357回 久しぶりの故郷、醜い思い出、あふれる憎悪 8
「ふざ、ふざ、ふざけるな!」
壊れた口でそう叫ぶ。
しかし村長はユキヒコの言ってることを理解してるわけではない。
そんなことが出来るほどの理解力は無い。
ただ、自分が死んでいく事だけを察しただけだ。
それもかなり惨たらしい方法で。
「なんでこんな!」
村長には分からない。
こんな目に遭う理由が。
ここまでされるような事をしたおぼえは、彼にはなかった。
そう、彼には身におぼえが全くなかった。
だからこんな事をされて憤りをおぼえていた。
それは彼の持ってる常識とはかけはなれた事だからだ。
理解できないから反省しようもない。
反省出来ないからただひたすらに怒る。
それだけである。
「分かった分かった」
適当にいなしながらユキヒコは処分を続けていく。
もとより話を聞くつもりなどない。
かつてユキヒコの言い分を全くきかずに事を進めたのだ。
取り合うわけがなかった。
「ほら、あんた以外の最後の村人だぞ」
そういって、重鎮達を処分していく。
自分の番が来たそいつらは、
「やめろおおおおおおおお!」
悲鳴をあげながらしなびていった。
それを村長は叫びながら見つめていった。
「それじゃ、最後だ」
村の広場に転がる、しなびたいくつもの死体。
それを背景にしてユキヒコがのたまう。
そんなユキヒコをにらみつける村長。
言葉はないが、怒りや憎しみがあふれている。
そんな村長にユキヒコは、つとめて平坦な声で、
「さっさと死ね」
告げた瞬間にエナジードレインをしていく。
奪われていく霊魂は、ユキヒコによって引きちぎられ、四人に分け与えられていく。
それはさほど時間もかけずあっさりと終わった。
静けさが残る。
人がいれば自然と発生する喧噪。
漂う気配や、かすかな音なども無い。
一瞬にして廃墟となった村は、早くも人の居ない寂しさを醸し出していく。
そんな村を見返る事も無く、ユキヒコは四人に顔を向ける。
「それじゃ、次に行こうか」
グゴガ・ル達は何も言わずに頷いた。
故郷の村。
それを潰して終わりではない。
この村にいた者は他の場所にも散らばっている。
他の村に嫁や婿に行ったり。
町に奉公に出たり。
そういった理由でこの場に居ない者もいる。
それらも逃すつもりは無い。
全員まとめて処分するつもりだった。
この際に、同じ村や町にいる者達も処分していく事になる。
目撃者がいても困るし、それで騒ぎが起こることは避けたい。
ならば、周囲に居る者達全員処分した方が早い。
幸いにも、町にしても数百人程度しかいないので、さほど時間はかからない。
可能な限り手早く片付けるつもりだった。
こうしてユキヒコの出身地一帯は壊滅する。
一晩にして一瞬に。
この事実はしばらくの間は知られる事もなかった。
町や村との間の行き来がそれほど頻繁では無い事が影響している。
また、戦争によって相互の連絡が取りにくくなってもいた。
それが分かったのも、行商人が訪れたからである。
この事はすぐに領主などに報告された。
しかし、まともな調査がされる事はなかった。
やはり戦争のせいである。
いきなり人が消えたのは問題だが、直接の脅威があるわけではない。
敵が侵攻してきたならともかく、そうでないなら原因解明などは後回しにされる。
一応、それも考えて偵察隊なども出されたが、その可能性はないと判断されると本当に忘れ去られていった。
そして、村と町の消滅は、役所の記録として残るだけになり、大きな話題になる事もなかった。
不可解な事件として人の口を渡っていく事はあったが、それすらもそう長くは続かない。
異種族連合の侵攻によって、それどころではなくなるからだ。
かくてユキヒコの出身地は誰からも忘れられていった。
物理的にだけでなく、思い出にすらならずに。
名実ともにそこにあった全ては消え去っていく。
それは存在の完全なる消去といってよいだろう。
誰かを犠牲にし、起こった問題を無かった事にした彼らである。
それが今度は、誰かの犠牲にされて全てを無かった事にされた。
村の人たちはこれで終了。
これじゃ全然物足りないかもしれないけど、これでどうかご容赦を。
もっと壮絶なものにしたいのだけど、これが限界だった。




