365回 再会のち、蹂躙 3
転移で逃れたユカ達は、彼女らの知る中で最も大きな教会にあらわれた。
単純に避難するだけならそこにやってくる事はなかっただろう。
だが、今回の目的はそうではない。
巨大な敵があらわれた事、これを伝えるためである。
その為、この近隣では最も大きな教会にやってきた。
本来なら教会の中枢に飛ぶべきだっただろう。
だが、そこにまで届くほどの転移能力は与えられてない。
やむなくこの地方の中心である教会にやってきた。
それでも、事の次第を伝えるには十分ではある。
出現した場所は教会でも特別な場所。
勇者や聖女の転移先として座標固定されてる部屋だった。
人が近寄らないようにされてもいるので、転移しても何かにぶつかる危険は少ない。
ただ、部屋を出れば比較的職員の多い場所に出る。
声をかければ即座に対応できるようにする為だ。
「急ごう」
その声に頷いて、ユカ達は部屋から出ていこうとした。
しかし、
「どこに?」
背後からの声に足を止める。
振り返った聖女達の目には、転移前に見た男の姿がうつった。
「どこに何しにいく?」
驚き呆然となる聖女達。
そんな彼女達をとりあえず麻痺させる。
「黙ってろ。
騒ぐな。
余計な事をするな」
そう言ってから、目の前にある扉を吹き飛ばす。
勇者・聖女の移動・帰還用の部屋の扉は、あっさりと吹き飛ばされた。
その向こうにいた教会の職員達が驚いて目を向けてくる。
それらを見てユキヒコは、無表情・無言で力を使っていく。
それは変異の力だった。
人を人の形から変容させていく。
対象となった者達は、即座に人の形を失っていった。
身体構造も変えられていく。
その結果生じたのは、丸い肉塊だった。
頭も手足もない、かろうじて生命体と呼べる物体。
血肉を持つ、人手は無い何か。
教会職員達はそんなものへと変異していった。
「な……」
「なに、これ」
「うそ……」
聖女達が呆然としながらその変異を見ていく。
異様な光景だった。
人が、手足や頭を胴体に吸収されていく。
そして胴体が形を変えていく。
人の体だったものは四角い何かに形をかえる。
それでもそれを物体とは言えなかった。
直接触れてるわけではないが、見てるだけでも分かる。
形を変えたそれらの表面は、間違いなく人の肌の質感を備えていたのだから。
また、規則正しく膨張と収縮を繰り返している。
それは間違いなく呼吸の動きと、息継ぎの間隔だった。
生きているのだ、それは。
どこにあるのか分からない鼻や口で呼吸をしている。
おそらく皮膚の下には肉と内臓があり、血が通ってることだろう。
異形になってもそれは間違いなく生命体だった。
そう呼んで良いのならば、人であった。
「あとは……」
見える範囲の者達を四角の肉塊にしたユキヒコ。
自立的な行動がとれない形に変成し、意識や知能が残るように処理をしていく。
全ては殺さない為の措置だった。
殺すのは簡単だが、それではもったいない。
霊魂を無駄にするわけにはいかない。
(持って帰れば、あいつらの養分にはなるかな)
そんな事を考え、とりあえず保管しやすい形にした。
聖女達にそれを見せたのは、見せしめの為である。
逆らうとどうなるかを分からせるために。
口で言っても聞き分けが良くなるとは思わないので、実際にやってみせた。
効果は絶大で、聖女達は全員言葉をなくしている。
(よしよし)
それを確かめてから、今度は教会内にいる者達全員を対象にしていく。
全員の位置は既に把握している。
目で見る必要などない。
この教会にいる全てを対象に、ユキヒコは同じような変容を施していった。
司教や司祭といった高位のものを含め、この中にいた全ての職員が全て四角い肉塊になった。
また、建物自体も破壊していく。
教会からはイエルへの導線が存在する。
イエルとの繋がりを作っているそれを消すために、建物ごと破壊していく。
その前に生存している肉塊を転移させ、邪神官の所に一旦送る。
念話によって事情を手短に説明し、しばらくそのままにしておいてくれるよう頼む。
困惑する邪神官の気持ちが伝わってくるが、それでも承諾してくれたので胸をなでおろした。
そして転移で撤退した聖女達をつれて勇者のところへと戻る。
手間はかかるが、それでも構わなかった。
相手が少しでも奇跡を使ってくれたならそれでいい。
手数が減るのは歓迎するべき事である。
そうして戻ってきた場所で。
勇者はすぐ近くにあらわれた聖女達に唖然とする。
「どうして?!」
予想外の出来事への驚愕。
その声を放ってすぐに目にするもう一つの人影。
自分の前から姿を消した男の存在。
それを見て勇者は、
「なんで?!」
別種の疑問を口にする。




