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37回 聖戦士と聖戦団────進むもの、待ち受けるもの

「来たな」

 司令所で鳴る鳴子を聞き、ユキヒコはグルガラスに向く。

「作戦開始だ」

「おう」

 頷くグルガラスはその場にいる部下に命じる。

「始めろ」

 ゴブリン達が動き出した。



「それで、どうする?」

 伝令に走る部下を見ながら、グルガラスは尋ねる。

 問われたユキヒコは、慌てることなく返答した。

「手順通りに。

 上手くいけば、一気に叩ける」

「分かった」

 頷くグルガラスはユキヒコが既に示してる通りに動いていく。



(とは言え)

 口では軽い調子で言った。

 しかし、ユキヒコも不安を抱えていた。

 相手は聖戦団。

 教会直属の戦闘集団だ。

(いけるか?)

 正直に言えば不安がある。

 義勇兵だった頃に遠巻きに見た事がある者達。

 それはこの近隣では有数の戦力である。

 素人に毛が生えた程度の義勇兵とは違う。



(面倒だな)

 素直にそう思う。

 強固な組織力としっかりした戦闘方法を身につけた連中だ。

 ほとんど雑兵な義勇兵とは違う。

 全員が戦闘訓練を受け、集団行動を身につけている。

 ゴブリンで太刀打ちできるかは、正直に言えば疑問があった。



 戦闘訓練を受けていても、所詮は個人の能力の範疇。

 基本的には自分の経験と勘に頼る戦闘方法から抜け出せない。

 そんな義勇兵とは力量が各段に違う。

 手強い相手になるのは間違いない。



 更に崇拝をもとに、強固な意志と士気を持っている。

 劣勢になっても逃げ出すような事はほとんどない。

 最後まで統制をもって行動するだろう。

 敵に回すとこの上なく面倒である。

(味方でも面倒だったけど……)

 思い出しながらそうも思う。



 教会直属だけに、義勇兵とは指揮系統が違う。

 その為、軍と行動を合わせる事が難しい。

 また、崇拝対象とその教えをもとにして行動してるので融通がきかない。

 どうしても頑なに見える素振りを見せる事があった。



 その為、純然たる戦闘においては邪魔になる事すらあった。

 撤退すべき場面でもその場に残ったり。

 避けるべき戦闘であっても、かまわず戦いにいったり。

 そういう事があるので、作戦をこなすにあたっては結構厄介な連中である。



 味方として見た場合、そういう部分が邪魔ではあった。

 だが敵として対峙すると、これほどやりにくい相手もない。

 あらためて聖戦団の面倒さが分かる。

 だが、逃げるわけにもいかなかった。



(この程度の連中でくじけてらんないからなあ……)

 先の事を考えれば、これは避けて通れないものだった。

 ユキヒコが相手にするのは教会である。

 それを含めた教会に与する者達である。

 これらと対立するなら、嫌でも聖戦団との衝突する。

 逃げるわけにはいかなかった。



 ここで、この程度の規模の相手に手こずるようでは先は無い。

 この先ずっと勝てないままでいる事になる。

 この先ずっと負け続ける。

 この先ずっと、逃げ続ける事になる。



(そんな訳にいくかよ)

 やる事は決まっている。

 前の前にい連中を叩く。

 必ず撃退する。

 そして勝利を手に入れる。

 ユキヒコがやろうとしてる事が成功するのか失敗するのか。

 それをはかるための試金石として、やってきた連中を撃退する。



(予行練習になってくれればいいけど)

 そう言うには大げさにすぎる。

 相手は練習ではなく本気でやってくる。

 必ず血みどろの戦闘になっる。

 しかし、ユキヒコにとっては予行練習でしかない。

 これからやろうとしてる事の。

 だから、この程度で躓いてるわけにはいかなかった。

 退くわけにも。



 そんなユキヒコとゴブリン達の事などつゆ知らず。

 アカリの率いる聖戦団は拠点まで近づいていた。

 何にも阻まれる事なく。

 それが不安を煽っていく。



「静かだな」

 アカリが呟く。

 拠点が見える所まで近づいた。

 にも関わらず敵との遭遇はない。

 そして、目の前の拠点も。



 静かだった。

 物音一つしない。

 それが異常だった。

 拠点には200人から300人の人がいる。

 それだけいれば、賑わいみたいなものが自然と生まれる。

 なのに、そんな雑音が聞こえない。

 生活音が聞こえない。

 人がそこにいれば必ずある何かが無い。

 何もしなくても、人がいるなら息づかいがある。

 雰囲気がある。

 体温が発する温度がある。

 動き回る事で、働いてる事で発生する音がある。

 それらが一切なかった。



 言ってしまえば気配がない。

 全く無いという事はないのだろうが、普段の拠点とは違う。

 これまで何度かやってきた時とは違い、とにかく静かに感じられた。

「──周囲を警戒。

 何があるか分からんぞ」

「了解」



 指示を出す。

 それを受けてアツヤが動く。

 目的の拠点を前に、聖戦団に緊張が走る。

 すぐに動けるようにしていく。

 そんな彼等にアカリは次の指示を出す。

「誰か門へ。

 開門を申請してこい」

 その指示を受けて、数名が拠点へと向かっていく。



(大丈夫か?)

 指示を出したがアカリには不安があった。

 もし拠点に何か異常があったなら、門へ向かった者達も無事では済まないだろう。

 だが、そうしなければ何も分からない。

 それで門が開けば良い。

 中に誰かがいて、こちらに応じたのだから。

 その者から連絡途絶の理由を聞けば良いだろう。



 だが、そうならなかったら。

 門に向かった者達もただでは済まない可能性がある。

 拠点が敵に占領されていた場合、開門に向かった者達が襲われるかもしれない。

 たったそれだけの行動が、とても危険な作業になっている。

 だが、残酷な判断もある。



 もし、開門が上手くいかなかったら。

 そこで何かが起こったならば、その場で引き返す事が出来る。

 異常事態があった、という情報を得る事が出来る。

 門に向かった者達は犠牲になってしまうが。

 それをどうにか回収して、そのまま撤退すれば良い。



(何もなければいいけど)

 そう願うが、こればかりはどうなるか分からない。

 だが幸いな事に開門に向かった者達は無事だった。

 襲撃されるような事もなく、開門を求める声をあげていく。

 それに応じて門は静かに開いていった。

 そこにおかしな所は何も無かった。

 だがアカリは、言いようのない不気味さを感じた。



(なんだ?)

 おかしい、と思った。

 直観的に、本能的に。

 何かが違う、いつもと違う。

(何が違う)

 過去の出来事を振り返っていく。

 その時とは何かが違うと思ったのだ。

 理由はすぐに分かった。



(……なぜ返事がない?)

 いつもならば、開門する時には返事があったはずだ。

 人の姿が見えたはずだ。

 だが、今回はそれがない。

 返事も無く、出迎えの人影もない。

 そう思って見てみれば、門の上に作られた櫓に誰もいない。



(おかしい……)

 何もない、だから異常だった。

「どうします?」

 隣にいるアツヤも気づいたようだった。

 その上で尋ねてくる。

 これからどうするのかを。



 進むのか退くのか。

 進むにしても、どうやるのか?

 全員で行くのか、何人かを先行させるのか?

 退くなら、その手はずは?

 はたまたそれ以外の何かをするのか。

 今後のあらゆる事についてどうするかを尋ねてきている。

 少しだけ迷ったが、アカリは妥当な選択をしていく。



「様子見に数人を出せ。

 中の様子を探らせろ」

 反応が無かったわけではない。

 確かに門は開いた。

 ならば、少しは様子も見なければならない。

 その為に、少人数を中に向かわせる。

 さすがに全員で出向くわけにはいかない。

 何かあった場合、全員が危険にさらされる事になる。



「中に入って様子を見てくればいい。

 様子がおかしいならそれを確かめてこれればいい。

 もしいつも通りなら、それはそれで良い」

「分かりました」

 頷いてアツヤが動いていく。

 それを振り返る事もなく、アカリは開いた門を見ていた。


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