368回 再会のち、蹂躙 6
偵察や潜伏を専らとする聖女は、その能力を使って急襲しようとした。
物陰や視界の外を伝い、気配を消して接近しようとした。
だが、その全てが見破られていった。
近づく事は出来るのだ。
しかし、背後から、頭上から、あるいは足下から攻撃をしかけようとした瞬間に、それらは全てはじかれた。
見えない障壁などがあったわけではない。
ナイフを持つ腕、蹴りを放つ足。
それらを直前でユキヒコははじくのだ。
そして、攻撃を仕掛けた彼女を掴むと、放り投げる。
聖女はそれで元の位置まで戻される。
それを何度か繰り返して嫌でも理解する。
相手が遊んでる事を。
接近する事を許し、攻撃を直前までさせてはじき返す。
何をしても、どこから迫っても絶対に負ける事は無いから出来る事だった。
「くそっ!」
隠密行動に自信を持っていた聖女は、それでも何度も挑んでいく。
その回数と同じだけ失敗を積み重ねもする。
さすがに彼女もそんな事が続けば嫌気がさす。
気力が摩耗する。
もうダメなんじゃないかと思っていく。
実際、それは無駄で駄目な行動でしかない。
どれほど隠密行動・隠形に特化した聖女であろうとも、元の能力が全然違うのだ。
ユキヒコにかなうわけがない。
失敗すると決まってる行動、それを繰り返すだけである。
それは無駄としか言い様がない行為であった。
攻撃魔術も同じである。
加護や奇跡によって強化された魔術。
それを用いてもユキヒコに攻撃が届くことはなかった。
全てがユキヒコに当たる直前に消滅する。
魔力がユキヒコに直撃する前に消散していくのだ。
では、自然現象を発生させて、それをぶつけてみても、これもダメ。
無数の氷の槍や、頭上から降ってくる雷。
それらもユキヒコに届く前に消えていく。
当然であろう。
魔術も自然現象も、今のユキヒコなら簡単に操作できる。
そんなものを無効化するなど造作も無い。
防御においてもそれは言えた。
せめて攻撃を和らげようと、ユキヒコとの間に遮るものを作ろうと奇跡や魔術が使われる。
それらもユキヒコによって全て粉砕されていく。
どちらも基本的には攻撃魔術と性質は同じだ。
純粋に魔力を用いるか、自然現象を操って効果を得るかだ。
それを攻撃か防御のどちらかに使ってるにすぎない。
ならば、それらを制御するなど簡単な事である。
ありとあらゆる手段が無効化されていく。
助ける事も出来ない。
撃退するなど夢のまた夢。
逃げようにも、その手段である転移・帰還の奇跡はもう使えない。
使えたとしても、すぐに追いかけられて連れ戻されるのは既に証明済み。
どうにもならなかった。
あとは、尊厳を守るために自決するくらいがせめてもの抵抗だろうか。
しかし、それすらも無駄であるのは、肉体消滅後に復活させられた聖女の一人によってこれも証明済み。
もうどうしようもない状況だった。
「やめろ、もうやめろ」
聖女達が叫ぶ。
彼女らに出来るのは、もうそれしかなかった。
当然、ユキヒコがやめるわけもない。
「うるさい」
雑音がうるさいので発生源を止める。
相手の肉体を操作し、声が出ないようにする。
麻痺と同じ要領なので簡単にできる。
それでも呼吸は出来るので、喉に息が通れば音は漏れる。
それもせいぜい呼吸音程度のもの。
意思や気持ちが伝わる事は無い。
耳に余計な言葉が入るのに変わりは無いが、邪魔になる事はなくなった。
「そこで見てろ」
そして勇者への攻撃を再開していく。
この時点で勇者と聖女達に反撃の手段はなくなっていた。
授けられた奇跡も使い切っており、その効果も切れている。
能力は多少優れた戦闘員というあたりであり、軍勢を相手に出来るほどの強さはない。
勝ち目などどこにもありはしなかった。
出来る事といえば、逃げるくらい。
それすらも封じられてるので、もう為す術が無かった。
さんざんいたぶられた勇者が、手足を粉砕されて寝転ぶ。
顎も砕かれてるので自決も出来ない。
そんな状態になってる勇者を、ユキヒコは起き上がらせて固定する。
土を盛り上げ、岩のごとく硬くし、それで拘束台を作っていく。
もちろん、そこに勇者をはめ込んで。
更に目を閉じられないように肉体も制御していく。
瞬きは出来るが、視界を閉ざす事は出来ない。
そうしてからユキヒコは、
「それじゃ、始めようか」
と宣言する。
何を、と勇者も聖女も思った。
答えはすぐに分かった。
聖女は身をもって。
勇者は己の目でそれを見ていく事になる。




