359回 準備は終わった、自分がいなくても大丈夫なようになってるはず、だから次の段階に進もう 2
最前線に殺到する異種族連合軍。
その勢いはとどまる事なく、地方を席巻しようとしている。
この事態に地方の重鎮達はなりふり構わず行動していく。
持てる戦力の全てを使い、敵の撃退に振り向けた。
常備兵力の軍だけではない。
志願者による義勇兵だけではない。
教会が保有する聖戦団だけではない。
予備役に回っていた兵士達の招集が始まっていく。
民間からの有志を更に集めた民兵も結成されていく。
更には、一人一人の意思を無視してまで行われる徴兵すらも始まった。
それは異種族連合軍に住む場所をおわれた者達から始まった。
仕事や生活を奪われた彼らのほとんどは、現在無職と言える状態だ。
それをそのまま遊ばせておくわけにはいかない。
難民となった彼らには、住む場所を取り戻す為に働いてもらうしかない。
そうした難民達も、自分たちの居場所を取り戻すために軍勢に加わっていく。
女子供や老人も、後方での作業に従事していく。
それは最前線だけでは無い。
まだ異種族連合軍が迫ってきてない後方でも行われていく。
比較的安穏としていた彼らは、いきなりの徴兵に驚いていく。
中には抗議をする所もあった。
しかし、状況が状況であり、一刻の猶予も無い。
文句は全て排除され、強引にでも人を引っ張る事になった。
徴兵される側からすればとんでもない横暴だろう。
しかし、全体を眺めて考えてる上層部は、こうでもしないとより悲惨な事になると考えている。
前線も後方もおびやかされている。
そんな状況でまともな生産活動が出来るわけがない。
まずは敵を退けねばならない。
その為にも、兵力が必要だった。
質ももちろん欲しいが、まず土台となる数を確保せねばならない。
それなくして、迫る敵に対抗する事は出来ない。
ただ、そんな事を知る事もない民衆達は、唐突にも思える徴兵に不満や文句を抱きもする。
彼らからすれば、安全な場所からいきなり危険な所に放り込まれるのだ。
言いたいことの一つも抱こうというものだ。
そうした気持ちはくすぶりながらも消えはせず、一人一人の心の中で燃え続ける。
いつか発火する火種として。
そんな爆弾を一人一人の胸に作ったまま、イエル側は戦争に対峙していく。
何かをきっかけにしてそれらは破裂するだろう。
そして、そういう事はおうおうにして最悪の状況で発生する。
それがいつなのか、どの場所でなのかは分からない。
だが、決して良い結果にならない事だけは確かである。
それでも指導者達は人々を戦場に送り込む。
片付けねばならない最大の懸念事項を払拭するために。
その為に新しい問題を作っている事に気づかずに。
上層部と末端の間に発生する食い違いやすれ違い。
いつでもどこでも発生するそれは、ここでもやはり生まれていた。




