372回 再会のち、蹂躙 10
欲望は悪くない。
むしろ、欲望こそ尊きもの、良きものといえるだろう。
なぜならば欲望とは、言い換えれば自由であるからだ。
自由、それは自分の好き勝手に事をなすというものではない。
己の意思を成し遂げたいという思いであろう。
それを否定してはいけない。
もしこれを否定すれば、人は自らの意思を持たない奴隷になるしかない。
ただ、忘れてはいけない事がある。
自分に欲望/自由がある。
そして、相手にも欲望/自由がある。
だから相手の欲望/自由を尊重せねばならない。
それでいて自分の欲望/自由も同様に大事にせねばならない。
自分だけ一方的に欲望/自由を貫けば、相手を踏みにじってしまう。
かといって他人の欲望/自由を尊重してるだけでは、自分を殺してしまう。
その釣り合い、上手く自他共に栄えるところを見いださねばならない。
でなければ、無用な衝突を生む。
ユキヒコがそうなったように。
今、勇者と聖女がそうなってるように。
一方的な蹂躙。
その点においてやってる事は今までと変わらない。
圧倒的な力で相手をねじ伏せる。
それをしてしまったからこそ、イエル側はユキヒコを敵にしてしまった。
今それをやり返されてる。
もっとも、勇者と聖女達がそこまで分かるわけがない。
彼らにはユキヒコについての情報がない。
また、身につけてる常識が邪魔をして、ユキヒコの行動を理解する事が出来ない。
何一つ不可解な事は無いのに。
だからこそ、ユキヒコによって恣にされる事に憤りもする。
「ふーん、かなしいんだ」
身動きが取れない勇者の前で、聖女達に精算をしてもらいながら問い詰める。
「でも、お前がやったことだろ
「やりかえされて、どうして腹をたてる?
「やられても我慢すればいいだろ。
俺はそう言われたし、そう強制されたぞ。
俺だけじゃ無いけど
「女をお前は…………お前らは奪っていった。
だから俺も奪ってるんだけど。
何かおかしいか?
「取られたのは、取られた方が悪いとでも?
だったら別にいいだろ、お前が悪いんだから。
取られるような事になってるのが悪いんだし。
「それとも、昔の事を掘り返すなとでも?
だったら余計にかまわないだろ。
今こうしてる事も、どうせ昔の話になるんだ。
「いつまでも過去にとらわれてるんじゃない。
新しい道に進め。
「そういう事だろ。
違うのか?」
ユキヒコがかぶせてくる言葉。
それに勇者は反発する。
理性ではない、本能の部分で。
感情もそこに加わる。
それはそうだろう、勇者からすれば自分の女を目の前で好き勝手されてるのだ。
憤らないわけがない。
過去のいきさつがどうであれ、それを認めるわけにはいかない。
それが彼のよって立つ社会や世の中、イエルの教えなどに反するからだ。




