366回 再会のち、蹂躙 4
「なにが?」
疑問を口にする勇者への返答。
意図が分からない短い言葉への問いかけ。
それを口にしながらも、ユキヒコは答えを求めてはいない。
「何がどうした?
それを知ってどうする?
何を知りたいのかしらんけど」
どうでもいい事だった。
全てが。
何はなくとも勇者に関わる事ならば。
「どうせ無意味になる。
知る必要もない」
それなのになぜ手間暇かけて説明せねばならないのか?
しかも憎き相手に。
面倒で馬鹿げている。
鬱陶しい事このうえない。
「お前はくたばればいい。
それだけだ」
戦闘が始まる。
勇者が奇跡を使って能力を上昇させ、ユキヒコに襲いかかる。
それを見て聖女達もおのおのの役目を果たしていく。
能力強化に、自分たちに優位に働く結界作りに、防御力を向上させる障壁など。
女神に与えられた加護を使い、するべき行動をとっていく。
勇者と聖女の必勝パターン。
それを次々と展開していく。
しかし。
勇者はそれでも不利が覆るとは思っていなかった。
それは『戦術眼』の加護によって判明した事実だ。
だから奇跡の効果を全くあてにしてなかった。
ただ、何もしないでやられるわけにもいかない。
せめて一太刀はと思って攻撃をしていく。
聖女達は自分たちの力が敵に通じるとは思っていない。
『実際に自分の目で見て、相手の異様な力を知った。
その力に対抗できるとは思えなかった。
たとえ女神イエルの力があったとしても。
より強力な加護を得られるならば勝ち目もあるかもしれない。
しかし、そんなものを持ってるわけではない今、立ち向かってもかなうとはとても思えなかった。
それでも生き残る為に少しでも行動をしていく必要がある。
万が一にも、それ以下の可能性でも勝つ可能性があると信じて。
(でないと……)
そんな彼女らは共通する恐怖を抱いていた。
(私たちもあんな風に)
先ほどみた四角い肉塊。
それにされてしまう、そうなりたくはないという思いから行動していく。
全てはむなしく散っていく。
能力向上・技術上昇で得た力を、武装強化された武器にのせていく。
絶対命中の効果もつけて振るった刃は、確かにユキヒコめがけて飛んでいった。
しかし、前回の勇者と聖女がそうなったように、それらは逆に仕掛けた側に手痛い打撃を与えていく。
展開された不可視の力場によって武器や体は遮られていく。
しかし絶対命中であるが故に、命中するまで効果は続行されてしまう。
その為、命中させようとして前進する力と、遮ろうとする力場によって体に負担をかけつづける。
力場によって武器も体もすりおろされ、消滅するまでそれは続く。
それを勇者と他の聖女は実際に目にする事になる。
「おっと、あぶないあぶない」
武器と肉体が消滅して、霊魂だけになる聖女。
「確か、剣の聖女だったっけ?
それとも戦士の聖女だったか?
どっちでもいいけど」
言いながら霊魂に周囲にあった土塊や草木をまといつかせていく。
それらをもとにして、失った体を再構築するために。
「──勝手にしなれちゃ困るんだよ。
もう少し生きてろ」
言いながら物質を再構築し、生身の肉体を作っていく。
そこには、先ほど消滅した聖女が、生前のままの姿で再生されていた。
ただし、能力は大幅に下げられている。
人として生きていくのは問題ないが、戦闘能力はほとんどない状態で。
具体的に言うと、手足は麻痺状態にされている。
神経がつながってないという形で。
イエルの授けた奇跡は使えるが、それでもこの状態を解消する事は出来ない。
それが怪我や病気なら治療は出来るだろう。
だが、元々この状態ならば回復させようがない。
回復して元に戻っても、手足が動かない状態になるだけなのだから。
「他の連中がどうなってるのか、そこで眺めてろ」
戦線離脱を余儀なくされた聖女に、ユキヒコはそう告げて作業を続行していく。




