352回 久しぶりの故郷、醜い思い出、あふれる憎悪 3
広場におりながらユキヒコは、村の中にある魔術器具を集めていく。
通信に使えそうなものは特に。
緊急事態を告げられようとも、それで即座に敵がやってくるという事は無い。
だが、余計な騒動は今はまだ避けたかった。
敵が余計な警戒をすると面倒になる。
今後の作戦展開に影響を及ぼしかねない。
いずれここで起こった事が判明するにしても、それまで少しでも時間を稼いでおきたかった。
その為に念動力で物体を手元に転移させていく。
集めた器具が広場に落ちていく。
それらをユキヒコは、目の前で破壊していった。
それにより魔術や奇跡による通信は行えなくなる。
それを目の前でみた村の者達は、最初呆然とした。
それから、次第に青ざめていく。
何がどうしてそうなってるのかは分からないが、起こってる事が良い兆候とはとても思えなかった。
そんな彼らの頭上で光が灯る。
そびえ立つ土の壁の中を照らすために、ユキヒコが生み出したものだ。
それにより、目の前に何がいるのかが分かる。
「魔族?!」
「なんで!」
一目で分かるグゴガ・ルとイビルエルフ。
そして、イエルのものとは違う姿の神官。
それだけで相手がどんな者達なのかが分かる。
加えて、たいていの者が知っている顔がある。
新しい居住者には分からなかったが、昔からの住民ならば馴染みの者だ。
「ユキヒコ……」
「なんで……」
彼を知る者達は次々に疑問を浮かべていった。
「どうして魔族と」
「何かあったのか」
そんな声があがってくる。
彼らからすればそれはありえない光景だった。
イエルの信徒が魔族と共にいるなど、あってはならない事である。
ましてそれが、聖女を出した村の者など決して許される事ではない。
「何があったんだ」
村長が出てきてユキヒコに向かっていく。
その体が空に吹き飛ばされた。
近づいてくる村長にユキヒコは、衝撃を放っていく。
下から上へとたたき出すように。
それを受けた村長はひとたまりもなかった。
人間一人を瞬時に数メートルも跳ね上げる力が加わったのだ。
無事で済むわけがない。
骨も内臓もきしませて空に浮かび、地面に落ちる。
落ちた瞬間の衝撃で体に更に負担がかかった。
即死はさすがにないが、致命的な重傷に陥る。
そんな村長を見て、村人達は思わず後ずさった。
その足が一気にへし折られていく。
村長のみならず、村の者達全員にユキヒコは処置を施していく。
逃げられないように足を砕いていく。
村の中にいる者は例外なく。
さすがに赤子にまではしなかったが、自力で動ける者は残さず全て足を折っていった。
加えて腕も。
這いずり回って逃げないようにしていく。
そんな村人達の中から何人かがユキヒコの前に引きずり出される。
村長とその取り巻き共。
村の重鎮と言われる連中である。
ユキヒコにとって忘れられない奴らでもあった。
かつてユキヒコに、聖女になったユカを忘れろといった者達だ。
忘れるわけもない。
「久しぶりだな」
痛みにうめく連中に声をかける。
重鎮共はその声に反応しない。
痛みでそれどころではない。
そんな彼らをユキヒコは、更に痛めつけていく。
「──あぎゃああああああ!」
「ひぎいいいいいいいいい!」
「がっ、がっ、がっ、があああああっ!」
手足だけでなく全身を満遍なく痛めつけていく。
死にそうになったら回復し、それからまた体を壊していく。
それを数回繰り返してから再び声をかける。
「無視してんじゃねえ」
痛みにのたうち回る連中に聞こえるように、それなりに大きな声で。
それを耳にした者達は、ようやくユキヒコの方を向く。
「なにを……している!」
その声は尊大なものだった。
「お前は、お前は何をしている!」
そう言い放つ村長は、己の立場が分かってないようだった。
今、自分がどういう目にあってるのか。
誰が何をしてるのか。
それを把握する事が出来てない。
我が身に起こったことを振り返る事もなく、その理由や原因に思いをはせる事もない。
ただ、目の前に見知った顔がある。
その者との立場の違いだけを前提にして動いている。
今やそれがどれだけ変化してるのかも考える事もなく。
「──ぎゃああああああああ!」
再び村長は悲鳴をあげる。
とるべき態度を間違えたから。
それがまた何回も繰り返されていく。




