれらは、人の尊厳や自由を踏みにじっている。

 許されるようなものではない。



「そんなに興奮するな」

 叫び続ける勇者をなだめていく。

「ほら、こいつらもあんたの事は忘れてきてるし」

 そういって今相手にしてる聖女を見せつける。

 反応の良さを示すそぶりや動きは、確かに言い訳が出来ない状態になっていた。

「そのうちあんたの事も忘れるよ。

 こいつらはそういう奴らだから」

「うわあああああああああああ!」

 意味をなさない叫びが勇者からあがる。

 ユキヒコの言葉を全て否定したくて仕方ないようだ。

 だが、そんな勇者の思いとは別に、聖女達は確かにユキヒコの言ってる通りになろうとしていた。



 力のあるもの、優れたものに従う。

 それは生存戦略としては正解だろう。

 まして女ならば出産や育児の間、生活を他者に頼らねばならない時期が出てくる。

 ならばより稼げる相手に従うというのは悪くは無い判断だ。

 聖女達にとって、それは今まで勇者だった。

 だが、勇者が倒れた今、それは勇者を倒した者にうつろうとしている。

 それがユキヒコだったというだけの話だ。



「けど、そんな不義理は許さねえから」

 聖女達に釘を刺していく。

「お前らは勇者の女だ。

 だったら最後まで勇者と添い遂げろ。

 その覚悟もないのに尻を振ってたなんて許さねえ」

 裏切った事を許すわけではない。

 だが、やったならやったで最後まで貫けという事である。

 その結果最悪の事態に陥るにしても、自分で選んだ事ならば最後までやりとげろと。

 その都度、都合の良い方に鞍替えするなんていう不義理は許しがたい。

 そんな、うまみのある方への無賃乗車(ただ乗り)など、努力をしてる者への無用な負担でしかない。

「しっかり責任をとってもらうからな」

 嬲ってる連中にユキヒコはしっかりと言い渡した。

 相手がまともに話を聞ける状態でないのは分かっていたが、そんなの関係がない。

 言うべきはしっかりと言っておかねばならない。

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