358回 準備は終わった、自分がいなくても大丈夫なようになってるはず、だから次の段階に進もう
「さて」
事が終わったところでユキヒコは、仲間をつれて転移していく。
そして、一度全員と向かいあう。
「これからなんだけど。
しばらくは皆に任せたいと思うんだ」
そう言われて四人は驚く。
「どうしたんだ?」
「何をいったい」
戸惑う彼らにユキヒコは、
「決着つけてくる」
と告げた。
その一言で四人は納得した。
「そうか」
代表するようにグゴガ・ルが応じる。
「いよいよか」
「ああ」
頷くユキヒコの表情はどこか晴れやかだ。
「やってくるよ、あいつらを。
勇者と、あの女を」
その為の下準備であった。
村や町を潰すのも。
エナジードレインによって集めた霊魂を四人に吸収させたのも。
そうして四人を強化し、ユキヒコが抜けても問題がないようにしておく為だ。
「今の皆なら、勇者共が来ても問題ないと思うから」
その言葉通り、四人の能力は格段に上昇していた。
特に大きいのは覚醒階梯が更に上がったこと。
グゴガ・ルとソウスケは覚醒階梯4に。
邪神官とイビルエルフも覚醒階梯2に、それも次の覚醒階梯を目前にするところまで来ている。
いずれ更に上位に覚醒していく事だろう。
そうなれば、勇者と聖女ごときに遅れをとる事はない。
安心して彼らから離れて行動出来る。
「頑張ってこい」
グゴガ・ルが応援する。
他の者達も同じように、
「気をつけてな」
「加護がありますように」
「お前も上手くやれよ」
短くも心づくしの言葉をかけていく。
それを受けて頷くと、
「じゃあ、行ってくるよ」
そういってユキヒコは彼らの前から姿を消した。
転移によって目的地へと旅立っていったのだ。
見送るとは言いがたいが、それでも旅立つユキヒコを見送った四人は、少しばかり呆然となってしまう。
「行っちまったな」
「ああ」
残った者達は、ユキヒコが消えてもしばらくはその場に残っていた。
「上手くいくといいけど」
「大丈夫だろ、あいつなら」
心配といたわりと成功への祈願。
そんな思いが彼らからあふれていく。
なんだかんだでユキヒコには世話になった。
だからこそ、彼の努力に報いたい。
報えないまでも、彼を応援したい。
そんな気持ちを持っていた。
「まずは目の前の仕事だ」
邪神官が声をあげる。
「あいつはあいつで自分のするべき事をやりにいった。
我々もやるべき事をやろう」
「そうだな」
「違いない」
誰も文句は言わない。
「それに、侵攻も継続しないと。
折角これだけお膳立てしてくれてるんだから」
その通りである。
エナジードレインによる霊魂吸収。
それによる能力と覚醒階梯の上昇。
これは今後の戦争を考えての事だ。
ユキヒコが一時的に抜けても、その時に勇者がやってきても対応するために。
ならば、侵攻は継続し、戦争を続けねばならない。
それがユキヒコの意思なのだから。
「こちらから攻め込めば、敵にも隙が出来るだろうしな」
それも狙いの一つである。
前線に敵が集まれば、後方は手薄になる。
その分潜入するのも楽になるだろう。
また、一定の方向に動きが生まれれば、先を読みやすくもなる。
特に勇者と聖女ならば、ほぼ確実に前線に呼び出される。
そうなればユキヒコも探すのが楽になる可能性がある。
「それもそうだな」
「だったら、派手に暴れるしかないな」
「俺も背後に回って情報集めないと」
「こっちは前線の圧力を上げねばならないな」
もとより戦争は継続中である、
手を引くわけにはいかない。
ならば、それも用いてユキヒコの支援もしようとなっていく。
戦争目的に反するわけでもない。
「せいぜい引っかき回してやらないと」
結果として、それは敵に対する大きな打撃にもなる。
やらない理由は無い。
「それじゃ」
「やるぞ」
「おう!」
四人は気持ちを新たにして、それぞれの持ち場へと戻っていった。
グゴガ・ルとソウスケは覚醒階梯が上がった事で使えるようになった転移を用いて。
まだそこまで覚醒してない邪神官とイビルエルフは二人につれていってもらって。
そして四人の次の行動が始まっていく。




