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36回 聖戦士と聖戦団────酷く静かで、だから逆に不気味である

 出撃の準備は存外早く終わった。

 全員、いずれ命令が出ると考えて準備をしていたからだ。

 その為、アカリが指示を出した時には、ほぼすぐに出発出来る状態だった。

「頼もしいな」

 手際よく動く配下にアカリも感心する。



 総勢50人。

 アカリの配下が一同に揃う。

 教会所属の聖戦士や兵士が中心となった部隊だ。

 これらが拠点の状態確認の為に出発する。



「既に聞いているとは思うが、目的は一つ。

 街道の状態確認。

 拠点の近くまで調べる事になる」

 訓示を始めるアカリ。

 それを全員微動だにせず聞いていく。



 目的は連絡の途絶えた拠点の調査。

 それは出撃する者達も既に聞いている。

 アカリの言葉はその確認になる。

 無理して拠点まで行く事は無い、というもの含めて。

 その途中で何かあればそこで引き返す事になっている。



 目的はあくまで様子見だ。

 建前でもそうなってる。

 なので、それほど無理をする必要は無い。

 むしろ、無理をして損害を出さない方が大事だった。



 危険な何かがあると分かったならば、すぐに撤退せねばならない。

 今は何があったのかを知るのが優先される。

 情報の確保が何よりも求められている。

 その為には、見聞きした事を確実に持ち帰らねばならなかった。

 勇敢に戦うことが目的では無い。

 迅速な撤退は何よりも求められていた。



 そうした訓示を経ての出発である。

 50人は途中まで運んでもらう馬車に分乗していった。



「出来れば、何事もなく帰りたいもんです」

 アカリの隣に座るアツヤがそう語る。

「まったくだ」

とアカリも応じる。

「少なくとも、拠点までは何も無いのがいいんだが」

 そうは思う。

 何もないのが一番だ。

 だが、そうはいかないだろうとも考えていた。



「やっぱり、何かあると思いますか?」

「そりゃあね。

 何も無いのに連絡が途絶えるなんて事は無いだろう。

 きっと何かがある」

「それが何なのか分からないのがきついですね」

「だから調べにいかねばならないんだ。

 仕方ないと思って諦めるしかないな」

「これも試練なんですかねえ」

「女神の試練はこんな形はとらんさ。

 これはあくまで不測の事態だ」

 それが教会の見解。

 そして、アカリの考えだった。

 もっとも、女神の意図をはかるなど、人間にはおこがましいとも考えている。

 不遜なものだと。



「そんなものを引き起こす輩なんて、決まってるがな」

「魔族……ですか?」

「そういう事だ。

 さもなきゃ、とんでもない不心得者の仕業だ」

 どちらにしても、放置するわけにはいかない問題だ。

「自然災害なのかもしれませんよ?」

「それならまだ良い。

 敵が攻め込んで来たわけではないのだからな」

「まあ、確かに」

 ごもっともな意見だった。

「ただ、それが原因なら、何があったのかを確かめないと」

 何にしろ、拠点まで行くしかない。



 その道中だが、意外なほどあっさりと進んでいけた。

 安全と思える限界まで馬車で移動し、そこからは徒歩。

 ある程度周囲を警戒しながらなので、進みは遅い。

 しかし、想定していたような妨害や襲撃などはなかった。

 監視はされてるかもしれないが、それらしい人影も見えない。



「妙だな」

「ですね」

 アカリとアツヤは怪訝そうな顔をしていく。

「待ち伏せも無いというのはおかしくないか?」

「ですね。

 魔族の襲撃があったなら、この辺りに見張りがいてもいいんですが」

 過去の経験からすると、そうなってるのが普通だった。

「これくらい離れた所に潜伏してるもんなんですが」

 言いながら周囲を見渡す。



 周りは見渡しのよい平原ではない。

 木々の生い茂る森林だ。

 密林という程では無いが、見通しはそれほど良くはない。

 隠れるならうってつけである。



「いつもなら、こういうところで奇襲をしてくるんだけどね」

「おかしいですね」

 潜伏からの奇襲。

 ゴブリンのよくやる手段である。

 そうしなければ勝てない程弱いから仕方ないのだろうが。



 ついでに言えば、そうした奇襲はたいてい失敗する。

 潜伏が下手で、一見してそれと分かるように身を潜めている。

 ついでにいえば、声を潜める事も出来ない。

 しゃべってる事が筒抜けで、仕掛ける頃合いまで伝わってくるほどだ。



 それが定番になってるから対策も警戒もする。

 襲ってくるなら返り討ちにするつもりでいた。

 ついでに生け捕りにして、情報を吐き出させる予定でもあった。

 なのだが、それが崩れてしまっている。

 安全なのだから、それはそれでありがたい事ではある。

 しかし、何もないのも不気味であった。



「魔族ではないのか?」

 そんな疑いも出て来る。

 別の要因で拠点との連絡がとれなくなったのかもと。

「それも調べてみるまで分からないですけどね」

 とどのつまり、今は何も分からない。

 そういう結論になる。



 出て来るのは予想や予測であって、事実ではない。

 だからこそ不気味だった。

 何も分からない、定番通りではない事が。

(嫌な感じだ)

 そう思いアカリは一抹の不安をいだいた。



 もちろん何もないわけではない。

 聖戦団が進む森の中にはゴブリンが潜んでいる。

 それも結構な数が。

 そのほとんどは街道を監視出来る位置にいた。

 姿が見えないようにしながら。



 それは常のゴブリンからはありえない行動だったろう。

 何せ、見つからないように気をつけてるのだ。

 おまけに、声も出さない。

 もちろんこれはユキヒコからの入れ知恵だ。

「おまえら、隠れてもいないし騒ぐから目立つぞ」

 そう注意して、初歩的な潜伏方法を教えていた。

 おかげで監視役のゴブリン達は、全員静かに身を潜ませている。



 何度もユキヒコと行動を共にする中で、ゴブリン達も成長している。

 喚き騒ぎながら突進するだけでは勝てない事も。

 そんな彼らはユキヒコの教えに素直に従うようになってきていた。

 それが勝つために必要で、何より生き残るために不可欠だと気づいていた。



 だから教えられた通りに静かに監視をしている。

 声を出さないように。

 たったそれだけの事だが、それを守るのはゴブリンにはつらいものがある。

 しかし、そこで自重するだけの忍耐をゴブリンは身に付けつつあった。

 それだけでも、ゴブリンからすれば大きな進歩である。



 そして、目撃情報を伝えるために静かに動き出す。

 身を潜めている塹壕にて、設置しておいた紐を引く。

 それは、離れたところにある待機所まで続く。

 その先で、鳴子がなるようになっている。

 これで何かが接近した事を早急に伝えられるようになっている。



 詳しい内容は、監視用の塹壕から走ってくるゴブリンによってなされる。

 これも浅くではあるが、掘り進めて作った塹壕によって行われる。

 そこならば、少し身をかがめれば駆け足が出来るようになっている。

 また、ゴブリンの小柄さも有利に働いていた。

 少しばかり穴を掘れば、そこに身を隠せるからだ。

 おかげで、見つからずに伝令を走らせることが出来る。



 そうして口から目撃情報も伝わっていく。

 より正確に敵の動向が。

 ほどなくそれは隊長のグルガラスまで到達した。

 これまでのゴブリンにはないほどの早さと正確さで。



 このことを聖戦団は知らない。

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