362回 久しぶり、ごきげんよう、それでは始めよう 2
「なんだ……これ……」
呆然と勇者が呟く。
何せ空気が揺れたと思った瞬間に周りの全てが崩壊したのだから。
自分たちの館も、周りの町も。
風景が一変している。
賑やかな町が消滅し、大きな陥没が出来ている。
「ねえ……」
聖女の一人が声を出す。
「町の人は……どうなったの?」
誰もがその声に我に返る。
そして、その意味するところを考える。
答えはすぐに出てきた。
この状況からそれを導き出すのは容易だ。
だが、それを口にする事は誰にも出来なかった。
呆然としてる勇者と聖女達。
それを見下ろしながらユキヒコは、能力を使っていく。
瞬時に吹き飛ばされた数千の人間達。
それらの霊魂を集めていく。
エナジードレイン。
霊魂を養分として吸収する業。
それを用いて霊魂を異種族連合の神々へと送りつけていく。
成仏させる為では無い。
餌として提供する為に。
それは即座にかない、神々は送られてきた生け贄を吸収していった。
その事を勇者と聖女達は感じ取っていった。
曲がりなりにも神に仕える者達である。
相応の能力はもっている。
特に心霊や神霊に関わるような事ならば、並の術者や神職などよりも遙かに高い能力や技術をもっている。
そんな彼らだから、何が起こってるのかが分かってしまった。
「なんだ、これ……」
「誰が……」
言いながらその中心となってるところへと目を向ける。
彼らの頭上、空を見上げる。
そこに彼らは事の元凶を見つける。
「誰だ……?」
「敵……だよね」
「あれが……」
勇者達は全員ユキヒコを見上げる。
その中でユカだけが他の者と違う反応をみせる。
「…………ユキヒコ?!」
何故そこにいるのか、という疑問。
そして、この状況。
それが彼女に簡単な推理をさせていく。
「そんな……」
まさかと思う。
ありえないとも。
しかし、彼女の目がとらえたのは、決して忘れる事のなかった幼なじみの姿だった。
「ユキヒコ…………」
見下ろすユキヒコにもその気配は伝わってきた。
その仕草や態度がかんに障る。
神経を逆なでしてくる。
(狎れ狎れしい……)
ユカの考えも分かる。
それこそ手に取るように把握出来る。
彼女がユキヒコの事を幼なじみとして大事に思ってる事も。
かつての関係は昔の話であり、今は良い思い出としている事も。
その上で、今の連れ添いである勇者を愛してる事も。
(鬱陶しい……)
ユカの抱いてる感情や気持ちに反吐が出る。
そう簡単に割り切ってる事に。
勝手に過去の思い出にしてる事に。
ユカの中で、それが幸せな記憶になってる事に。
勝手に彼女の中でそうなっている。
怒りが頭を突き抜けていく。
腹立たしさが体を突破して天を貫いていくような気がした。
(ダメだな、こいつは)
この瞬間、完全に愛想が尽きた。
愛情が消えたわけではない。
今もまだ確かにある。
あるからこそ、その反転で感情が大きく動いてしまう。
(やってやる)
他の誰かには決してやらせない。
自分の手で、自分によって、自分だけで。
自分の為に全てを自分で行う。
もとよりそのつもりだった。
今、その決意を新たにする。
(一気にやらないで良かった)
やろうと思えば一気に殺す事も出来る。
実際、勇者達の…………いや、ユカの周囲に存在していた町は消し飛んだ。
そこにユカ達を加える事も出来た。
しかし、それはあえてしなかった。
一瞬で全てを破壊してはつまらない。
気が済まない。
(徹底的にやってやらないと)
だから殺さなかった。
生かしておいた。
望んだ形ではない。
しかし、行き着いた果てのこの状況。
それをユキヒコは何も否定しなかった。
時間はもう戻らない。
起こった出来事は覆らない。
だから、今この状況にふさわしい幕引きをしていく。
その為に何年もの時間を費やした。
そして今、ようやくこの時を迎えた。
嘆きや後悔はあっても、躊躇いはない。
ただ、望むままに全てを為すだけである。
<社ユキヒコの能力値>
体力 145 → 192
反射 152 → 206
判断 156 → 201
心意 178 → 214
知識・精神系統技術 +500% → 人界において知らぬもの無し
運動・作業系統技術 +500% → 人界において出来ぬこと無し
『転生者』
『覚醒階梯 6 → 7』
章の終わりに。
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